魔装少女

四月朔日(わたぬき)

第1話 Jester

 私は幼い頃「魔法少女」にあこがれていた。世界の平和を守り、悪と華麗に戦う。そんな存在にあこがれを抱いて生きてきた。

 普通の子供ならば成長するにつれ夢と現実に折り合いをつけ、将来の夢は現実的なものへと変わっていく。しかし私は夢を諦められなかった。変わり者だと言われようが、その夢の実現のために全てを捧げてきた。私自身も、そして家族すらも・・・

「これで準備は整いました。さあ、始めましょう。誰が魔装少女になるか、その戦いを・・・」




「ね!カオリ!聞いた?新しい副担任の先生が来るんだって!」

 ボーイッシュな印象を与えるショートカットの「嶋野メグミ」が話しかけてきた。

「そうなの?かなり変な時期なのに」

 今は6月も半ばだというのに。

「ねえ、トオルは知ってた!?」

「知ってるわ。確か名前は葛葉かつらばレイコ先生だったかしら」

 きれいな黒髪を背中まで伸ばした、整った顔立ちの「隠岐村おきむらトオル」がいつも通りの落ち着いた口調で言った。

「なんでこんな時期なんだろうね~?しかも副担任って・・・」

 確かに担任の先生が変わるのなら、体調やプライベートの都合で変わることもあるかもしれないが、もともと副担任のいなかったクラスに赴任してくる・・・どういうことなのだろうか?

「まあ、何はともあれ新しい人がくるって楽しみだよね~」

「そんなのんきにしてる暇はないんじゃない?来週から中間テスト、あるよ」

「あああああ!そうだった!!」

「メグミは部活ばかりだから一切勉強してないでしょ?」

「今年は助けないよ。去年はひどい目にあったし」

「そんなご無体な~・・・」

 いつも通り私、メグミ、トオルの3人は冗談を言って笑い合う。将来に不安があるわけではないが、特に希望もない。できればいつまでもこの3人で笑い合っていたい。

 チャイムが鳴り、私たちのクラスの担任「神崎マイ」が入ってきた。

「はーい、皆さん聞いていると思いますが、このクラスに新しい副担任の先生がいらっしゃいます」

 扉が開き、髪の長い小柄な女性が入ってきた。

「今日からこのクラスの副担任になりました、葛葉レイコです。皆さん、よろしくお願いいたします」

 葛葉先生は落ち着いた口調で丁寧にあいさつをした。表情もあまり変わらずクールな雰囲気の先生だ。

「めちゃきれいな先生だね」

 隣の席のメグミがコソコソと私に言う。

「そうだね。でもなんていうか先生っぽくない気もするけど・・・」

「そうかなぁ~・・・」

 どことなく先生というよりは科学者とかそんな雰囲気を感じた。

 休み時間ともなるとクラスのみんなは葛葉先生の周りに集まり始めた。

「彼氏とかいるんですか?」

「好きなタイプは?」

 など質問攻めだ。男子高校生みたいなことばかり聞いている。ここは女子高だったはずだけど。

「すごい人気だね!」

「まあ、あんなきれいで小柄な先生なんて人気出るでしょ」

「そうね。この学校、男の先生の方が多いから」

 その時、葛葉先生と目が合った気がした。射るような視線にドキッとしたが、いつの間にか違う生徒と話している。気のせいだったと思う。





 学校帰りにいつものように3人で寄り道をしながら帰った。

「そういえばカオリって、明日誕生日だったよね!?」

 いつも寄るファミレスでメグミが言った。

「ああ、そういえばそうだった。忘れてたよ」

「自分の誕生日忘れるってある~?」

 私は誕生日を家族に祝ってもらった記憶はない。母は幼い頃に事故にあって死んでしまったし、それ以降父も研究所に入り浸るようになり、家に帰ってくるのは1か月に1度くらいだった。よく私自身、グレなかったものだ。

「誕プレ何がいい~?ま、高いもの言われてもあげられないけどね!」

「それ胸張って言うことかよ」

「カオリ、メグミがただでさえ少ないお小遣いをあなたに使ってくれるなんて滅多にないことよ」

「ただでさえ少ないって言うな!」

 3人は笑いながら放課後を満喫していた。

 2人と別れ、家へと帰る。ここ間穂尾市は首都圏へのホームタウンとして新しく作られた都市で、様々な商業施設や飲食店などが立ち並び、最近では最も住みたい街ランキングでは1位を獲るほどだ。

 私は母が亡くなった後、父に連れられこの新都市へと移り住んだ。父は科学者で、この間穂尾市に新設された「国立新科学技術研究局」の職員だ。父が何の研究をしているのかは知らない。幼い頃からあまり父と話した記憶がない。母が事故に遭い、入院していた時も研究室へ入り浸り、お見舞いにも来なかった。

 母はそれでいいと言っていたが、私はそれを許せなかった。家に父が帰ってきたときもなるべく顔を合わさないように、予定を入れたり、部屋に引きこもったりした。おそらく父も私に興味がないのだろう。手紙もおかず、生活費のみを置き、また研究室へと戻っていく。

「ただいま」

 誰もいないと知っているのに、つい言ってしまう。バッグをソファに置き、テーブルを見ると見慣れない赤い便せんが置いてある。

「?これは・・・?」

 「奇峰きみねカオリ様」と宛名を見ると私の名前が書いてある。

「私宛?」

 裏を見ても差出人の名前は書いていない。便箋を空け、手紙を取り出す。

「なにこれ・・・」

 手紙に書かれた文章はたった一文だけだった。

『おめでとう。今日がジェスターの誕生日だ』

 ジェスター?何のことなんだろう。よく見ると便箋の中に1枚のカードが入っている。これはタロットカード?

 大きく数字の0が描かれ、真ん中にピエロが描かれている。

 その時、大きな爆発音が響いた。地響きがして、家具が大きく揺れた。

「!?何・・・?」

 外に出て、周りをうかがう。私と同じように外へ出てきている人がいると思ったが、周りには誰もいない。違和感を感じ、道に出てもう一度周りを見渡した時、もう一度爆発音が響いた。

「いったい何が・・・」

 遠くに煙が上がっているのが見える。あそこで何か起こったのだろうか。あっちは父の研究室がある場所だ。

「お前がジェスターだな?」

 突然そう言われ、振り向くとローブをかぶった鳥人間のような怪人がいた。

「なに・・・?」

 動揺していると、その鳥人間は腕を振り上げ、私に向かって振り下ろした。

「きゃあああッ!」

 その時銃声が鳴り、鳥人間へと当たった。

「奇峰さん!早くこっちへ!」

「葛葉先生!?」

 拳銃を持った葛葉先生が走ってこちらへ向かってきている。何発か銃を撃ち、鳥人間を怯ませる。

「早く今のうちに!逃げて!」

 脚は震えていたが、何とかその場から駆け出し、逃げた。

「逃がすかぁ!」

 鳥人間が私を追いかけてくる。このままだと追いつかれてしまう。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

「ここで終わらせてやる!ジェスター!!」

 そう言って鳥人間は手から炎を出し、それを投げつけてくる。ドンッ!ドンッ!と連続した爆発音が鳴り、私を囲むように燃え始めた。

 もう逃げられない!そう思ったとき、

「奇ノ峰さん!」

 葛葉先生だ。拳銃を撃ちながら、私の前に立ちはだかる。

「彼女はやらせない!マジシャン!」

「アルカナの力に生身の人間が勝てると思っているのか?」

 なんの話をしているんだ?なんでこの鳥人間は私を狙ってるんだ?そして私のポケットから例のタロットカードがポロッと落ちた。

「まさか、奇峰さん・・・!こうなったら・・・!」

 葛葉先生は背負ったバッグから、小さな杖を取り出した。

 先端に天使の翼のようなデザインのものがつき、そのステッキの真ん中あたりにカードリーダーのようなものがついている。いわゆる魔法少女が変身で使う変身ステッキのような形だ。しかし、すべてシルバーに仕上げられ、シャープな印象を与える。

「そのカードをステッキの中に!早く!」

 私は落としたタロットカードを拾い、ステッキのカードリーダー部分に差し込む。

『Jestar!Activation of Magic Armed System!』

 機械音声が鳴り、足元に黒と紫の魔法陣が現れる。

「え、え、え!?なにこれ!?」

 足元からだんだんと光に覆われ、やがて全身が包まれた。

「見つけたぞ!魔装システム!」

 マジシャンと呼ばれた鳥人間は、ローブで隠されていた翼を広げそのまま私に突撃してくる。

 しかし、その突撃は魔法陣に弾かれ、吹き飛ばされた。

「ク、クソッ!先越されちまった・・・!」

 体を包み込んだ光は、黒と紫に変わり、弾かれるように光が放たれた。





 バイクのヘルメットのような銀色のバイザー、黒と紫のロングコート、革のような質感のロングブーツとグローブ。そして私の手には先ほどの変身ステッキが握られている。

 力が漲ってくる。今まで感じたことないほどに自信もわいてくる。

「奇峰さん!」

 葛葉先生が呼びかけた。

「まあいい。ジェスター!お前を殺して、そのステッキを奪う!」

 マジシャンは手から炎を出し投げつけてきた。

 その炎を私は腕を払い、かき消す。

「・・・!それほどまでの力が・・・!」

 手にした変身ステッキがいつの間にか剣のような形に変わっていた。

「奇峰さん!やらなきゃやられるわ!戦って!」

 今の私ならこの怪人相手に戦える気がする。

「ハアアアァァ!」

 剣を構え、マジシャンに向かって走る。

 私の斬撃を躱し、後ろに飛び退いたマジシャンは再び手に炎を宿し放つ。

 私はギリギリのところで躱し、宙を飛ぶマジシャンを追うように地面を蹴る。人間とは思えないほどの跳躍力でマジシャンに迫る。

「ハアァッ!」

 マジシャンを斬りつけ、地面へと叩き落す。

「ぐああああぁぁぁぁッ!」

 すぐさまマジシャンは体勢を立て直す。

「バ、バカな・・・!こんなど素人に・・・!」

 マジシャンの足元に赤色の魔法陣が現れる。周りが熱くなってくる。魔法陣を中心に炎が渦巻き、その渦巻いた炎が手に集まる。

「これで終わりなァ!マジック・アーツ・フレイム!」

 手から放たれた渦巻いた炎は槍の形になり、私の方に一直線に飛んでくる。

「奇峰さん!カードを裏面にしてもう一度ステッキに挿して!」

 言われた通り、一度挿し込まれたタロットカードを抜き、裏面にして差し込む。裏面には「Magic Arts Magic」と書かれていた。

『Magic Arts Magic! Finish Magic Time!』

 再び機械音声が鳴り、目の前に黒い魔法陣が現れ、私を通過する。すると、飛んできた炎の槍は私に直撃することなく、そのまま通り抜けた。

「なッ!馬鹿な!」

 もう一度、炎を手に集め、

「マジック・アーツ・フレイム!」

 炎の槍を投げつけてくる。私は裾を掴み、飛んでくる炎の槍を覆い隠すように裾のうちに仕舞った。そしてコートを払うと炎の槍は跡形もなく消えた。

「行くぞ・・・!」

 私は低く構え、地面を蹴り、走り出す。マジシャンは炎を投げつけるが、今の私にはその軌道が読める。すべてを躱し、腹部に剣を当て、切り裂く。

「ぐああああぁぁぁぁッ!!」

 マジシャンの体は吹き飛ばされ、やがて地面へ叩き付けられた。

「く、くそが!こんなところで・・・!」

 マジシャンの体は爆発し、跡形もなく消え去った。

「これが魔装システム・・・!」

 私の体はいったい?それにこの力は?




「先生、マジシャンが消滅しました」

「ついに始まりましたか。ジェスターの覚醒と、魔装ステッキを巡る戦いが・・・」

「私はどうすればいいでしょうか」

「今まで通り、カオリの監視を頼みますよ。彼女の体はとても大切なものですから」

「分かりました。引き続き、奇峰カオリの監視を続けます」

「頼みますよ。もし最後に魔装ステッキを手にしたのがあなたならば約束を果たしますよ。死神よ」

 死神と呼ばれた女性が部屋から出ていく。

「フフフ、さて、カオリが戦うための理由を用意しなくてはなりませんね」

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魔装少女 四月朔日(わたぬき) @watanuki_09

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