第六話「運命の夜」
*第五話で坂崎 ユウヤ(オタ島)と猫の商人、ショーニンが会話してたぐらいの時間帯からすぐ後ぐらいから始まります。
*と言うか第四話からまだ一日経過していません。
Side 愛坂 マナ
夜中。
病院前は警察官達が駆けつけ、病人の避難誘導や敵の騎士甲冑纏った兵士相手に応戦している。
拳銃の発砲音やら爆発音らしき音が聞こえる。
私は痛い体に鞭打ちながらエンジェルハートに変身した。
『戦えるのは三分が限界です。それ以上はアナタが持ちません』
(三分って・・・・・・短すぎない?)
『すみません・・・・・・』
ラブリージュエルに愚痴を言っても仕方ない。
とにかく私は眼前の警察官達を助けに行く。
敵の騎士は灰色の鎧を身に纏っているが、中はどうなっているのか分からない。
『あれは一種の傀儡兵。地球で言うなら無人機です』
「教えてくれてありがとう!」
そう言って私は純白の剣を取り出し、両断していく。
真っ二つにして中身を見ると中は本当に空っぽのようで中には兵士を模した、店のオモチャコーナーにあるソフビ人形らしき物が入っている。
これが傀儡兵のコアなのだろう。
これはこれで何だか不気味だ。
(一体一体はたいしたことはないけど数が――)
『それが傀儡兵の恐ろしいところです。とにかく物量で押し、相手を消耗させる。幾らでも替わりが効く。それが傀儡兵なのです』
(このままじゃ私――)
まだ三分も経ってないが次々と敵の戦力が補充される。
「ぐっ!?」
体が痛み、それでひざまつく。
幸いにして周囲の敵兵はある程度片付けたがそれでも敵がゾンビのようにジワジワと迫り寄ってくる。
「だ、大丈夫か君!?」
警察官が立ち寄ってくる。
年期が入った制服のオジサンだ。
あれこれと警察官達に指示を出している。
「私は――大丈夫――」
「君、警察署で大分無理したんだろう!? まだ一日も経ってないし怪我も治ってないんじゃ――」
「それはそうだけどこの状況をどうにかしないと――」
「ここは私達に任せ避難して欲しい」
そうしたいのは山々だがと思い周りを見渡す。
拳銃はとっくに弾が切れたのか、警棒で殴ったり投げ飛ばしたり、相手の武器を奪って斬りかかったりと彼方此方で大乱闘を繰り広げていた。
「だけどその娘がいないと我々は!!」
と、誰かが悲鳴混じりにそう言ってくるが
即座に「気持ちは分かるがこんな娘に戦わせて恥ずかしくないのか!! せめて病院の避難が完了するまで持ち堪えさせろ!!」と叫んだ。
「そう言うワケにもいかないのよね~」
入れ替わりに場違いな声が響いた。
金髪のショートポニーの髪の毛に赤いリボン。
美しく整い、自分と同い年ぐらいなのにどこか大人びた要素と小悪魔的な印象を与える顔立ち。サキュバス、もしくはヴァンパイアですと言われても信じてしまいそうだ。
衣装は現代ファッション風に仕立て直されたミニスカでノースリーブドレスにブーツ。
そして右手には漆黒の剣が握られていた。
離れていても分かるただならぬオーラからただのコスプレ少女ではないのはわかりきっている。
傀儡兵も動きを止めていた。
「誰だ君は?」
代表して傍にいた警察のオジサンが尋ねる。
ただならぬ雰囲気を感じ取っているのか警戒していた。
「私はダーク・ディサイドのプリンセス、ディアーナ。久しぶりね――ラブリージュエル。そして初めまして、異界の魔法戦士さん」
地面に降り立ち、丁寧に両手でドレスの裾を掴んで少し上に上げてお辞儀する。
「ちょっと君、こんなところで何やっているか分からないけど危ないから――」
「バカ!? 逃げろ!?」
まだ若い女子婦警が突如として現れた金髪の少女に近寄る。
それを大声でオジさんが静止する。
「あっは!! 本当に庇うんだ!? 噂通りだね!!」
私は女子婦警を突き飛ばし、入れ替わりに胴体を切り裂かれてそのまま倒れ伏してしまう。
痛い。
あまりの衝撃で体を捩らせ、目元に涙をつくり、苦悶の声を出す。
血は出てないだろうか?
私が助けた婦警の人は無事だろうか?
涙目になって何か言ってるが上手く耳に入らない。
「なに? もうおしまいなの? つまんないの」
そこで後ろから黒いローブで悪魔の羽がついたドクロの飾りがついた杖を持つマジスが現れた。
『まあまあそう言わずに。ここで事を終わらせれば。ディサイド様もお喜びになるじゃろ。カカカカ』
「とかなんとか言っちゃって。あーつまんないの。周りの連中何人か殺せばやる気出してくれるかな?」
『カカカ。そうやって油断をなさらないようにな』
「そう言って人の楽しみを奪うつもり?」
などと暢気にやり取りをしている。
私はどうにか立ち上がるが――
『稼働時間限界です。もうどんなに頑張っても変身を維持するのがやっとの状態です』
「それでもやるわよ――」
『しかし――』
「それにこの状況で逃げられると思う?」
『それは――』
もしも逃げたとしてもこの場の人間を八つ当たり気味に皆殺しにするだろう。
こいつらはそう言う連中だ。
「あ、まだ遊べるんだ。じゃあどこまで耐えられるか試してあげる」
そう言ってニコニコと、まるでオモチャを見つけた子供のように嬉しそうな表情で剣を向けてくる。
私も剣を構えるが――
「ま、まままま、待ちなさい!」
割って入るように先程助けた婦警が両手を広げて私の盾になろうとする。
「なに? なんのつもり?」
「そそ、そんな物を下ろして、おおお大人しく逮捕されなさい! 今ならいいい、痛い目をみ、見ずに済むから!!」
涙声でかみかみになってそう言った。
大人の女性の、なけなしの覚悟。
殺されるのは本能的に分かっているのだろう。
みっともないかもしれない。
だけど私はそれが格好いいと思った。
もし彼女と同じ立場なら出来ないと感じた。
涙が出そうになる。
「あっそ、じゃあ死になさい。そこそこ笑えたわ。ばいばい♪」
そう言って剣を振り下ろそうと――言うところで金属音同士がぶつかる音が響き渡る。
婦警はその場にへたり込む。
「ちょっとアンタ何なの?」
「私はエンジェルマーキュリー。エンジェルハート。アナタを助けに来ました」
そして飛び退いて私の傍に来た。
私の同い年ぐらいの少女だろうか。
青い髪の毛にポニーテール。
可愛くも凛々しい顔立ち。
私と同じデザインの首を巻く布にミニスカドレスに長手袋にブーツ。青や水色系統に統一され、白い部分は共通している。
手には青い剣を持っていた。
胸元の飾りは青い水のマークの形だ。
「エンジェルマーキュリー? 少しは遊べそうな小娘が現れたじゃない」
『カカカカカ。ワシも手伝おうかの?』
「マジス。引っ込んでなさい。アナタは他の雑魚を――」
それでマーキュリーも私もハッとなった。
どこまでも卑劣な連中なのだろうか。
「そうはさせません――」
『むっ!?』
何者かがマジスに剣で斬りかかった。マジスはそれを杖で受け止めた。
銀色の鎧に落ち着いた色合いの赤いマントを靡かせた騎士。
まるでおとぎ話の世界からそのまま飛び出してきたような騎士だ。
金髪のボブカット気味のヘアースタイルで男でも女でもありそうな、魅力ある顔立ち。
声や立ち振る舞いからして男のように思えた。
歳は高校生ぐらいだろうか?
そんな男性だった。
「遅れて申し訳ありませんでした、異世界の戦士の皆さん!! そして異世界の魔法戦士、エンジェルハート!! 私はラブレンティアの騎士、エイジス! ダーク・ディサイドの好きにはさせません!」
そう言って剣を構える。
自分の使う剣とは違う、不思議な――見る物を魅了するような輝きを放つ黄金の剣で果敢にマジスへ斬りかかる。
『これ程の剣を使う騎士がおろうとは!? おぬし何者!?』
エイジスと名乗った騎士は黄金の剣で果敢に斬りかかる。
マジスは目に見えて苦戦している。
同時に剣に対して驚きを持っているようだ。
「その剣はラブレンティアの宝剣!? どうしてアナタみたいな無名の騎士が!?」
一旦ダイアから距離を離したディアーナはその剣の正体を知っているようだった
「あなたの相手はこっちです!」
「くっ!?」
その隙を逃さずマーキュリーは斬りかかる。
『今迄よく頑張ったわね――』
「アナタは?」
背後から白いローブの人物がやってくる。
手には三日月を象ったと思われる杖を持っていた。
声や背丈からして大人の女性だろう。
優しくて穏やかな雰囲気が漂っていて――とにかく敵ではないように思えた。
『私はただの通りすがりの魔法使い。本当はもっと早く助けに来なきゃいかなかったんだけど――』
そう言って杖を翳すと体の痛みや疲れがどんどん引いていく。
『これは応急処置に過ぎないから。だけど今回の一戦は耐えられるわ』
「あの、ありがとう――あれ?」
姿は消えていた。
しばし呆然となったが――ともかくやらなければならない事がある。
「エンジェルハート殿はマーキュリー殿へ手を貸してください! マジスは私が押さえます!!」
『ええい!! こんな若造騎士にまで遅れをとるとは――』
との事だった。
両者の戦いの光景は見惚れる程に幻想的だった。
おとぎ話の勇者が悪の魔法使いに立ち向かうような感じだ。
今もマジスの魔法を剣で払い、打ち消しながら肉薄し斬りかかっている。
「幾ら魔法戦士二人が相手でもなったばかりのヒヨッコなら――!!」
ディアーナは魔法を放ちながら距離を取り、近付かれても相手にせず剣で払う。
そして動きが止まっていた傀儡兵も再起動したが警察官には襲わせず、自分を守る盾の役割をするように動かす。
「こんな壁!」
私は剣で壁を突き崩し――
「私達の前では通用しません!」
マーキュリーもそれに続く。
「甘いわね!!」
ディアーナは左手を突き出して何やら自分の身の丈以上の大きな火炎の玉を形成している。
『大規模魔力反応! 私達や警察官はおろか、病院もろとも私達を吹き飛ばすつもりのようです!』
「どうすればいいの!?」
ラブリージュエルの分析に私はどうすればいいか尋ねた。
『二人の力を合わせて防ぐほかありません』
それを聞いていたのかマーキュリーは前に出た。
分析内容をマーキュリーにも伝えていたのかもしれない。
「手伝ってくれますか?」
「ええ、もちろん!!」
そう言って私はマーキュリーの手を繋いだ。
マーキュリーは少し恥ずかしそうに顔を赤らめたがそれも一瞬。
真剣な表情になって解き放たれようとする相手の魔法に向き合う。
「皆様は出来る限り逃げてください!!」
エイジスは叫んだ。
「お前さんはどうするんだ!?」
私に駆け寄ってきた年配のオジさん警察官がエイジスに叫ぶ。
「私には――やらねばならない事があります!!」
そう言って剣を構え、私とマーキュリーの前に出る。
「ちょっとアナタ!? 死ぬ気!?」
「ハートもマーキュリーも命を懸けている。私だけが命を懸けぬと言うのは筋違いでしょう。この宝剣とお二人の力ならば被害は最小限に抑えられると信じております」
「そ、そう――」
なんだろうこの気持ち。
何か胸の奥が熱くなる。
絶対に守りたい。
そう想ってしまう。
「別れの言葉は済んだ!? 死になさい!!」
そして炎の閃光が放たれた。
同時に私とマーキュリーで壁を――魔力の障壁を張る。
エイジスさんは私達のために、この場の人のために最前線で剣で相手の魔法を切り裂いている。
障壁越しでも物凄い圧力で私達は押しつぶされそうにも関わらず、エイジスさんは剣一本で――例え剣にそう言う相手の魔法を防ぐ特殊な力があったとしても――その勇気は凄いと思う。
「雑魚が宝剣持とうが魔法戦士になろうが!! 絶対的な王女である私の敵ではないのよ!! 私の邪魔する物は全員消えろ!! 消えてしまえ!!」
ディアーナは悪鬼のように醜い叫びを上げながら魔力を放出する。
「何時まで続くの――これ――」
エイジスさんの御陰でモロニ浴びずに済んでいるがそれでも物凄い力が降りかかってくる。
このままでは此方が根負けしてしまう。
『とにかく持ち堪えてください!!』
「と言われても――」
ラブリージュエルの言う通りなんだろうけど――
マーキュリーも苦しげな表情をしている。
『大丈夫です――』
「エイジスさん?」
エイジスさんの声が頭に響き渡る。
『私は――多くの魔法戦士を見てきました。貴方達二人なら、ハートなら、マーキュリーなら、これから先現れるであろう正しき心を持った人々達の力があれば、きっと成し遂げられる。この困難だって――』
どうしてなのだろう。
怯えや恐怖はないのだろうか。
私は思った。
誰よりもこの人を救いたいと――
『これは――魔力が――上昇して――』
ラブリージュエルは驚愕した。
「あいつ何なのよ!? 地球人の筈でしょ!? さっきまで死に体だった地球人のどこにこんな力が!?」
敵であるディアーナも驚いていた。
障壁の規模が天井知らずに。
エイジスは当然のこと、病院全体を覆える程のサイズに。
それを遠くで見ていた一般人や病院の避難民や警察、空から中継していた報道ヘリのマスコミ関係者達も魅入っていた。
この奇跡のような光景に。
障壁が散った後はまるで魔力の残滓が花びらのように周囲に降り注ぐ。
やがてディアーナの魔法は途切れ、鎧や顔が焼け焦げたエイジスはその場に跪いた。
だが私の魔力の障壁が散った花びらに当たるとその箇所がドンドン治っていく。
「バカな!? ありえない!? ありえないありえない!!」
『ディアーナよ。ここは撤退するぞ』
狼狽えるディアーナにマジスは撤退を促す。
エイジスに余程痛めつけられたのか、杖は折れ、ローブがあちこち切り裂かれてと、ボロボロな状態だった。
「こんなにコケにされた状態で帰れっての!?」
『復讐の機会は幾らでもあろうて――あの宝剣の男も、新たな魔法戦士もおる。ここは引き下がるのじゃ』
「クソ・・・・・・覚えてなさいよ!」
そして二人は夜の闇へと消えていく。
一先ず長い戦いが終わった。
全てが全て万事解決と言うワケにはいかなかったがともかくこれで終わったのだ。
(お父さんとお母さんまた心配してるだろうな~)、
そうすると怒られるんだろうな~と思ってその事が心配になってきてしまった。
そうならないためにどうやって誤魔かそうかと思いつつ、この場を離れようとする。
その前に。
「エイジスさんも、マーキュリーもまた会える?」
エイジスは笑顔で「会えますとも」、マーキュリーも「会えます」とそれぞれ返事する。
そして二人は退散していった。
(あー疲れた)
こうして長い一日は終わった。
酷い目ばかりに会ったが、悪い事ばかりでもなかった。
それは確かだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます