第2話 神様証明タイム

取り敢えず勢いでペンギンを自宅に招き入れたのはいいものの。 


「このご飯美味しいですね!なんて名前なんですか?」


「ピザ」


「ピザ、いい名前ですね!!」


互いに腹の虫がなったので、ついでにボクはテンションもおかしくなっているので自炊する気もなれず。ペンギンに確認した所何でも食べられるらしい、なので出前を頼むことにした。


「カニが沢山入ってて好きです!」


「良かったね」


「はい!」


嬉しそうにピザを頬張るペンギン。ふとした時に鼻歌でも聞こえてきそうな愉快さだ。歌という概念を知っているのかは知らないが。


ピザが無くなるまでにさほど時間は掛からなかった。大きくなった腹を擦り

壁にもたれかかるペンギン。その小さい体のどこにあれだけの量のピザが入る余地があるのだろうか、疑問は尽きない。


落ち着いたところで改めて、突如として現れたペンギンを観察してみようと思う。


今更ながら気づいたのは、ペンギンがまだ成体ではなく成長過程の姿であるという事だ。詰まるところ赤ちゃんペンギン。小柄なのはもちろん、丸みを帯びたボディに灰色のふわふわとしたくすんだ体毛、そして小さな黒いクチバシにくりくりとしたつぶらな瞳。他にも時折覗く鋭い歯、柔い足。総合評価はオール満点、可愛さの天元突破。素晴らしい生き物だ、ペンギン。


しばらくするとこちらの視線に気がついたのだろう、首を少し横に傾けて、その純粋無垢な笑顔をこちらに向けてくる。


「可愛い」


「え、あ、ありがとうございます」


少し照れているようで、人間のようにぽりぽりと頬を掻くペンギン。つい本音をこぼしてしまったが、まあ仕方がないだろう。


それから暫くして。いつまで経ってもピザの余韻に浸っている訳にも行かないので、早速ペンギンに疑問をぶつけてみることにした。ペンギンは先程までピザを置いて対面していたテーブルを回り込み、目の前までやって来ている。


「さっきのさ、ボクの願いを叶えるからここに住まわせてくれって話、本気?」


間が少し空いて、ペンギンが頷く。


「はい、大真面目です」


「じゃあさじゃあさ、これからボクの抱き枕になってくれるってのも?」


「抱き枕、精一杯頑張ります!!」


決意の入り方が違う、小さな手でのガッツポーズ。可愛い。


「え、それじゃあさ、早速今日からってことで」


「は、はい!」


ぽんぽん、と自身の膝を叩いてアピールする。ペンギンはよたよたと、中身を消化しきれていないお腹を抱えながら歩いてくる。手が届く距離まで来たときに脇腹に両手を差し込み持ち上げてやる。「うわっ」という悲鳴が上がったものの、膝の上に置いてやると安心したのかすぐに大人しくなった。


「モフモフだぁ……」


ペンギンのおてて、首筋、お尻など、体の細部に至るまですべてが柔らかな毛で覆われている。子供だからだろうか、確かな熱を内側に秘めていて冬場は湯たんぽとしても重宝しそうな予感がする。いや、きっとそうに違いない。そのままの状態でおててをスリスリしていると、これがもう止まらないのだ。


「あ、あの…」


手の腹をおててと何度も擦り合わせていると、ペンギンが何か言いたげに身体をくねりもじもじとさせていた。


「あ、痒い所ある?掻いてあげるね」


「いや、違くてですね」


とりあえず首筋をなぞってみる。

ずずず。


「ああそこ、凄い良いです…」


「それは良かった」


「だからそうじゃなくて!!!」


ものすごい剣幕で声を荒げるペンギン。両手の平がペチペチ肌に当たって地味に痛い。そのままの勢いでボクの膝から逃れると、意を決したように振り向きこちらを見つめてきた。


「私は、貴方の願いを叶えるためにここにやって来たんです」


「さっきも聞いたけど」


「私、実は神様なんです」


「へえ」


「反応が淡白過ぎませんか!?」

 

「いやだって、ペンギンが喋ること自体おかしいというか、今更神様とか言われても印象薄いっていうか……」


心の底からの本音である。というか今の所説得力が全くもってない。


「証拠を見せればいいんですね、そういう事ですよね!!」


こちらの返事も聞かず両手を広げ天を仰ぎ始めたペンギン。何してるんだ、と突っ込むのも野暮だろう。ここまで来たら最後まで見届けてやりたくなってしまっていた。好奇心とは恐ろしいものである。


しばらくの間ペンギンを眺め続けていると、次第に変化が起こり始めた。


「………」


電灯がちかちかと停電の前触れでもないのに点滅し始め、部屋全体がぐらぐらと揺れされているような感覚。そして完全に電気が消えたとき、それは起こった。


神々しい光がどこからか現れ、手を広げているペンギンの元へぐおんぐおんと集まっていく。光は円を描き、ペンギンに近づくほどその輪を小さくしていく。その体に触れた瞬間、リングは霧散して部屋を照らした。やりきった顔をするペンギン。


「え……、終わり?」


「神々しいでしょう?」


嘘だろう。少しだけ、そう、ほんの少しだけ期待していたというのに。


「今の光っただけじゃん」


「そんなことないです、ちゃんと見てください!!」


天を仰ぐのをやめ、グイグイ距離を詰めてくるペンギン。妙に鋭いクチバシが嫌でも目に入る。見た目は赤ん坊とはいえつつかれてはひとたまりもないだろう。


「つつきませんよ!!」


あれ、声に出ていただろうか。


「簡単なものですけど心くらい読めますよ」


「そっちのほうが神っぽいじゃん…」


嘘偽りのない感想だった。








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神様は、抱き枕。 抱き枕 @yasuriya

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