転がり始める


それはつい最近の話だった。


日本における…陰陽師、法術師や結界師。

我が国における魔法師や魔術師、魔法使い。


一括りには出来なかった異分子と呼ばれる者達がある組織により統一された。


それは、7芒星を二つ重ねたアールブと呼称する組織であった。





【北欧貴族による寄り合い】



「なあ、ミケ。お前、何かしたか?」

「僕?何かしたっけ…あ、アレかな」

「…何したんだよ」


ニヤリと笑う柔和な笑顔の、いや、猫のような表情ともとれる男ははち切れんばかりの笑顔で

「すっごく歌が上手い娘がいてさぁ!パパとママにお願いしちゃったんだよ!!特権階級の権利ってやつ!!!」と答えた。


「お前…一応は王室の一員なんだからさぁ。特権とか当たり前に使うなよな」


私はミケの乳母の息子、謂わば乳兄弟と呼ばれる関係である。

まあ私の方が幾許か年上ではある。


それ以外にも数人の身なりの良い人物が存在していたが、その二人を静観するしかなかった。


いわゆる身分の差、と言うものである。


ミケと呼ばれる若い男性は笑顔の奥底に曲げることのできない意思が垣間見えた。


私はこれから起こりうるであろう事象にほのかに辟易しながら彼の言葉に頷くだけであった。



その一室とドア一枚隔てた隣室。


そこにいた政府高官は頭を抱えながらも指示を出す。

「外事と海上幕僚長に連絡して下さい。もちろん量子暗号で」

直後にアスピリンを噛み砕き水をあおった。


政府高官などと濁しているが、その場にいるのは官房長官に他ならない。

この区画は日本領事館のテリトリー。

北欧理事会と呼ばれる北の政所で日本人だけが許されたエリア。


その暗号文が内閣官房長官から公安情報部へ情報が渡ったのは時差の影響で早朝だった。

もちろん慌てる事無く、対応する。


「国民保護措置に於ける現地避難誘導を実施する。現時点で海上自衛隊第21航空群、海将補に通達済みである。復唱!」 


公安幹部が呼び出された場所は官邸。

普通はここに居るはずの無い人物が複数並び立っていた。


政府より、特措法によって国防軍へと再編成するよう指示出しがあったのは公安でも事前に確認済みだった。


"専守防衛"を根底から覆す、その仕組みは直近の共和国に対する脅威度の変化から余儀無くされた。


そもそもの発端は宗教絡みだったが、その宗教が主とする者が住まう国に問題があった。


その国の特徴は、北緯38度線…それは2つ分断されたが一つの国だ。

地下ではある互いの政府同士が繋がっており、軍事力での支配を目論んでいた。


経済は南、軍備は北。

分割することで大国の目を眩まし、近隣国にはそれぞれの得意分野で懐柔を計った。


北は共産圏への軍事的配慮。

南は資本主義国への物理的な配慮。

特に南は近隣国での態度を陰と陽の政策をとる事により、遠くの大国と近くの島国に経済的な支援を得ている…八方美人な対策を取っていた。


それが変わったのは新型ウィルスの世界的蔓延がキッカケであった。

数年経っても経済面に打撃を与え続けるそのウィルスは南と共和国の共同開発だった。


途端に政策方針を変える分断された国。


その対策に周辺国は東奔西走させられた。


そして北の大国は、元公国で近年独立した国を条約機構に絡め取られるのを嫌い…その国に難癖を付けて宣戦布告した。


疲弊した経済を軍事経済で賄おうとする為に、共産圏を含めた国々が暗躍することになった。


戦争を興した国に対しての経済制裁で溜飲を落とした"正義"を名乗る国々は知らない…その引き起こされた戦争の影に壮絶な人体実験が繰り広げられている事に。







私はその隣室のバタつきに同情しながらも今後の展開を思考しながらミケに問い掛けた。


「で?何をしたいんだ?DIVA歌姫を囲いたい訳じゃないんだろう?」

「やっぱりわかっちゃうかー」

テヘペロと表現するに値するその仕草はあざといが、その瞳の奥は彼の祖先が信奉した六芒星が見えた。


「ボクはね、実は人間じゃ無いんだ」

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鑑定スキルで色々見えてしまいました…もう無理です。 火猫 @kiraralove

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