第2話 佐藤女性化

「ん? 今日のシチュー、なんか変じゃない?」


 佐藤は私の手料理の違和感にすぐ気づいてくれた。

 些細な変化を見逃さない勇者の勘はすごく頼りになる。


 でも、今日は気づかれたら困る。


「そう?」


 わざとらしくとぼける。

 そうしているうちに、そろそろ薬の効果が出てくるはず。


「あ、あれ? なんだか……」


 佐藤は頭を抑えて、体をフラフラさせている。


「あれ……?」


 こんなの想定と違う……。

 心配になって、佐藤に近づいたときだ。


「あっ、佐藤!?」


 私のときとは違い、煙が出なかった。

 佐藤はその場で意識を失って倒れそうになる。

 テーブルに頭をぶつける前に、慌てて受け止める。


「佐藤……?」


 苦しそうな顔を、じっと見つめることしかできない私。


――――――――――


「うう~ん、シャロール?」


 僕はぼんやりした目をこする。

 どうやら気を失っていたようだ。

 シャロールが心配したように覗き込む。


「大丈夫、佐藤?」


「う、うん……」


 とりあえず、どこも痛くはない。

 少し体がダルいというか、違和感があるけど。


「あのね……実は謝らなきゃいけないことがあってね」


 やけに深刻な顔で、うつむいているシャロール。


「なにを?」


「前にさ、私が男になったときあったでしょ?」


「ああ、あれか。大変だったな。シャロールが僕に……」


「わーわー!! それは忘れてよ!!!」


 ふふ、よっぽど恥ずかしいんだな。

 顔を真っ赤にして、手を振っている。


「それでね、あのお薬を佐藤にも飲んでほしいなって思ったの」


「……うん」


 あぁー、つまり……。


「ちょっと、気になっただけなんだけどね。佐藤が女の子になったらどうなるか見たかったの」


 まるでいたずらをした子供のように言い訳をするシャロール。

 目も合わせないし、後ろめたいことがあるようだ。


「でも、薬を入れすぎちゃったの……。料理に……」


 なるほど。

 だからか。


「それで僕は倒れちゃったんだな」


「うん、ごめんね……」


 シャロールはすっかりしゅんとしている。

 目に涙を貯めて、泣き出しそうだ。


 今回の事件は彼女の勝手な行動で起きたことだが、彼女に悪気はなかったようだし……。


「いいよ、シャロール」


「佐藤……」


「ただ、次からはこんないたずらするなよ?」


「うんっ!」


 というわけで、一件落着だ。

 僕は体を起こし……。


「あ、あれ?」


 胸のあたりに重しが乗っていて、起き上がりにくい。


「なんだ、これ?」


 重しを取り除こうと、手で触れる。

 すると、重さに反して柔らかい感触が伝わってくる。


「……」


 思考停止する僕。

 そこに、シャロールが語り掛ける。


「佐藤、それおっぱいだよ」


 言われずとも、うすうす気づいていた。

 そう、僕は今女の子になっていたんだ。


――――――――――


「わ~! 佐藤かわいい~~~~!!!」


 姿見の前に立つ僕。

 顔は前より小さく、かわいらしい。

 髪色は同じだが、肩まで届くロングヘアだ。

 服は変わっていないので男もののポロシャツのまんなか、胸が大きく盛り上がり、激しく主張している。


「な、なんだか恥ずかしいな……」


「ふふふ、そんな佐藤が見たかったんだ!」


「も~、シャロールったら!」


 女性化の影響か、ついシャロールのような口調になる。


「ねぇねぇ、ちょっとデートに行こうよ!」


「い、今から……!?」


「うん!」


 僕は勢いに圧されて、支度を始めた。


―――――――――


「デート、デート〜♪」


 僕たちは二人で町に出る。

 シャロールはお気に入りの真っ白なワンピースを着て。

 一方僕は、シャロールから貸してもらった黄色いTシャツに、下は赤のスカートだ。

 ワンポイントで、頭には青いリボンを着けてもらった。


「それ、似合ってるねっ!」


「あはは、そうかなぁ……」


 それにしても、スカートって風が入ってきてスースーする。

 その下はパンツなので、見えないように気を遣わなくちゃ……。


「……でも佐藤。ごめんね」


 シャロールは僕の耳元で、小さく言った。


「な、なにが?」


「佐藤のおっぱいがでかすぎて、私のブラ着けられなくて……」


「ぶふぉっ!?」


 そんなこと外で言わないでくれ!

 と、僕の顔が真っ赤になったときだ。


「あれ、シャロールさんじゃないですか! こんにちは!」


 話しかけてきたのは、僕の仕事の同僚のマイクだ。


「マイクさん、こんにちは!」


「こ、こんにちは……!」


 こいつは、僕が誰かわかるだろうか。


「……あの〜。失礼ですが、そちらのお方は?」


 マイクは僕を見て尋ねる。

 いや、僕の顔は見てないな。

 そのつもりなんだろうが、視線がおっぱいに向いているのはまるわかりだぞ。

 こういうの、女性からはすぐわかるんだな〜。

 ……僕も気をつけよう。


「彼女は、さと……むぐっ!?」


 正直に言うと、面倒なことになる。

 慌ててシャロールの口を塞ぎ、自己紹介する。


「私はサト……リーナ。サトリーナです!」


 僕は満面の笑顔を向ける。


「サトリーナさん……。よろしくおねがいします!」


 よしよし、怪しまれてないな。

 こいつ、僕と仕事をしてる時よりいきいきしてやがる。


「それにしても、珍しいですね〜」


「なにがですか?」


「シャロールさんが、旦那様と一緒じゃないなんて」


 ぎくっ!


「そ、そうなんですよ! たまにはお友達とショッピングがしたくて〜」


「うんうん、そうなの!」


 なんとかごまかす。


「それにしても、サトリーナさんもお美しいですね〜」


「え、そうですか?」


 嬉しいな。


「もしお相手がいらっしゃらないのなら……」


「だーめーでーすー!!」


 シャロールが遮った。

 僕の腕に抱きつく。


「彼女には私がいるので!」


「え……あぁ、はい……」


 マイクは見るからに困惑した。

 そりゃそうだ。

 今の僕たちは女の子どうしなんだから。

 ちょっと特殊なカップルだと思われたことだろう。

 とにかく、変な誤解を生む前に訂正しよう。


「も〜、シャロールったら。私達はただのお友達でしょっ!」


「あ……。そ、そうだったね!」


「私のことになると、すぐ熱くなるんだから〜」


「あはは、仲がいいんですね〜」


―――――――――


「今日は楽しかったね、佐藤!」


「そうだな〜」


 たまには女の子になるのも楽しいな。


「また明日になったら、戻っちゃうかな」


「たぶんな」


 以前シャロールが男になったときもそうだった。

 ちょっと寂しい。


「じゃあ〜、戻る前に〜……」


 シャロールは怪しく微笑んでいる。

 い、嫌な予感がするぞ。


「一緒に寝よっ!」


「うおっととと……」


 シャロールに押されて、僕たちはベッドに倒れ込む。


「またいたずらしてもいい?」


 僕の上に覆いかぶさるシャロール。

 彼女は顔の半分を僕のおっぱいに埋めて、じっと見つめてくる。


「え!? だ、だめだよ!」


 このあとは……ご想像にお任せする。


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シスエラTS物語 砂漠の使徒 @461kuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ