第4話雨上がり

今、ぼくと彼女は同じソファに腰掛け手を繋いでいる。互いの指にリングを嵌めて、隣に座って寄り添っている。

ぼくは彼女のために詞を書くようになった。そして、彼女はその詞に合わせて口を動かす。ぼくの耳には届かないけれど、きっと、彼女は歌っている。

あの日に聞いた小鳥のような声で。




ぼくの聴覚は生き返らない。何の音も、ぼくには届くことがない。

それでも、ぼくは。


ぼくは、忘れないだろう。

あの日に耳へ、心へ届いたあの音を。

たった一回だけ届いた奇跡という音色を。

彼女の、「好き」という、素敵な、音を。ぼくは、忘れない。今日も彼女は、ぼくの、隣で、笑っている。

歌っている。


あんなに降っていた夕立は、いつの間にか止んでいた。ぼくたちを出会わせた夕立が去って、ほんの少し淋しく思う。

オレンジ色に染まった、空に、架かる虹を、ぼくは、彼女と一緒に、見上げていた。


ぼくの胸には、夕立に似た恋の鼓動が響いていた。

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届かない音 犬屋小烏本部 @inuya

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