シスエラTS物語
砂漠の使徒
第1話 シャロール男性化
「あ~!! シャロールそれは!!!」
僕が朝起きると、シャロールはテーブルの上に置かれていたあの薬を飲んでいた。
「これがどうかしたの?」
きょとんとして、すっかり飲み干して空になった瓶を振るシャロール。
「そ、それはな……」
と、僕が説明しかけた時だ。
シャロールを謎の煙が包む。
「わわわっ! なに!?」
そして、煙が晴れた先にあったものとは。
「お、お前……シャロールだよな?」
僕が疑問を抱いているのは、目の前にイケメンがいたからだ。
シャロールは消え、イケメンが現れたのだ。
普通ならここで困惑するところだが、僕はさっきシャロールが飲んでいた薬の効果を知っているのでいくぶんか冷静だ。
「あたりまえだろ、俺はシャロールだ」
「ぐはっ!」
聞きなれない低く透き通った声がした。
一人称も俺だし、口調も違う。
だが、たしかに彼はシャロールと名乗った。
「あー、落ち着いて聞いてくれ、シャロール」
「なんだよ、佐藤?」
「ほらこれ」
僕は鏡を彼女に前に差し出す。
「……え?」
自分の姿を確認して、ようやく異変に気付いたようだ。
「これが、俺?」
いつもと同じ青い髪、黄色い瞳。
だが、髪型は男の子っぽくぼさぼさ。
それに、なにより整った顔立ちのイケメンだ。
「さっきシャロールが飲んだのは、性別が入れ替わる薬でさ」
「俺、男になったってこと?」
「うん、まあ、そういうこと」
あれ、おかしいな。
なんで僕は動揺してるんだ?
「どうしたんだ、佐藤?」
シャロールは立ち上がる。
その身長は僕より頭一つ上だ。
「あ、いや……」
なんだろう、この気持ち。
前にもあったような。
あれはシャロールと冒険をしているときも……。
「いいたいことがあるなら言えよ」
シャロールの男らしくなった硬い手のひらが僕のあごに添えられる。
これ、あごクイってやつじゃ……!?
「もしかして俺に、ときめいてんのか?」
―――――――――
「……」
僕とシャロールはしばらく口をきいていない。
しばらくといっても、そんなに長くはない。
けど、短くもないような。
とにかく、さっきのあごクイから僕はだんまりを決め込んでいる。
「なぁ、佐藤」
テーブルを挟んで向き合うシャロール。
睨む僕に、バツが悪そうに話しかけてきた。
「俺、悪かったと思ってる」
ウソだ。
真実はわからないが、ウソだと思った。
「お前の気持ちも考えないでさ」
そう。
僕の気持ちも考えてほしい。
「正直に言ってくれ。俺のこと、どう思ってんだ?」
「正直に?」
ホントに正直に答えていいんだな?
「ああ。もし俺のことが……」
その先は聞きたくない。
「好きだよ」
「……あ?」
口を開け、マヌケな顔になるシャロール。
「好きだ。シャロールのことは前から好きだった。けど、今は……」
「もしかして、きら……」
だから、その先は聞きたくないって……!
まだまとまってないが、遮るために話し始める。
「僕さ、変なんだ。好きだけど、なんか違うんだ。似てるけど、同じじゃない。そんな気持ち」
「……なるほどな」
シャロールは何を納得したのか、椅子から立ち上がり、僕の隣にしゃがみ込んだ。
下からシャロールがまじめな顔で僕を覗き込む。
「佐藤は、どっちのシャロールも好きになったんだろ?」
「どっちの……?」
「俺が……私が女の子だったときと、今男の子になってるとき。どっちも好きだから混乱してるんだよ、きっと」
「そう……かも」
「ただ、姿は変わっても変わらないものもある」
「……なに?」
「それは、シャロールの佐藤への愛……だよ」
そう言って微笑む彼の顔には、僕の愛する彼女の面影も感じられた。
「シャロール……」
僕も、シャロールが好きなんだって改めてわかった。
「からかって悪かった。でも、お前のことが好きでたまらなくて、ついいじめたくなっちまったんだ」
「やめてくれよ……シャロール」
僕はシャロールのいたずらによく振り回される。
彼女曰く、僕は素直で正直者で、焦る様子がかわいいかららしい。
「あーあ、僕ももっと男らしかったら、こんなことにならなかったのに!」
「ははっ、いいじゃないか! 佐藤は今のままが一番だぞ!」
いつもと同じセリフが、今日はいつもよりかっこよく読み上げられた。
(了)
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