天使のお仕事

○ オフィス街・(昼)

 

 スーツ姿でオフィス街を歩く就活生の主人公・サトシ。

 サトシのスマホにメールが届く。結果はお祈りメール。落胆するサトシ。

 

サ ……(ため息)またか。さっき受けた会社も…だめだろうな……


 足取りが重くなり、落ち込んで家へと向かうサトシ。

 しばらく歩くと、ビラ配りをする1人の女の子(アキ)と大声を上げる男を見つける。


男 だーかーらー! しつけぇんだよ!

ア そんな… チラシだけでも…

男 だれがこんな怪しい会社入るかよ!!


 男、チラシをクシャクシャに、その場にポイ捨て。

 アキ、悲しそうにポイ捨てされたチラシを拾う。

 しかし、拾おうとすると持っていたチラシの束を地面にばらまいてしまう。


ア あ!! ……(ため息)どうしよう…このままだとまた先輩に怒られちゃう…

サ あの…? 大丈夫ですか? 手伝いますよ?

ア !! …ありがとうございます!!


 アキとサトシ、2人で散らばったチラシを拾う。

 サトシ、拾おうとして自分も鞄の中をばらまいてしまう。

 2人、てんやわんやになりながらも何とか全て拾う。


サ これで全部ですかね…?

ア はい! とても助かりました!!ありがとうございました!!

サ では僕はこれで…

ア 待って下さい!! あの…私たちの会社興味ないですか? 

サ ……

ア さっきちらっと見えたんですけどあなた就活生ですよね??

サ …まあ…はい…

ア 今人手が足りて無くて… 今ならすぐ採用…するかもです…

  アットホームな会社なのでぜひっ!!

サ そうですか… ならチラシだけ…

ア ありがとうございます!! 気になったらここに電話して下さいね!!

サ は、はぁ…


 サトシ、チラシを受け取る。

 そこには「エンジェルハートサービス求人募集」と書かれている。

 サトシ、チラシを見ながらその場から去る。


○サトシの実家・リビング・(夜)

 

 サトシの家族(父・母・アイナ)の3人が夕食中。

 アイナ、父から説教されている。

 

父 アイナ。お父さんはな、無理に別れろとは言ってない。だけどな…

ア うるさいな!ほっといてよ!!

父 親に対して何だその口の利き方…!

母 お父さん!

ア お母さん。私ご飯要らないから。

母 アイナ、あんたまた夜遊び…

ア アンタ達もしてたんでしょ?人のこと言えんの?


 アイナ、家を飛び出す。

 両親、そんなアイナにため息をつく。


○ サトシの実家・玄関先・(夜)


 サトシ、面接のことや昼の出来事もあり、やや疲れて帰宅。


サ …ただい…


 サトシ、ドアを開けようとすると、アイナも家を飛び出してくる。

 サトシ、勢いのあまりドアに頭をぶつける。凄く痛い。

 

ア あ、サト兄ごめん。

サ ……気をつけろよ。ったく…


サ …ただいま。

母 おかえり。面接どうだった?

サ ……察して。

母 そっか……

父 まぁ、次があるさ!ほらご飯いっぱい食って元気出せ!

サ …ありがとう。いただきます。


○サトシの実家・部屋・(夜)


 サトシ、夕飯を食べ終わりベッドで横になる。

 すると、スマホにメールが届き、昼に受けた会社の面接結果。結果はお祈りメール。

 スマホを起き、ため息をつくサトシ。


サ またダメか… …ん?


○ 回想(オフィス街・昼)


ア 気になったらここに電話して下さいね!!


○サトシの実家・部屋・(夜)


 サトシ、起き上がり、カバンからチラシを出す。

 チラシを改めてじっくりと見る。


サ 「24時間対応してます」…ってブラック企業じゃねえか。だけどもうここしか…


 サトシ、「エンジェルハートサービス」に電話を掛ける。


○ エンジェルハートサービス・(朝)


 エンジェルハートサービス。オフィス一面が白く一見すると天国にいるように思える。

 ソファーやデスクはすべて白く、所々に羽根もついている。

 セレナとナミ、中央にある大きなモニターに映るカップルを見ながら話している。

 カップルの間にはハートマークがあり、ハートの中に「10」や「95」など数字が書かれている。

 フラン、2人掛けのソファーにちょこんと座りながら2人を横目にお菓子を食べている。


セ ナミ~ 今日カップルにするのってこの人達でいいんだっけ??

ナ ああ。ってまたこのカップル数値減ってんじゃん! くそ!アイツらの仕業か…!

フ ……アキ。ジュース欲しい。

ア はいっ!


 アキ、フランにジュースを持ってくる。

 それと同時にインターホンが鳴る。


セ ? こんな朝早く誰だろう~?

ナ アキ!お前出てくれ!

ア は、はいっ!


 アキ、インターホンのモニターを見るとサトシの姿が。

 アキ、通話ボタンを押す。


ア はい。こちらエンジェルハートサービ…

サ あ、あの!私昨晩お電話させていただいた守屋と申しますが…

ア あ!あなた昨日の人!やっぱり来てくれたんですね! 今開けますね!!


 サトシ、扉を開けて貰い入室。


サ し、失礼します! ○○大学○○学部4年の守屋サトシと申し…

ナ おい!今仕事中だ!もう少しボリューム落とさんか!!

サ す、すみません…

セ ナミ~ せっかく面接来てくれたのにさ~ また逃げちゃうよ~?

  あなたが昨日電話かけてくれた人ね~ 待ってたよ~ ほらそこのソファー座って~

サ は、はい!失礼します!

セ あと、そんなに緊張しなくていいよ~! ほらリラックスリラックス!


 セレナ、ソファーに座ったサトシの肩を揉む。しかも横に座る。

 ナミ、仕事を一時中断して、向かい側のソファーに座る。

 フラン、ナミが横に座ってきて少し嫌そうな表情を浮かべる。


ナ では面接を始める。ああ、先ほどは強く言いすぎた。すまなかった。

サ いえ… 私の方こそ緊張してしまって…

ナ まずは自己紹介からか… 私はナミだ。よろしく。

セ セレナで~す

ア ア、アキです…

フ ……よろしく。

セ フランさ~ん、ちゃんと名乗らないとダメですよ~

フ ……フ、フランです……

ナ では面接を始めるぞ。まず…

サ あの… あの方は一体…

ナ ん? あぁ。フランさんはな一応この中では一番偉い。人間界でいうなら…「部長」って奴かな?

サ なるほど…

フ ……一応ってなんだっ!

セ まぁまぁ! 貶してるわけじゃないですし~

フ ……~!

ナ では気を取り直して… まずこの会社を志望した動機は何だ?

サ えっと… 昨日アキさんからチラシを貰いましてそれでこの会社が気になったら電話してほしいとのことで… それに人手が足りなくて困っているとの事だったので…

ナ …じゃあこいつから会社については聞いてないんだな。

サ はい…。

ナ アキ! 渡したら詳しい説明しとけと言っただろうが!

ア ひぃ! ご、ごめんなさい!!

ナ ったく… じゃあこの会社が何やってるか全く知らないってわけだな。

サ はい。調べても出てこなくて…

ナ そうか… じゃあセレナ説明頼んだ。アキ。少し話するぞ。


 アキとナミ、ソファーから離れ、少し離れた場所で説教タイム。

 セレナ、向かいのソファーに座り直す。

 フラン、露骨に嫌な表情を見せる。


セ は~い。この会社は一言で言えば人間界にカップルをた~くさん作るのが主な仕事って感じかな~

サ …? つまりマッチングアプリの制作みたいな…

セ 違う違う~! カップルをた~くさん作るの! それでね人間界を愛で包んで~

サ ……あの言ってることが全然わからないんですけど…

セ え~ なら実際に見せた方が早いか~ じゃこっち来て!


 セレナとサトシ、モニターの前に行く。

 セレナは自分のデスクまで行き、パソコンを起動。

 画面にはたくさんのカップルが映っている。


セ そうだな~ 例えばこのカップル喧嘩してるでしょ?

サ そうですね…


 セレナ、カップルをクリックし、モニターで拡大する。


男 頼むよ~ お金貸してくれよ~ 昨日サイフ落としちゃって…

女 やだよ! こないだもそうやって頼み込んできたじゃん!


 男、お金を頼み込み終いには土下座しようとしている。

 女、そんな男に呆れその場から離れようとしている。


セ この人間達には仲直りしてほしいでしょ? そこで私たちはこのコードを入力して~


 セレナ、コードを入力する。

 女、急に立ち止まり男に寄り添う。


女 もう… これで最後だからね?

男 あ、ありがとうございます女神様ぁ~!


 セレナ、思わず拍手。

 サトシ、釣られて拍手してしまう。


セ と、こんな風に私たちは日々カップルの危機を救っているのだ~!

  それに~


 セレナ、別のカップルをクリックしモニターに映し出す。

 男が図書館の前で女に何か話している。


男 それでね…この芥川龍之介という人物は…

女 へ、へぇ…


セ いるよね~ こういう自分の専門分野だけ語り出す男~ こんな彼にはこのコードでえいっ!


 セレナ、コードを入力する。

 女、糸が切れたように突然駅へ向かい出す。


男 それで…ってえっ!? ちょっとどこに…

女 用事思い出しちゃって… ごめん。

男 ま、まってよぉ…


 セレナ、誇らしげな表情を浮かべる。

 

サ いくらなんでも可哀想では…

セ え~? この人間ならもっといい人すぐに見つかるって~ ほらハートも「4」ってなってるでしょ?

サ あと… この数字って何ですか?


 男女の間にはハートがあり「4」と書かれている。

 ナミとアキ、モニター前に戻ってくる。

 フラン、まだジュースをチビチビ飲んでいる。


ナ それは「親愛度」だ。

ア 0~49までが「友達」50~99が「カップル」100が「夫婦」となる…んですよね?

フ ……(無言でうなずく)

ナ 私たちは人間界で多くのカップルを成立させ、そして夫婦となるように調整している。それが仕事内容だ。まあ人間界でいう「データ入力」と似ているかな。

セ ちょっと~ 私に説明頼んだじゃないですかぁ~

ナ お前を見ていると長くなりそうだったからな。

セ もぉ~!

ナ では守屋君、他に聞きたいことはあるか?

サ えっと… 先ほどから気になってはいたのですが… なんで「人間界」って言葉を使うのかなぁって… ほら、普段あんまり使わないじゃないですか!?

ア ……それは私たちが……その……

セ 天使様だからで~す!

サ ……え?

セ え? もしかして気付いてなかった? 私たちこう見えても天使なんだ~


 セレナ、サトシの周りを手を羽のように動かしながら「パタパタ~」と飛ぶふりをする。

 ナミ、「セレナ、言ってくれたな」と言うかのように睨んでいる。

 アキ、何か言いたげではあるが、この空気をどうしようか悩んでいる。

 フラン、お菓子とジュースで満腹になったのか横になって眠り始める。

 サトシ、ただただ状況を飲み込めない。


サ ………天使ってあの?

セ そ!

サ ……エンジェル…?

セ 社名に書いてあるじゃん!

サ いやいやいや! 天使ってもっと輪っかが付いて白い羽があって…

セ 今の天使は君たち人間と似せるのがトレンドなの! ね!ナミ!

ナ …まぁ私たちの世界では守屋君の想像通りのヤツらもいるが…な。

ア リングと羽根は人間界で見せないでおこうねって私たちは決めてて…

  期待させてすみません… それにびっくりさせちゃいましたよね… 本当に…

サ 謝ることはないんです… でも… え、じゃあ僕って死んだってこと…

セ それは違うよ~ 何か人間の意見も取り入れたいってことになってビラ配りしてたらたまたまサトシ君が来てくれたってだけ! で!どうする私たちの会社に決めちゃう??

サ ……決まったらありがたいですけど… でも…

ナ あ~! もう鬱陶しい!! これだから人間は嫌なんだって!! とっとと決めちゃえよ!!

ア …でも、本当にここでいいんですか…? もっといい所…

ナ おいアキ! これ以上惑わすな!! 

セ じゃあさ最終試験しない? 本当に彼が天使に向いてるかどうか検証… そうだな、じゃあこの男女をカップルにさせたら合格みたいな!?


 セレナ、適当に男女を選びモニターに映す。

 そこにはアイナとその彼氏(と思われるヤツ)が。


サ ちょ…! これ妹です!

セ ならちょうどいいじゃん! フランさんもこれでいいですよね!?

フ ……(眠りながらうなずく)

セ ならけって~い 期限は1週間後ね! じゃあアキ、サポートとしてよろしくね!

ア へ!? サポートなら先輩達の方が…


 セレナ、ナミ 無言の圧をアキに掛ける。


ア わ、わかりました…


○ エンジェルハートサービス(午後)


 セレナ、寝ぼけ眼のフランにちょっかいを出している。


セ ね~ね~フランさ~ん! 遊びましょうよ~

フ ……起きてすぐなのに…… うるさいな…!

セ わ~ ナミ見てたよね!? フランさんに怒られちゃった…

ナ ……休憩終わってるぞ。仕事しろ。

セ ……は~い。


 サトシ、デスクでアキにサポートされながらパソコンを操作している。


ア どうですか… 操作は慣れました…?

サ はい! アキさんのサポートのおかげです!

ア そんな… あ。どうしよ…! また「親愛度」減ってる… えっとどうするんだっけ…


 パソコンの画面には先ほどの金の無心カップルが映っており喧嘩をしている。

 「親愛度」もどんどん減っている。

 アキ、何とか「親愛度」を戻そうとするが上手く出来ず焦っている。


ナ どけ! こうすればできるんだよ!


 焦るアキを見て、ナミが代わりに操作をする。

 すると「親愛度」が元に戻っていく。


ナ …はぁ。いい加減覚えろよ…

ア …す、すみません……

サ あの… なんで「親愛度」が減ったんですか…?

ナ あ~説明してなかったか。いっつも私らの邪魔する奴らがいるんだ。そいつらの仕業!

セ しかも私たちと似たような社名使ってさー 困っちゃうよね~

サ そんな会社あるんですね…

ア 「キューピットサービス」っていうんです。 ……迷惑なライバルですよね。

サ そ、そうですね… …ん? この会社のライバルってことはまさか…

セ そ。「悪魔」がやってる会社! 

ナ それに上司は厳しい、離職は多い、悪名高い… なかなかのブラック企業だよな。あー潰れればいいのに!!

セ ナミ!私たち「天使」がそんなこと言っちゃダメ!! 

ナ いいだろ別に! 私は…

フ ……仕事しろ!


 フランの一喝により、各自仕事に戻る。


サ ……いっつもこんな感じなんですか?

ア はい… …じゃ仕事戻りましょうか。 えっと何すれば… あ、そうだアイナさんとキョウヤさんの「親愛度」確認しなきゃですね!


 アキ、アキとキョウヤの「親愛度」を確認する。

 画面に出たのは「15%」

 サトシ、少し安堵する。


サ なんだ… まだこれくらいか…

ア お兄さんが見るのって複雑ですよね。なんか申し訳ないです…

サ いえ… これも試験のため…ですから。

ア じゃあ… ちょっと2人の様子観に行ってみます?

サ ぜ、ぜひ!


 アキとサトシ、アイナとキョウヤの様子を観に行く。

 アキ、フランに外出の報告するとOKのサイン(無言でうなづく)


ア では皆さん行ってきます!


 アキとサトシ、オフィスから出る。

 アキ、勢いよく扉を閉める。すると1枚だけ白の壁紙が剥がれる。

 ナミ、完全に剥がれるのをなんとか阻止。


ナ …ったく!! 扉はゆっくり閉めろって何度言ったら…! 張り替えたばっかりなのに!!

セ そんな怒っちゃダメ! さっきからあなたの本性出ちゃってるぞ~ 

ナ そりゃ出すだろ! あのポンコツ…

セ サトシ君が怖がって入社辞めてもいいのかなぁ~?

ナ ……気をつけるよ。


 2人、壁紙を補強している。

 フラン、気にせずおもちゃで遊んでいる。

 (フランが座るソファーはよく見ると白い塗装がやや剥がれている。)


○ ライブハウス前 (夜)


 サトシとアキ、ライブハウスの前で刑事ドラマのように見張りをしている。

 

ア アイナさんとキョウヤさんはここにいる様です。

サ ……天使ってこんな事してるんですか…?

アキ 私たちはこうやって人間観察してるんです…! なんか人間界ではこれがスタンダードと聞いてます!

サ ……だいぶ昔の話ですよ。今してる人いないんじゃないですかね…

アキ え! じゃあやり方考え直さないと…

サ ……あと… なんでこの格好何なんですか!!


 サトシ、よく見るとさっきまで黒スーツ上下だったのが、白シャツと白ズボンになっている。


アキ あの… 私たちの規則で「服の色は白のみ」だってこと伝え忘れちゃってて… 黒は私たちのライバルが使ってるからやめよって先輩方から…

サ だからって買わせますかね!? 今月金欠なのに…

アキ ご、ごめんなさい… これが私たち「エンジェルデートサービス」のやり方…

サ 社名間違えてるじゃないですか!!

アキ あああああ… 変わったばかりだからつい… ってあの人! アイナさんじゃないですか!?

サ ほんとだ!! …横にいる人のが… キョウヤ君で… いいんですよね…?


 アイナ、キョウヤにデレながら別れた後でライブハウスから出てくる。

 キョウヤ、先ほどモニターで見た感じとは打って変わってバリバリのロッカーである。(モニターではチャラいけど真面目な風貌)


アキ はい… おそらく… 


 アキ、自分の仕事用スマホをチェック。キョウヤのプロフィールを確認する。


アキ 「立石キョウヤ 歳は23歳、バーテンダーで稼ぎながらバンドマンで武道館に行くことを夢見ている、バーテンダーの前は美容師として働いていた…」

サ マジか… 3B全て当てはまってる…

アキ 3B?

サ あぁ、彼氏にしたくない職業が「バーテンダー・美容師・バンドマン」って言われてて、理由が…

アキ あ!こっち近づいてきます!!隠れて!

サ わっ!急に引っ張らないで…!


 サトシ、隠れようとして派手に転んでしまう。


アイ …サト兄? 何してんの…?

サ いや… これは… その…

アイ てか何その格好。ダサっ!

サ は、恥ずかし… (小声でアキの方を見ながら)お前らのせいだぞ…!


 アキ、手だけだが必死に謝る


アイ …? そこに誰かいんの?

サ いや!別に…!


 サトシ、アキを隠すために立ち上がろうとするが足を痛めて立てない。

 

キ あの… 大丈夫ですか…?


 キョウヤ、サトシの為に肩を貸す。


サ あ、ありがとうございます。

アイ キョウヤごめんね。うちの兄貴なんかの為に…

キ え!? この人がアイナのお兄さん!? は、はじめまして! 俺アイナさんとお付き合いさせてもらってる…

サ あー… キョウヤ君だっけ? 妹がお世話になってます

アイ あれ? サト兄にこの事言ってたっけ? 何で知ってんの?

サ …なんか知ってた。というか兄妹だろ! それくらい感覚でわかるよ!

キ 仲いいんですね! あ、痛み引くまで休んで行きませんか?

サ す、すみません… ご迷惑おかけして…


 サトシ、アイナ、キョウヤ ライブハウスで少し休むことに。

 アキ、電信柱の陰からそっと見守り、3人の様子を見て泣きそうになっている。

 そんな中で先輩方(ナミ)から会社に戻って来いと連絡が入り、少し落ち込む。


○エンジェルハートサービス (2日目~5日目)


 サトシによるナレーションが流れる中で、仕事に奮闘する様子が流れる

 仕事の様子

 ・キョウヤの過去情報の検索

 ・アイナとキョウヤの親愛度を調節

 ・アイナから寄ってきた男(真面目タイプ)を切り離す など…


サ それから俺は、アイナとキョウヤをカップルに……するために天使として働いた。

  アイナに寄ってくる者はどんなに良い男でも切り離した。

  果たしてこれが天使のやることなのだろうか…本当にアイナのためなのか…

  そんな葛藤に苛まれながらあっという間に期限の前日になった。


○エンジェルハートサービス(6日目の夜)


 サトシ、アイナとキョウヤをカップルにするか悩み続けている。

 他の社員はフラン以外はもう退社済み。

 パソコンの画面には「親愛度49%」と表示。あと1%でカップルとなる。

 そんなサトシの様子を見かねて、フランがそっと寄ってくる。


フ ……サトシ君。

サ ! …あ、フランさん… 驚かせないで下さい…

フ ……そんなつもりないし。休憩しないの?

サ ……決断してから休憩しようと思いまして。

フ ……あっそ。


 フラン、一旦ソファーの方に向かう。

 サトシ、画面を見て再び悩んでしまう。

 フラン、サトシに形が不揃いのマシュマロを持ってくる。

 マシュマロは大きさがバラバラで中には欠けているのもある。


フ ……ん。

サ ? 何ですかこれ?

フ ……差し入れ。……形は酷いけど美味しいから。


フラン、一番形が酷いマシュマロをサトシに渡す。


サ ありがとうございます。(食べる)わ!美味しい! 

フ …でしょ。私のオススメ。

サ これどこのメーカーですか?? 妹に買っていこうかな…

フ 内緒。

サ えー! いいじゃないですか教えて下さいよ!

フ …やだ。秘密。

サ そうですか… 

フ ……君は本当に優しい人なんだね。

サ え?

フ ……これおいしいのに形は最悪でしょ。

サ …まぁ、はい。でも口に入れれば関係ないですし…

フ ……人間も本当はそうなんだけどね。

サ ……

フ 中身重視とか言いながら、結局は外見で判断するでしょ。それで人間達は損ばかりしては不平不満を口にしてる。ほんっと愚かな生き物。

サ ……確かに…

フ 確かにって。今の君だってそうじゃない? キョウヤくんの見た目だけで決めようとしてるでしょ。

サ ……それは……

フ いい。人間は中身重視。中身だから…


 サトシ、1週間の仕事を思い出す。

 全て外見ではなく、会話の内容やそれぞれの個性でカップルを決めていた。


フ ま、私からのアドバイスはこれくらい。後は自分で決めな。じゃ。


 フラン、ソファーに戻る。

 サトシ、再び画面に目を通す。そして何かを決断した様子。


○ サトシの実家(夜)


 アイナ、目を赤くして階段を上がってくる。

 サトシ、風呂に入ろうとするとそんなアイナとばったり。


アイ 聞いてよサト兄! お父さんもお母さんもキョウヤのこと…

サ ・・・大丈夫だ。アイナ。お兄ちゃんに任せろ。

アイ え…?


 サトシ、階段を下りていく。

 アイナ、不思議そうな表情でサトシを見つめている。


○ エンジェルハートサービス(7日目)


 全員がソファーに腰掛け、いつもとは違い真面目な空気。

 特にサトシはガチガチになっている。


セ あれぇ~? サトシ君緊張してんの?

サ い、いえ… 別に…


 サトシ、手に持っている資料を落とす。


セ 嘘つき!


 アキ、落とした資料を拾い集めサトシに渡す。


ア ……サトシさんなら大丈夫です。

サ …ありがとう。

ナ よし! じゃあサトシ、お前が出した結論を聞かせてくれ。


 サトシ、深呼吸をし、リラックス。


サ ……結論から話しますと………アイナとキョウヤ君をカップルにすることに…


 サトシ、全員の目を今一度見る。


サ …賛成です。

ナ ほう。理由は?

サ ………

ナ まさか、直感でとかじゃねえだろうな?

セ ナミ。サトシ君が話すまで待と?

サ ………正直、判断するのは難しかったです。愛する妹の将来を僕が勝手に決めて良いのかずっと悩みました。ですが、一週間彼女たちの様子や情報を見て総合的に判断しました。

ナ 総合的ねぇ… …だが、彼はずっと売れずに終わるかもしれないぞ? それだと彼女が不幸になるんじゃ…

サ はじめは…! はじめは彼で大丈夫かと思いました。チャラそうなバンドマンだし、バーテンダーで働いてるっていうし、おまけに元美容師… 普通はこんなカップルを多くの人は心配するでしょう。ただ…


 サトシ、フランの目を見る。

 フラン、聞いているのか聞いていないような雰囲気。


サ 僕が足を痛めた時に、初めて会った人ましてや彼女のお兄さんと言うのに、助けてくれたんです。そんな彼が悪い人に思えなくて… 外見ではなく内面で評価した上で僕は… 僕は彼女たちをカップルにするべきだと思います。いや、僕の妹を幸せにしてください。お願いします。


 サトシ、頭を下げる。


ナ …フランさん。どう思われますか。


 フラン、サトシの方へ向かう。


フ ……サトシ君。頭上げて。


 サトシ、無言で頭を上げる。


フ ……誰かを幸せにするのが私たちの仕事だから。……これからよろしく。

サ …え、それってつまり…

セ 合格ってこと! おめでと~!

ナ というかここに来た時点で決まってたんだけどな。君が試験やりたいというからだな…

サ えー!? じゃあそもそも試験は…

ア パスして良かった…てことです…

セ でも、天使に向いてるってことがわかったし結果オーライって感じ??

フ (無言で頷く)

ナ じゃ、最後にこのコードを入力してくれ。これでカップル成立だ。

サ は、はい!!


 サトシ、コードを入力する。

 すると、モニターに二人がライブハウスの前にいる様子が映る。(無音)

 何かを話し、キョウヤが花束を渡しプロポーズする。アイナ、もちろんOK

 一連を天使達は見ている。サトシとアキは泣き、セレナは羨ましがり、ナミは一仕事終えほっとした表情。フランも4人の様子を見て微笑ましい表情を浮かべる。


サN 晴れて俺は「エンジェルハートサービス」の一員となり、それから何組ものカップルを誕生させる「伝説の天使」となる…話はまた別の機会に…





○ キューピットサービス(数ヶ月後)


 エンジェルハートサービスとは打って変わって、暗くギスギスした雰囲気が漂う「キューピットサービス」。

 モニターには、アイナとキョウヤが映っている。


キ 悪ぃ。今日も遅くなるから。

ア また…? もしかして浮気…

キ んなわけねえだろ!


 キョウヤ、バイト先へ。

 アイナ心配そうに見つめる。よく見ると何カ所か傷跡もある。

 そんな様子をマイコが悔しそうに見つめている!


マイ あああああ!! またアイツらの仕業でダメカップルが…! ほんとムカつく!!


 マナミ、そんなマイコにお茶を持ってくる。


マナ そんなイライラしたら体に毒ですよ~?

マイ うるっさい! だいたいアンタがろくに仕事しないから…

マナ え~ 私のせい~? というかこんな真っ黒な服着て、乱暴な言葉使いじゃ「天使」って見えないですよ~

マイ いいの!私は黒が好きなの!文句ある??

マナ …別に文句じゃないですし~ でもアイツら姑息ですよね~ 白い服着て私たちと似た社名に変えて… ま、さすが「悪魔」さんって感じですね~

マイ 関心してる場合か! 


 2人が話している間に、カップルが複数組誕生している。


マイ も~! このカップルじゃお互い不幸に… 一体何が起こってるの!? この前までこんな多くなかったよね…!?

マナ これは噂なんですけど最近有能な「悪魔」が現れたみたいで 確か名前が…


○ エンジェルハートサービス(数ヶ月後)


 サトシ、熱心にカップルを誕生させている。

 他の天使、ソファーでくつろぎながらその様子を見ている。


ナ 休憩時間を削ってカップル作りか… 彼が来て良かったな。

セ そうね~

ア あの… 本当の事言わなくていいんです…

セ いいの! 人間界には知らなくて良いこともあるの!

ナ これ以上減らしたくないしな…


 ナミ、セレナ、フラン、天使のような悪魔の笑顔を浮かべる。

 アキ、心配そうな表情でサトシを見つめている。


サ 次はこの人達か… えっと彼の名前は…


 サトシ、真実を知ることもなくただ仕事に熱中している。


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