第2話平和な毎日

「おはよう。母さん。」


季節は流れて冬になった。

皆もう少女の身に起こった不安な事故のことなんて忘れていつもの日常を送っている。


私も例外ではない。

いつも通り母の世話をして昼間は働きに出る。

決して都会とは言えないこの村では物書きなんてものはお金にはならなくて、昼間は宿屋の食堂でアルバイトをさせてもらっている。

その間は隣の家の奥さんが母を病院に連れて行ったり面倒を見てくれている。

小さな村だからみんな助け合って生きている。

悲しい事や苦しいことがあっても皆笑い合って明るく生きている。


でも、私はマリナを忘れられないでいる。


「おはよう、エド。」

「足の具合はどう?」

「なんともいいとは言えないよ。もうこの歳だし薬も効かなくなってきてるのかねえ、」

「今日病院行くんだろ?薬のことも相談しよう。もう少ししたらジーナおばさん来るから。」


いつも通り母の車椅子の横の小さな机に温かい紅茶と水と薬を置いた。


コートを着込んでドアノブに手をかけた。


「エド!今日は雪が降るみたいだからマフラーもして行きなさい!」

「ありがとう!行ってくるよ!」


玄関先にかけてあったマフラーを取り外に出た。


「あら、おはようエド。」

「おはようございます。ジーナおばさん。」


体格のいい、いかにも肝っ玉母さんという出立の彼女は隣に住んでいて私が働きに出ている間は母の面倒を見てくれている。


「もう行くの?今日は雪が降るみたいだからね。滑って転んだりしないでよ!」


大きな口で笑った。


「気をつけます、母の病院お願いします。お金はいつも通り机の上に置いてあります。日が沈む前には戻りますので。」

「たまには遊んできてもいいのよ!お母さんはウチに朝まで居ればいいし、チビ達も喜ぶしね!」

「予定ができたら、お願いします。」


そう言って私は足速に市場へ向かった。

その後に続く言葉をなんとなく予想できたから、聞きたくなかった。


皆心配しているのだ。

結婚前に婚約者を事故で亡くして以来、ずっと仕事と介護に明け暮れる若者の姿を。


でも、そうでもしないと、私の中の何かがある日突然途切れてしまうのではないかと。



私は生きなければならぬのだ。

母の為。

マリナのために。






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森のお医者さん べんぢゃみん @koi_ai

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