第5話 父の嘆き

 朝のお勤めが終わり、ミサに訪れていた町の人々が帰ると、静かになった聖堂の中心で司祭はため息をついた。ようやく朝のお勤めが終わったのだ。昼になる前にいつもの習慣を手早く進めねば。

 聖餐台の下から分厚い本を取り出すと、途中のページを開いて呪文を唱え始めた。

「ずさららう・・」

 言わずと知れた復活の呪文である。

「これも駄目か」

 ぶつぶつとつぶやきながら、本の一部に線を引いて文字を消す。

 あの親不孝者め。あの粗忽者め。魔王を倒しに行くと家を出たのはまだ許せる。まさかのときのために行く先々で復活の呪文を手に入れては父の下に送って来たのは褒めてやる。

 だが、その復活の呪文を書き間違えて送って来たとは呆れたものだ。

 復活の呪文を唱え終えても何も起きなかったときのあの驚き。こうなれば間違った復活の呪文を一文字づつ直して唱えてみるしかない。

 「ずさ」ではなく「ずざ」かもしれない。「けう」ではなく「けえ」かもしれない。そういった可能性を色々書き出してみると何十冊もの本になってしまった。

 これをすべて教会に頼んでいてはお金が続かないので、父は自ら司祭となった。毎日のお勤めの間を縫って、復活の呪文を試し続ける。

 俺が年老いて死ぬまでに、あの親不孝者に再会することができるであろうか。

 諦めきれない父は今日も復活の呪文を唱え続ける。

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ドラクエおつまみ のいげる @noigel

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