第34話 王と双樹の皇09

施設格納庫内にロレッタの絶叫が木霊した。


「いやいや、紙の装甲のMDって、ちゃんと立てるんですか?! そりゃ旧日本軍が大戦末期に資材が無くなって、ゼロ戦の装甲に和紙を張ったと言う逸話は知ってますが! これは昔の戦闘機とは違うんですよ!? 立った瞬間にくちゃってならないですか!?」


ロレッタが叫びが止まらず、慌てふためているとその背後にルバスが移動していた。


「まぁ嬢ちゃん落ち着こうや。ただの紙でMDなんざ作れねぇよ。あれはようやく探し出した新素材なんだぜ。探し出した俺を褒めてくれよ」

「うぇ・・・ルバスさん・・・?」


ロレッタが首を曲げるとルバスがロレッタの後頭部をガシッと掴んで身体を持ち上げていた。ルバスがロレッタの頭を持ったまま、顔を近づけて話し始めた。


「良いか嬢ちゃん、あれはな。和紙を製法に似通っちゃいるが、その技術などは最先端。物繊維をほぐす段階において、石臼式グラインダー等の機械解繊法で植物ナノレベルまでほぐして固めた物だ」

「ナ、ナノレベル? ただそこまでほぐしただけでそんなに違う物なんですか? 」

「違う。違う。俺もこれを知った時、万年単位ぐらい驚いたが、同体積量の鋼鉄と比べて、強度は5倍、重さは5分の1ときたもんだ!」

「鋼鉄の5倍の強度に5分の1の重さ!? 本当なんですか!? 」

「本当さ・・・俺も嬢ちゃん以上に驚きだ。こんなもん昔にあれば、戦場の状況が変わっていたはずだ。鉄よりも木材の方が圧倒的に手に入りやすいからな・・・それは置いといて、まぁあの3体は鋼鉄よりも固くて軽い、そんな素材で出来てるからつぶれやしねぇ。まずはそれで納得しとけ」

「は、はぁ何となくわかりわしましたが、それだけじゃ納得までは出来てませんよ・・・」


ロレッタはルバスからのビックリ発言により落ち着きは取り戻したが、話された内容にまだ納得はしていないようだった。そこへダンが声をかけてきて、タブレットで製造過程の画像を見せつつ説明を始める。


「でわ、これを見るのである。これは実験映像でわあるが、製造、検査映像である。紙鋼ペーパライトの材料はもちろん木材であぁる。その木材を高温の釜で茹でて、セルロース以外の成分を取り除いた白い糊状の塊がパルプとも言われ、トイレットペーパーなどを作ったりするのでぇある。そのパルプを石臼式グラインダーにかけ、細胞レベル・・・つまりナノレベルですりつぶして、繊維をほぐし取り出されたものがセルロースナノファイバーなのである。そのセルロースナノファイバーを望む形にして乾かし、に浸して完成なのである」

「フンフン・・・」


ダンはタブレットの画面を食い見る様なロレッタ達に対して、人差し指を立て、左右に振り、ご満悦な表情を浮かべていた。


「そして、素材の重量や耐久検査、耐熱、耐冷などの様子と結果なのである」

「「「「「おおぉーーー」」」」」


ダンが見せるタブレットに映るセルロースナノファイバーの説明画像に皆が驚いた。しかし、ご満悦な表情を浮かべていたダンが急にガクっと首を傾げた。


「ただ今の方法だと圧縮しながら繊維を挽き解すので、コストと時間がかかるのである・・・」

「ん?ダンさんそりゃぁ量産という点ではまずいんじゃね・・・?」

「良くわないのである・・・そこでナノレベルまで繊維を解す為の技術改善策を求め、探したのであるぅ」

「技術改善策ですか・・・?」


ダンの言葉にロレッタは首を傾げた。そして、ダンの言葉をルバスが引き取り、話を続ける。


「あぁ、ダンやスース師の調査結果として、とある大学と繊維会社が合同研究をしていたことがわかったのさ。繊維会社は名古屋、西の方だが、大学は東京にある研究室だ」

「という事は?」

「そこへ行って、調査することになるな。名古屋は別チームが行くとして、東京方面は俺達だ」

「私、マリナ、ロレッタは防学へ行くことになるから、ジュリアルド、グローサリー、オラジが新規の運用も兼ねて調査だね」


一文字がルバスの話を聞き、早速とチーム振りを行う。そこにルバスが親指で自分を指し、満面の笑みを浮かべる。


「おぅ、そう言うのを待ってたぜ、東京方面への調査は俺も行くぜ。あの辺も樹海と化しているからな。斥候、歩兵も必要だろう」

「そうですね。それではルバスが隊長、オラジが副隊長で頼みます」

「任せろ!」

「なんと・・・このでっかい坊主の引率は年寄りイジメじゃの・・・」

「まぁまぁ・・・オラジそういわずになんとか・・・年寄りの功とかで・・・」

「うーむ、了解じゃ・・・」


暴れられそうな予感にウキウキとなったルバス、その様子にため息を吐くオラジを一文字が宥めて、その場を取り繕う。

そんな様子を見ていたロレッタが指を加えながら、なにか羨ましそうに呟いた。


「いいなぁ・・・私もそちら側がぁ・・・いいなぁ・・・」

「ロレッタ・・・お前はキングと一緒にお勉強だ」

「あぅぅ・・・ダメですか?やっぱり」

「・・・諦めろ。行ったついでに、軍戦術とかも覚えてくると良い」

「勉強嫌だヨウ・・・」


ロレッタの暗い思念を感じた一文字がそちらを向くとジュリアルドがうな垂れるロレッタの頭に手を置き、グローサリーが両腕を組みながら頷いていた。

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