最後の候補者
4人ははっとした。バスに乗っていたのは5人、するとあと1人残っていたのだ。
犠牲課のカウンターに向かう1人の女性。その足取りは重く、生気を抜かれているようだった。
「
女はこくりと頷いた。
「娘さんの雅様が犠牲者の候補に上がりました。同意をいただけますか」
4人は鵺野を息を呑んで見つめた。
「……はい」
雄介の口がぽかんと開いた。
柊子の母が駆け寄った。
「鵺野さん、雅ちゃん死んでもいいの?」
真田が柊子の母に駆け寄り、小声で、まあいいじゃない、本人が言ってるんだから、とつぶやいた。
「うちの雅……死にたいって言ってました。クラスに馴染めなくて、学校行くのも辛くて。みなさんの話聞いてたらうらやましいなと思います。雅が犠牲になります、そしてその後私も後を追います」
「鵺野さん……」
雄介はなんと声をかけていいかわからなかった。いくら死にたいと言っていても、それを後押しできる親なんて想像できない。想像できないくらいの辛さをきっとこの親子は背負っているのだろう。しかしもしここで鵺野が犠牲にならなかったら真次郎が犠牲になる、そう考えると雄介は何も声をかけられなかった。
男が明るい表情を見せた。
「よかった、これで同意が得られました。では事務処理を進めさせていただきます。こちらに署名をお願いします」
4人はただ見守っていた。辛いことだが、それを止めるということは自分たちの子どもを死に追いやることになる、そう考えると居た堪れない気持ちになった。
「はい、これで準備完了です。みなさまお疲れ様でした」
電気がぱちっ、ぱちっ、と徐々に消えていった。そして最後、明かりが犠牲課のカウンターの前だけになったとき、男が声をあげた。
「あ、言い忘れました。みなさんがここで喋ったこと、聞いたことなどは今後一切記憶から消されますのでご了承ください。だから敢えてこのことを説明する義理はないんですが……」
男が立ち上がり、ネクタイを緩めた。そして、ワイシャツを脱ぎ始めた。すると紫色の肌が顔をだした。目は鋭くなり、牙が生えた。頭からは2本のツノが生え始め、床に置いていた三叉のやりを持ち上げた
「一応せっかくだから説明しておきます。私は巷では悪魔と呼ばれています、犠牲者の方はこの苦しい世界で生き続けてもらいます。可哀想ですが寿命まで頑張ってください。他の方は幸いその苦しみを逃れることができます。安心してください、苦しまずに死ねますから。それでは」
それだけ言うと、悪魔は羽をはばたかせ、闇の中に消えていった。
同時に雄介たちの周りも真っ暗になった。
ちょうどその頃、炎上したバスで一命を取り留めたのは、運転手と生徒1名であることが報道され、後にその1名は鵺野雅だったということが明らかになった。
(了)
この中で一人犠牲者が出ます 木沢 真流 @k1sh
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