第35話 王と双樹の皇10

一文字が手を一つ叩き、鬱蒼とした場を改めて、三機の新型の方へ顔を向けた。


「マリナ、ジュリアルド、グローサリー、新型を眺めていても始まらない。まずは搭乗チェックだ。エンジンの起動確認とインターフェイスの初期確認、マリナ、グローサリーは魔力や呪力存在情報の上書きが通るかの確認だ」

「「「了解」」」


三人それぞれ各機へと乗り込んでいく。

ジュリアルドとグローサリーが乗り込んだ『ウーヌレスタ』と『マギレスタ』のコクピットは今まで乗っていた量産機とほぼ変わらずであったが、マリナが乗り込んだ『モーリンヴォルフ』はコクピット中央部に人型を模ったかたどったリクライニングの様な物があり、身体を押し付けると頭や胴体、手などがロックされた。

マリナは身体が固定されたのを確認すると左右の脇からコンソールを引き出し、『モーリンヴォルフ』の起動準備に入った。

機体背部にある魔術対応マギカディーゼルエンジンに火が入り、6のピストンの唸りを上げる。同時にコクピットのハッチが閉まり、マリナの周囲に光が灯る。そして、『モーリンヴォルフ』の全周囲の様子を映し出していた。


『こちら・・・マリナ・・・『モーリンヴォルフ』起動しました』


『モーリンヴォルフ』は今までにも別地で試験的に動かしていた為、他の2機によりも早く起動された。機体の起動を確認したマリナは外側への音声で報告する。


グローサリーもまた『マギレスタ』の中で体の前、中央コンソールに情報を入力していく。初期起動を終わらせると正面と左右のディスプレイに外の様子が映り込んだ。そして、両脇にあるハンドコンソールにグローサリーの両手を置く。グローサリーはハンドコンソールの中央、黒曜石で出来たボールマウスから手のひらに石が持つ独特の冷たい感触を感じ、ボールマウスを軽く回すと一つ、グローサリーは頷いた。


「ウム・・・良い黒曜石だ・・・呪力が滲みこんでいく。『マギレスタ』起動」


『マギレスタ』の背部に装備された魔術対応マギカディーゼルエンジンがドゥルンと唸り、バイザー型の眼部に光が灯った。


『『マギレスタ』起動完了』


グローサリーは起動完了の報告をマリナに続いて、機体を起動させた。


ジュリアルドもまた、『ウーヌレスタ』を起動させる為、コンソールをタッチし始めた。ディスプレイに文字列が立ち上がっていき、『Start-up Os・・・Torii』と表示される。


「ん?Start-up Os・・・Torii・・・Torii!? 窓じゃないのか!? ⛩!?なんか棒出てきた?消えた・・・」

「Please tell me your name・・・」

「ん?」

「Please tell me your name」

「名前を付けろって? じゃぁA・RI・SUっと」


ジュリアルドがコンソールでシステムの名前を打ち込んだ。

するとPuーと電子音が鳴り、静かで厳かな電子声が聞こえた。


「Non」

「はっ? 弾かれた? 前にも登録でもされていたのか?それじゃI・RI・SUっと」

「Non」


もう一度打ち込むが、同じような音と声に弾かれた。


「あ”?!これならどうだ!E・RI・SU!」

「Puー!Puー!Puー!Non!Non!Non!」

「なんでだぁー」


ジュリアルドは勢い良く叩いたが、静かで厳かな電子音と電子声が打って変わって、軽い幼い子供の声に変わり、入力情報が弾かれた。


「はぁ~ジュリジュリはセンスがないのですよ~」

「はっ?はぁー?」


周りの計器より光の粒が流れ出て、呆けているジュリアルドの前に1つの像を結ぶ。

光りの粒より結ばれた像はSD化されたおかっぱ頭の巫女服の女の子していた。


「センスがねぇ!? やっかましいわ!? それよりお前は何なんだ!?」


ジュリアルドは突如現れた映像の巫女を指を指した。指を指された気分を害した様で、頬を膨らませて、片手を腰に空いた手で指さし返した。


「むぅ人に指さししちゃいけませんって習わなかったのですか!? ジュリジュリ」

「お、おめぁが言うのか!? そもそもが俺がせっかく名前を付けたのに拒否しやがって!?」

「それはハッケタンはハッケタンなのに変な名前を付けよとしたのが悪いのですよ」

「は?ハッケタン!? 知らねぇよ。名前入力ウィンドが出たから入力したんじゃねぇか!?」

「そうですねぇ出ましたねぇ出しましたねぇ」

「出ました。出しましたじゃねぇよ!?何なの!?ねぇ何なのおめぇ!?」

「だからハッケタンはハッケタンだと言ってますよー?」


惚けるハッケタンに対し、ジュリアルドはわなわなと握りこぶしを作った。

眉をぴくぴくとさせながら、ジュリアルドは気持ちを静める為、深呼吸をしてから、もう一度、ハッケタンに尋ねる。


「ふぅ・・・まずわな・・・ハッケタン。何で名前が決まっていたのに名前入力ウィンドを出したんだ? そもそもがお前は何なんだ?」

「えぇー何故入力ウィンドを出したかと言うとぉーちょっとした悪戯心です!!」

「な?! この!」


ジュリアルドはハッケタンを捕まえようと両手で挟もうとしたけれど、手がハッケタンをすり抜けて、手のひらを勢い良く叩く羽目になった。


「いっったぁーーー!」

「なはは。お馬鹿ですねぇジュリジュリは。ハッケタンはまだ現実化リアライズは出きないのですよぉ」

「く・・・この・・・」

「それからハッケタンはジュリジュリの・・・あっ王様から通信が来てますよ?」


ハッケタンは叩いた両手の痛みで痺れているジュリアルドを尻目に外からの通信を受けた。すると機内スピーカーより一文字の声が聞こえてきた。


『ジュリアルドどうしましたか? 起動準備が終わってないのはジュリアルドだけですよ?』


他の2機は起動準備が終わったがジュリアルドが乗る『ウーヌレスタ』の起動が遅れているので、一文字が通話してきた様だった。


「おわ!?キング!?すまねぇ変なのが出てたんだ!?」

『変なの?』

「あぁStart-up Os Toriiって出ていたから何らからシステムだと思うんだけどよ・・・」

『ん?Os Torii?・・・無いな。ダンなにか知っていますか?』

『知らないであるな?』

「いやこのハッケタンっていうのが・・・いねぇな・・・』

『ジュリアルドさん?なにか幻覚でも見たんですか?』

「いやいや確かに!?両手で挟もうとしたらすり抜けたから・・・多分立体映像だと思うんだが・・・」

『それらしいのは見当たらないな?』


ジュリアルドの話を聞き、一文字も眉を顰めながらコンソールを弄り、該当OSを探してみるが見つける事が出来なかった。そうこうしていると背部のエンジンが起動していた。


『ジュリアルド、予定は詰まってんじゃ。エンジンは起動しているようじゃから確認をしてくれ』

「爺さん!?あ、あぁ了解・・・クッソ、ありゃ何だったんだよ・・・」


ジュリアルドはオラジに促され、悪態をつきつつ、急いで他の初期起動確認を行った。先程のハッケタンという物以外の不具合は無かった為、一文字へ起動完了報告を行った。


『『ウーヌレスタ』起動完了したぜ』


ここに世界初となる木造MD三機の初期起動が完了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜眼魔術師団《Longan Magic Division》 阿々藍烏 青辰@ロボ×魔術小説執筆中 @AAIUEO

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ