転がり始める


それはつい最近の話だった。


日本における…陰陽師、法術師や結界師。

他国における魔法師や魔術師、魔法使い。


一括りには出来なかった異分子と呼ばれる者達がある組織により統一されたのだ。


それは、三角形を三つ重ねたような五芒星と呼ばれる印を身体の何処かに必ず記す…自らをアールブと呼称する組織。



そして、それはすでに世界に波及していた。









北ヨーロッパには古くから理事会が存在する…いわゆる貴族の集まりだ。

その北欧貴族の寄り合いの場にはジュニア世代だけが集まったりすることがある。


だいたいが若者の他愛の無い話が中心のため、他国の目を欺くように緩衝材扱いされていた。



「なあ、ミケ。お前、何かしたか?」

「僕?何かしたっけ…あ、アレかな」

「…何したんだよ」


ニヤリと笑う柔和な笑顔の、いや、細眼で猫のような表情ともとれる男。

ミケと呼ばれたその男は、はち切れんばかりの笑顔で叫んだ。


「すっごく歌が上手い娘がいてさぁ!パパとママにお願いしちゃったんだよ!!特権階級のチカラってやつ!!!」


「お前…一応は王室の一員なんだからさぁ。特権とか当たり前に使うなよな」


残念な物を見るように片眼を瞑る…彼はミケの乳母の息子、ミケとは謂わば乳兄弟と呼ばれる関係である。

彼の方が幾許か年上ではあるからか、弟を窘めるようにも見える。


それ以外にも数人の身なりの良い人物が存在していたが、その二人を静観するしかなかった。


身分の差、と言うものであるのだが…関わりたく無い雰囲気でもあった。



「やれやれ…隣りは呑気なものだ」

その一室とドア一枚隔てた隣室には政府関係者達が意見を交わしていた…ただ一人眉間に皺を寄せていたが。


その場でのトップであろうその政府高官は頭を抱えながらも指示を出した。


「外事と海上幕僚長に緊急連絡。もちろん量子暗号で」

直後にアスピリンを噛み砕き水をあおった。


政府高官などと濁しているが、その場にいるのは官房長官に他ならない。

この区画は臨時で設置された日本政府のテリトリー。

北欧理事会が所有する建物内で日本人のために急遽作ったエリアではあるが、最新の通信機器以外は机と椅子しかない。

本来なら機密面であり得ない場所だが、敢えてそのお膝元での行動を官房長官が指示した。



政治不信真っ只中で対応に追われる首相に代わり国際会議に出席した官房長官。

実際には首相事勿れ主義者では対応しきれないだろうと幹事長の泣きで異例の処置となった結果である。


「…クソが」

「官房長官、落ち着いて下さい。返信が来てますから読んで…」

「落ち着けだぁ!?あのなぁ、私は危機管理能力を買われて抜擢されたんだぞ!それが何で…」

即時返信を受け取るとそれを握りしめて、当たり散らすように部下に説教が始まった。






量子力学を活用した暗号文が内閣官房長官から公安情報部へ情報が渡ったのは時差の影響で早朝だった。

もちろん慌てる事無く、対応する。


「国民保護措置に於ける現地避難誘導を実施する。現時点で海上自衛隊第21航空群、海将補に通達済みである。復唱!」 


公安幹部が呼び出された場所は官邸。

普通はここに居るはずの無い人物が複数並び立っていた。


代わりに、居るはずの官房長官は不在だ。


政府より、特措法によって国防軍へと再編成するよう指示出しがあったのは公安でも事前に確認済みだった。


"専守防衛"を根底から覆す、その仕組みは直近の共和国に対する脅威度の変化から余儀無くされた。

が、国民には公布していないし、もちろん周知されてもいない。


そもそもの発端は宗教絡みだった。

その宗教が主とする者が住まう国に問題があったのが原因である。


その国の特徴は、北緯38度線…それは2つ分断されたが一つの国だ。

地下では互いの政府同士が繋がっており、大国に対して軍事力での支配を目論んでいた。


経済は南、軍備は北。

分割することで大国の目を眩まし、近隣国にはそれぞれの得意分野で懐柔を計った。


北は共産圏への軍事的配慮。

南は資本主義国への経済的な配慮。


特に南は近隣国での態度を陰と陽の政策をとる事により、遠くの大国と近くの島国に経済的な支援を得ている…八方美人な対策を取っていた。


それが変わったのは新型ウィルスの世界的蔓延がキッカケであった。

数年経っても経済面に打撃を与え続けるそのウィルスは南と共和国の共同開発だった。


途端に政策方針を変える分断された国。


その対策に周辺国は東奔西走させられた。


そして北の大国は、元公国で近年独立した国を条約機構に絡め取られるのを嫌い…その国に難癖を付けて宣戦布告した。


結果、疲弊した経済を軍事経済で賄おうとする為に、共産圏を含めた国々が暗躍することになった。


戦争を興した国に対しての経済制裁で溜飲を落とした"正義"を名乗る国々は知らない…その引き起こされた戦争の影に壮絶な人体実験が繰り広げられている事に。







隣室のバタつきを気にしながらも今後の展開を思考しながらミケに問い掛ける乳兄弟。


「で?何をしたいんだ?DIVA歌姫を囲いたい訳じゃないんだろう?」

「やっぱりわかっちゃうかー」

テヘペロと表現するに値するその仕草はあざといが、その瞳の奥は彼の祖先が信奉した五芒星が見えた。


「ボクはね、実はただの人間じゃ無いんだ」

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鑑定スキルで色々見えてしまいました…もう無理です。 火猫 @kiraralove

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