第33話 王と双樹の皇08

 一文字達が施設の奥にある格納庫へ歩いて行くと既存量産機『アルクレスタ』が立ち並ぶ中、格納庫の奥の奥に3機、見慣れない機体が並び見えた。

 一文字一行が進む手前に既存量産機の形状に近く、金属の光沢を放つ白い部分と逆に光を吸収しそうな灰色の非金属っぽい部分を持つ、機体1機が駐機していた。

 その隣には、量産機アルクレスタと同形状なれど、白と灰色の機体の灰色の非金属っぽい素材のみで作られ、その機体よりも黒に近い灰色の機体が駐機している。

 そして、一番奥には手前、その隣の機体とは明らかに違う形の黒い機体が佇んでいた。その機体が醸し出す異様さは真ん中の機体と同様の素材で組み立てられているが、その非金属製が持つ黒さは光を自ら吸い込む闇色をしていた。

 闇色の機体の頭部は狼の口の中に機体頭部が納めるられ、闇色狼と頭部の目で4つある複眼になっていた。そして、他の意匠は腰に下げられた復讐騎士のアベンジャーズソードを下げ、マリナの鎧姿に酷似していた。

 一文字達が下から見上げ見ていると逆に闇色狼と頭部にある複眼に見定められている気持ちになった。

 そんな気持ちいる所に一文字達の後ろから低くい声色の女性の声がかかる。


「手前の白灰色の機体が新規試作量産MD『ウーヌレスタ』、真ん中の灰黒の機体が試作魔術量産機MD『マギレスタ』、そして、奥の黒い黒狼頭ウルフヘッドが試作魔術特機MD『モーリンヴォルフ』さね」


 一文字が後ろを振り返ると黒のスーツに身を包み、黒い帽子をかぶったマフィアに見える風体の男と黒いスーツに宝石が散らばされた黒地のベルベットコートを纏った浅黒い左頬に刀傷がある、これまたマフィアの女ボスとみえる女が歩いてきた。

 黒い帽子をかぶった男は手を首に当て、コキコキと首を鳴らして、口を開く。


「よぉ坊主、こいつ等の素材調達はキツかったぜぇ。どの世界置いても既存の無い物の調達だったからなぁ。まだ、オリハルコンだのミスリルだの幻想金属だった方がマシだったぜ。ふぅ、スースやルバスの旦那が居なかったら無理だったぜ」

「マル姉、ハル兄、久しぶり。今回は世話になったね」


 一文字は2人に笑みを浮かべて礼を言う。マル姉と呼ばれた女性は懐から葉巻を出して吸おうと葉巻を見ると眉をしかめた。ここが研究所の格納庫という事を思い出し、出した葉巻を懐に戻した。ハル姉は葉巻の代わりにココアシガレットを取り出しくちにくわえた。


「構わないさね。坊やの玩具が用意できて良かったよ。ハルが最終的に調達した物はこちらでも今までに無かった物だ。とても有意義な物になってくれたからね」


 とマル=ファスは一文字を眇め見ながら答えた。そこにおずおずと二人に気おされていたロレッタが一文字へ言葉尻をすぼめながら質問をする。


「あ、あの一文字隊長こちらの方たちは一体どちら様でしょうか?マフィ・・・な方っぽく見えるのですが・・・」

「ん・・・まぁそんな所の二人かな」

「あぁん。嬢ちゃん初顔ね。私は嘘鳥広域連合うそどりこういきれんごうの総長マル=ファス。隣のが一応私の義弟おとうとだ。嘘鳥広域連合うそどりこういきれんごうの連合に属する鸛鶴会こうづるかいの頭目、ハル=ファス。主に調達を主とする調達屋だ」


 マフィアの女ボスとみえる女性はマル=ファスと名乗り、クイッと隣の男を親指で指差しつつ、その男の名前告げた。名前を告げられた男は改めて名乗りを上げる。


「んん・・・オレはI.C.B.Mから下着ランジェリーまで、あらゆる物を調達をしてくる調達屋の鸛鶴会こうづるかいの頭目、悪ーいお兄さんのハル=ファスだ。お初のお嬢ちゃんよろしくなぁ。何か欲しい物があれば調達してくるぜぇ。それなりに代貨はもらうけどなぁ」

「うぇあ・・・I.C.B.Mから下着ランジェリーまで・・・?ロレッタです。よろしくおねがいします・・・」


 とハル=ファスは黒い帽子に手を当てながらくつくつと笑う。二人の自己紹介を受けたロレッタはハル=ファスの内容に若干引き気味に挨拶をする。

 一文字達の傍にいたルバスが二人に陽気な声で労いの言葉をかける。


「よう、マル、ハル。材料の調達ありがとな。繰屋も満足いくものが作れて、満足したってくたばってるぜ」

「ん・・・そうかあの操子が満足したか・・・ならかなりの出来だな」

「かぁ・・・ルバスの旦那から礼をいわれるとなにかムズムズするぜ」


 ルバス、ハル、マルの三人は3機の出来栄えに満足そうにうなずいている所にとダンも一緒に頷いていた。

 そんな三人の様子を見ていたロレッタが会話の中に出てきた新しい人物の名前に対して一文字に聞いてきた。


「繰屋?・・・操子?この場には居なさそうですがどなたでしょう?」

繰屋くりや操子そうこ、うちのMD総設計技師さ。今まで作られたMDや専用装備品、そしてこの3機を設計した人だよ」

「総設計技師さん!その方は何処に・・・?」

「あーそいつは今ベッドインだ。この3機がロールアウトしたのが、本当に少し前でな。それまでは徹夜で詰めてたからな。まぁ操子の事だから夢の中でもMD組んでそうだけどな」

「そうなんですか・・・会ってみたかったのですが残念です」


 ロレッタの疑問にルバスが答えた。

 ロレッタは新規試作量産MD『ウーヌレスタ』を見上げつつ、近づいていき機体の白と灰色の表面をそれぞれそっと撫で触る。


「これ・・・やっぱり違いますね。白い部分と灰色の部分に温度差があります。白い部分は金属っぽいですが、灰色の部分は・・・金属じゃないですね?」

「それぐらいはわかるか。『ウーヌレスタ』の灰色の部分と『マギレスタ』、『モーリンヴォルフ』は同じ素材で作られている。何だか分かるかな?」

「んーーーこれ、樹虫?・・・樹獣?の表面に近い?素材の元はもしかして樹ですか・・・?え?樹なの?そんなのでMDもつの?」

「クックック。お嬢ちゃん中々モノを見ているじゃねぇか。俺たちはそいつをペーパライト、紙鋼しこうと名付けた」

「ペーパ・・・ライ・・・ト、しこう?」

「大雑把に作り方をいうと樹を蒸して、うすで挽いて、樹の繊維をほぐして、脱水、乾かして出来上がりだぜ」

「オイオイ・・・やっぱりマジかよ。その作り方は・・・」

「俺も資料で見ていたとはいえ。眉唾でいたんだが」


 ロレッタの私見にルバス、ハル=ファスが反応し、素材名と分かりやすい作り方を告げる。ジュリアルドとグローサリーは先に資料で素材の事を知っていたが、信じられずその説明をされて、頬に汗が一つ伝った。


「それって・・・あのう・・・紙の作り方に近いような」

「そうであるな!吾輩も聞いた時は驚きであったが、出来上がった物を見れば、得心したのである!」

「っは!?ダンさん!?ペーパ、紙鋼しこう?この機体分やあの黒い機体の装甲部分って、紙!?紙なんですか!!!・・・魔術を使うのに金属はダメだからって、紙装甲ってダメなのでわーーーー!?」


 ロレッタが行きついた答えに頭を抱え、格納庫内にモンクの叫びのような表情と絶叫が木霊した。

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