第七話「自分の気持ち」


 =今までのお話のおさらい=


 やたら陽キャにこだわる意外は普通の女子中学生、愛坂 マナ。


 ある日、異世界の国であるラブレンティアから来たラブリージュエルと言う喋る変身アイテムで魔法戦士エンジェルハートに変身し、ラブレンティアからラブリージュエルを追ってやって来た侵略者、ダーク・ディサイドと戦うことになる。


 しかしダーク・ディサイドは次々と刺客を送り込んで来て愛坂 マナは連戦を強いられ、ついに限界が来て病院に運び込まれる。


 そこにダーク・ディサイドに協力するラブ・レンティアの王女の一人、ディアーナと昼間に退けたばかりのマジスの襲撃を受ける。


 その窮地を救ったのは新たな魔法戦士エンジェルマーキュリーとラブレンティアの騎士エイジスと謎の白いローブの女性だった。


 二人の協力もあり、被害を最小限に抑えてディアーナとマジスを撃退することに成功したのであった。





 Side 愛坂 マナ


 学校は暫く休校。


 私も病院で療養することになった。 


 正直病院生活は退屈だ。


 だが親も私の思考を読んでいるのか、入院に専念するように言われた。


 さすが親、「休校なのをいいことに友達とハメを外さないようにする」のはお見通しらしい。


 それはそうと――


「どうしてアンタがここに来たのよ?」


 オタ崎が来た。

 見舞いに来ないで今更来るなんてどうかしてると思った。


「そうも言ってられない状況なんでな」


 どこかくたびれつつ彼はそういった。


「どう言う状況よ?」


「端的に言うと俺もお前の関係者だと思われてラブレンティアの住民が来た」


 そう言うと何処からともなく鞄を背負った白い猫が現れた。

 空中を浮遊している。

 

「え、嘘? ちょっとどう言う事よ!?」


「バカ、声が大きい。ともかく一から事情を説明するぞ」


 そして色々と話をしてくれた。


 どうやらラブレンティアのことについて。


 ダーク・ディサイドについて。


 私も昨日の戦闘や新しい戦士や騎士のこと、謎の白いローブを身に纏った魔法使いについて話した。


 ある程度話終えた段階でショーニンと言う猫は周囲の警戒と言う事で部屋からいなくなった。


「それはそうと昨日何してたのよ?」


「正直助けに行くことも考えたんだがな。避難警報が発令されて、町は戦争でも起きたかのような騒ぎだったよ。学園に避難することになって、異様な雰囲気だった。あちこちに警察官がいてな。まるで世界の終わりって奴を感じたよ」


「そんな風になってたの・・・・・・」


 どうやら想像以上に病院の外は大変な事になっていたようだ。


「ここにいるショーニンの透明マントとか便利グッズとかで抜け出すことも考えたがそう言う雰囲気でも状況でもなかった。どの道人の目線が多くて抜け出せそうなタイミングは学校についてからだった・・・・・・まあその時にはもう戦いは終わってたんだけどな」


「まあそれが普通よね」


 オタ崎は普通の中学生だ。

 それが普通なんだ。 


「らしくないな。「アンタ使えない奴ね」ぐらい言われるの覚悟してたんだけどな」


「ちょっと私のこと、どう思ってるの?」


 オタ崎の中の私のイメージは阿久津さんと五十歩百歩な感じなのかな?


「しかしアンタ何て言うか別の意味で垢抜けてるわね。本当に中学生?」


「俺からするとお互い様なんだが――まあ用は済んだし――」 


「そうだ。何か暇潰せる道具持ってない?」


「道具? なるべく手早く済ませて立ち去るつもりだったから持ってないぞ?」


「そんなに学校の関係とか気にしてるの?」


「昔色々あってな。それで敏感なんだよ。それに学校の関係どうこうとかお前が言う台詞か?」


「・・・・・・確かにね」


 普段から周りの視線を人一倍気にしているのが私だ。

 陰キャになりたくなくて陽キャである事を演じながらそう言う自分を演じている。

 それが私なんだからオタ崎の言う事も分かる。


「ねえ? 連絡先交換する?」


「いいのか?」


「うん。坂崎君」


「本当にどうしたんだ?」


 オタ崎ではなく、坂崎と呼んだ事に苦笑する。

 ちょっと反応が子供っぽくて可愛い。

 お互い子供だけども。


「色々とあってね」


「そうか」

 

 そんな時にノックもせずに誰かが入ってきた。

 長い黒髪の見かけだけは美女の阿久津 ミヨと取り巻きの女子達だ。

 

 ダメだ。


 一番来て欲しくない時に一番最悪な奴がきた。


「あら? これは驚いたわ。貴方達、そう言う関係だったの?」


「誤解だ。親にクラスメイトなんだから見舞いぐらいには顔出しとけってうるさくてな――」


(坂崎君、何気に凄い演技力ね)


 口調も演技も完璧だ。

 本当に同い年だろうかと思ってしまう。


「それより阿久津さんは何しにきたの?」


「大切なクラスメイトですもの。様子を見に来るのは当然でしょう?」


 そう言って昨日も来たのだが。

 しかも演技くさい口調なのも昨日と一緒だ。


「まあ来て正解でしたわ。こんなキモオタに近寄られるなんて、底辺のゴミの臭いがうつりますわね」


 と本人の目の前で悪びれもなく言う。

 私は「人としてやっぱり最低だ、この人は」と思った。


 何か言おうかと思ったがここでクラスの男子陽キャ頂点の藤堂 慎一も来た。


 物凄いイヤな予感が。


「なんだお前もいたのかキモ﨑」


「ああ、いて悪いか? そろそろお暇するつもりだけど」


「それがいい。お前が一緒だと愛坂が迷惑だ。二度と近寄るな?」


 あんまりな物言いだ。


「なんだ? お前愛坂の保護者か彼氏か?」


 ムカッと来たのか、坂崎君は皮肉で返す。

 私で無くても藤堂君のこの物言いは怒るわ――


「ちょっと、慎一。こんな奴さっさと病院から追い出しなさいよ。オタク臭が移るわ」


 取り巻きの女子達もそーよそーよと相の手を入れる。

 私もなんだかむかっ腹がたってきたので坂崎君の手を引っ張って病室を出た。


 周りも、坂崎も驚いた様子だったが構わず引っ張る。



「いいのか? 学校で噂になるぜ? 最悪いじめ案件だぜこれ?」


「いいのよ――それに、何だか分からなくなってきたから」


 場所を静かな屋上へと移す。

 メンタルセラピーと言う奴なのかまるで公園のように芝生とか木々とか植えられていた。

 自殺防止のためなのか念のため柵が設置されている。

 適当に置かれていたベンチに座り、私は本音を語る。


「何が分からなくなってきたんだ?」


「陰キャとか陽キャとかそう言うのさ」


「・・・・・・お前の口からそう言うのが出るとは思わなかった」


「うん。私も驚いている――」


 そして私はある話をする事にした。


「私がこう言う風に陽キャとか気になるようになったのは――陰キャになるってのはどう言う事か知ってるからなの」


「・・・・・・イジメにでも荷担してたのか?」


「そうね。阿久津と私は五十歩百歩なのよ。直接手を下したワケではないけど、救いの手を差し伸べることが出来なかった。結局その子は転校してしまった」


「それで罪に問えるなら少年院が幾らあってもたりね―よ。誰だって一度は経験する学校社会の通過儀礼みたいなもんだろそれは?」


「だけど私――なんだか納得できなくなってきてるの」


 すると坂崎君は溜息をついて頭をガシガシと掻き、「あのなー」と言った。


「魔法戦士になって凄い力を得たんだろうけど、君も俺も中学生だ。全知全能の何とやらじゃねえんだよ」


「それは――」


「フィクションの世界ですら正義の味方なんてネタにされる時代だぜ? 正義の戦士は聖人君子でなきゃいけないって言う法律もねーんだ。あんまり考えすぎると潰れるぞ」


「うん、そうよね。坂崎君は良い相手が見つかるわ」


「相手ね――その前に子供の養育費とか考えて恋愛とか考えられねーよ・・・・・・」


「坂崎君、返し方が面白いね」


 何だか面白くて笑ってしまう。


「あーここは、ありがとう? って言うべきか? たく、学校再開したらイジメられるかもしんねーのに呑気なもんだ・・・・・・」


「だったら戦うわ」


 それを聞いて坂崎君はキョトンとなった。


「戦うってお前まさか変身して――」


「それは流石にしないわよ。だけど殺し合いするワケじゃないからそれを考えるとまだマシな方よ」


 それを聞いて坂崎君はハァと溜息をついた。


「そんなんだと、いい高校にいけないぞ」

 

「そうね。勉強もちゃんとしないとね」


 ほんと、エンジェルハートやダーク・ディサイド抜きでも人生って大変だなと思う。


「こんなところにいたのか?」


「お前追っかけてきたのか?」


 そこに藤堂 慎一が現れた。


「阿久津の奴はどうした?」


「先に帰ったよ。それよりお前、愛坂とどう言う関係だ?」


「関係って言われてもなぁ・・・・・・こっちが聞きたいって部分もあるんだけど、安心しろ。恋愛関係には発展してない」


(恋愛関係かぁ・・・・・・)


 今私はエイジスに対して心が揺れ動いている。

 だけど坂崎君はどうなのかな? と、ふと思ってしまう。

 当たり前の事だけど何時までも子供――中学生でいられない。

 坂坂君は冷めてるところがあるけど、心の奥底でそう言う気持ちを抱いたりするのだろうか?


 そんな事を考えていると、坂崎君は殴られた。


「ちょっと藤堂!? 何考えてるの!? 正気!? ここ学校じゃないのよ!?」


「愛坂もなんでそんな奴を庇うんだよ!? 何か変だぞ!?」


「人の心配をすることがそんなに変なの!?」


「お前もこいつの事をオタ崎とか言って一緒にバカにしてたじゃないか!?」


「それは――」


 それを言われると辛い。

 言葉に詰まる。


 そうこうしているウチに坂崎が立ち上がる。


 そして一言こう言った。


「・・・・・・お前やっぱり好きなんだな。愛坂の事が――」


「それは――」


 それを言われて私は「えっ」となる。

 そんな私の気持ちを知らずに彼はこう言った。


「上手く言葉で言い現せないが、たぶん付き合うつもりはないだろうぜ」


「そう・・・・・・なのか?」


 私は少しを間をおいて「うん」と頷いた。

  

「私謝らないといけない。以前の私ならあの藤堂君と付き合えるんだ、ラッキーとか思ってた。だけど私は外見とか雰囲気とか陽キャの頂点とか外面だけしか見てなかった」


「何を言って・・・・・・」


「今の藤堂君は――正直分からない。うんうん、それどころかイヤな奴なんじゃないのかと思ってる。例え付き合ったとしても長続きはしないよ」

 

「ッ!」


 殴られた。


 そして――


「テメェ! 見下げ果てた野郎だな! 俺も愛坂の奴に散々悪口言われたけどな!? あいつはお前に正直に自分の気持ちを、過去の過ちを認めて伝えたんだぞ!? そんな度胸も覚悟も暴力で返すのが陽キャって奴のやり方かコラァ!!」


 胸ぐらを掴んで坂崎君が一気に捲し立てるように叫ぶ。

 藤堂の返事は拳だった。


「気に入られなければ暴力で何でも解決するのがお前のやり方か!?」


「黙れ!! お前に俺の気持ちの何が分かる!?」


「知るか! 平然と人を殴って返す奴の気持ちなんか分かりたくもねえよ!」


 そこからは壮絶な殴り合いに突入した。

 当然この屋上には他の利用者とかもいるし昨日はあんな騒ぎもあったばかりだ。

 警備の人間やら警察やらも来ている。

 人が来るのは時間の問題だ。

  

 倒れたのは坂崎だ。藤堂は倒れた坂崎に馬乗りになって容赦なく追い打ちをかける。


「もうやめて!?」


 私は咄嗟に止めようとした。

 だが殴られてしまう。


 藤堂は――目を見開いて――「違う」、「これはその――」と何やら言い訳したが――


「大嫌い!! アンタなんか大嫌いよ!!」


 そう叫ぶと血相を変えて藤堂は消えていった。

 とにかく坂崎君をどうにかしないと。



 坂崎君は治療を受けた。

 意識は保っていた。

 私は洗いざらい事情を話した。

 学校ならともかく今回の事件は学校の外での出来事だ。

 

 警察も介入しての事情聴取になった。 


 藤堂 慎一はすぐに捕まったらしい。


 後は当事者とその親同士とかで話が決着するだろうとのことだ。

 

「まさか俺も入院することになるとはな――」


「大丈夫なの?」

 

 そして現在。

 念のために精密検査やら何やらで入院する事になった。

 

「ああ。一応ショーニンに最低限の回復役とか融通してもらってる」


「一気に直さないの?」


「怪しまれるだろ」


「それもそうよね」


「たく。とんだ一日になったぜ」


「ごめん。私が悪かった」


「悪いのは藤堂だろう」


「その――藤堂のことは」


「悪く言うなってか? 分かったよ。これは貸しだ――もっとも噂どうこうをどうにかする事は出来んが・・・・・・たぶん俺が悪いみたいな流れで決着つくんだろうな」


 それが普通で、そして異常な流れだ。

 陰キャの責任は陰キャの責任。

 陽キャの責任は陰キャの責任。

 それが学園社会って奴だ。


「大丈夫。そうはさせないから」


「・・・・・・変わったな。本当に」


「変わらなきゃいけないと思ったから」


 本当に自分でもどうかしてると思う。

 昨日の一件があってからとても変だ。


「とにかく友人とかにも情報回していくから。たぶん阿久津とかが何か仕掛けてくると思うけど――いざっとなったらエンジェルハートの力を利用してでも戦うわ」


「お前さっき使わないと言ってなかったか?」


「悪用するつもりはないわ。それに成り行きとは言え、勝手に選んで戦わせるように仕向けてそれに従ってるんだから、ある程度はラブリージュエルにも大目にみてもらうわ」

 

「どんどん、とんでもない事になっていくなぁ・・・・・・」


 坂崎君はハァと溜息をついた。

 確かにとんでもない事だけど――けど、私を助けてくれた人達みたいな、立派な大人やエイジスさんみたいになりたいから。

 これが今の私の目標。

 今のやりたい事だから。


  

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