第五話「新たな来訪者」
Side 愛坂 マナ
私は病院のベッドでラブリージュエルから今の状況を聞かされた。
今の私は戦えないこと。
戦えたとしても半分の力も出せれば良い方。
数分もすれば変身が解除される。
そんな絶望的な状況らしい。
今もしも敵が来たら手の打ちようがない。
見舞いにきた友人だけでなく、お母さんやお父さん、妹を誤魔化すのは心苦しいものがある。
そうこうしているウチに夜になった。
(ねえ、他に仲間とかいないの?)
『すみません。分からないです』
体内にいるラブリージュエルからそんな言葉が返ってきた。
変身ヒロイン番組からもうそろそろ二人目登場なんだけど、未だにそんな気配がしない。
『坂崎さん(*オタ崎のこと)の言うとおりでした。緊急とは言え、私はなんと無知で愚かな決断をしたのでしょうか』
(急にどうしたの?)
『あなたのような無関係な人間を巻き込み、その結果がコレです。死んでもおかしくはなかった』
(確かにね――辞められるなら今すぐにでも辞めるわ)
『・・・・・・』
(でも、そうなったら誰が戦うの? 私以外の誰かに押しつけるつもりなの?)
『それは――』
(なるもんじゃないわね。正義の味方なんて――こうなったら一蓮托生よ。とことんまでやるわ・・・・・・お互い回復に専念しましょ)
本当は放り捨てたい。
だがそれはその役割を顔の知らない誰かに押しつけるだけなのだ。
『それはそうと坂崎さん見舞いには来なかったですね』
(ああ、あいつと私、クラスじゃ接点ないから変な噂がたたないように色々と気を遣ってるんでしょ)
『どうして彼はそんなに悪く言われてるんでしょうか?』
(学校なんてそんなもんよ。それにあいつはまだマシな方で酷い奴は陽キャの道化やパシリやらされるんだから)
『聞きますがアナタはそれでいいんですか?』
(え?)
『アナタはダーク・ディサイドの理論を真っ向から反論しました。しかしそれを認めていると言う事はダーク・ディサイドの理論を受け入れてると言う事ではないのでしょうか?』
(それは――)
確かに言うとおりだ。
だがどうしろと言うのだと言う気持ちも湧いてくる。
だが切り返しの言葉も思いつかず、ラブリージュエルが(すみません。気を悪くしたなら忘れてください)と謝られた。
☆
Side 坂崎 ユウヤ
友達を招いたことがない家の自室――プラモやらアニメグッズやら漫画やラノベ、ゲームだらけなオタク部屋で自分は考える。(親はこの部屋についてあまりいい顔しない)
今あいつ――愛坂 マナは病院にいる。
それだけのダメージを負っていることだ。
敵は愛坂の体調が完全に直るまで待つだろうか?
答えはNOだ。
最悪病院の入院患者もろとも葬るつもりだろう。
いや。
それ以前に葬るつもりなら幾らでも機会があったことに気づく。
最初の戦いは相手にとって「想定外の事態だった」で説明がつく。
二回目もそうだ。
三回目は町もろとも爆破するつもりだったのか、タンクローリーの化け物だったらしいが――そのインパクトのせいで薄れがちだったがここにも倒すは機会はあった。
四回目は警察署の戦いだったらしく、これもしくじっている。
次で五回目――最大のチャンスだ。
こうして考えてみると今迄生き残れたのが奇跡みたいなもんだ。
(相手は何を考えている?)
敵の狙いが読めない。
(てか俺は何を考えてるんだ?)
俺を何故愛坂 マナのために頭を使っているのかを考えて(とうとう自分もヤキが回ったか)と頭を抱えて苦々しい気持ちになる。
正直愛坂 マナは容姿は認めるが嫌いだ。だが死んでいいとか思う程薄情ではないし、死なれるのも気が良い物ではない。
(それに――俺が考えて答えを出してどうするんだ? 俺みたいなサポート役、ギャルゲーの友人キャラA、最悪モブキャラ同然の奴があれこれなんの役にもたたないだろう)
そう考えると益々不機嫌になる。
普通こう言うのを考えるのは愛坂のもっと近しい誰かだろう。
もしくは俺より頭のいい大人達、警察や自衛隊、政治家達の仕事だ。
――バンバンバン
「なんだ?」
ドアが叩かれる。
カーテンを開けて窓を見ると猫がいた。
なんかこう、上手く説明できないが不思議な雰囲気を出している白い猫だった。
なぜか猫の背丈には大きな鞄を背中に背負っていて窓に張り付いている。
窓に張り付く?
なぜに鞄?
ともかく俺は電動ガンを手にとってどうするべきかと頭を働かせつつ窓を開けた。
「どうもですニャ」
「ついに出たか正統派マスコット枠・・・・・・」
「なんか意外な反応だニャ。普通こう、驚いたりする筈だと聞いたニャ」
「うんなことはどうでもいい。今手元にガスガンがあるんだが――」
そう言って俺はチャキッと拳銃、M92Fを向ける。
実写映画でシリーズ化もしたゾンビゲームで主役が使う銃として有名だ。
やや大型で威圧感がある。
その銃口を安全装置を外して額に押し当てる。
ガスガンだが弾はBB弾ではなく、金属製の弾で法律ギリギリのラインだ。
猫の頭に至近距離で発射すれば頭蓋骨に埋まるぐらいはいけるかもしれない。
「ま、待つニャ!? どうしてそんな物騒なのニャ?」
「ああん? 一々口で説明しないとわかんねーのか? こんな真夜中にバッグ背負った喋る浮遊する猫が現れたら誰だって怪しむわ。俺は巷で噂の変身ヒロインとは無関係なんだよ。現れるのならそっちだろ?」
と、俺は愛坂 マナと無関係なことを装いつつ尋ねる。
「そ、それも考えたが監視の目がついてるニャ」
「監視?」
「そうだにゃ。ラブレンティアの魔法戦士と接触したかったんだが、監視がついてて無理だったニャ。だからこうして魔法戦士の関係者に接触しようとしたんだニャ!」
と慌てて両手を頭上で何度も振りながら説明する。
「てことは俺の事もある程度把握してるんだな?」
「まあニャ」
「つまり俺も監視されてるのか?」
「そこはわからないニャ」
そこまで聞いて俺は動揺する。
ストーカーの被害に悩まされている女性アイドルだかなんだかの気持ちが少し分かった気がした。
「・・・・・・こう言う時は常に最悪は想定しておかないといけないらしい。そう言う想定で話すぞ」
とにかく気をしっかり持ってそう言う前提で話を進めることにした。
「わ、分かったニャ。一応周囲を探ってみたが監視の目はないニャ」
「成る程な」
そう言ってガスガンの拳銃を下げる。
「信じるかニャ?」
「監視の目が無いからこうして接触したんだろ?」
「まあニャ――」
そう言って俺は中に招き入れて窓を閉めて、カーテンも閉じる。
そして部屋の真ん中の四脚の四角い卓袱台の真ん中に猫は座り、俺はテーブルの端で肩肘つく形で座布団に座って向き合う。
「私はラブレンティアで商人やってる猫人族のニンショーだニャ。ラブレンティアと地球の危機のためにこうして一肌脱いだしだいだニャ」
「商人らしくない動機だな。信用できない」
「う、疑り深いのニャ」
「性分でな」
もうそう言うしかない。
自分でも子供らしくないと言うのは自覚してる。
「だが一理あるのニャ」
「で? 本当の理由は?」
「ダーク・ディサイドの連中のせいで、商売どころじゃないのニャ。あのままラブレンティアにいたら何時か身包み剥いで殺されるのニャ。だからと言って職を失うのはイヤニャ。だから新規に顧客を得るために地球に来たのニャ」
「ダーク・ディサイドと商売は考えないのか?」
「無理ニャ。あいつらお高くとまってるが本質はただの蛮族だニャ。そもそもラブレンティアの支配だけでなく、他国や地球にまで手を伸ばすとは正気じゃないニャ」
「アドルフ・ヒトラーみたいだな・・・・・・いや、世界を跨いでるからよけいに始末が悪い」
こうして現地人から聞くと、なんだかサイコ野郎の集まりなんだなぁと思う。
だがそこまで彼方此方に手を回しているのなら異世界――地球の魔法戦士の対処が後回しになっているのかもしれない。
場当たり的な襲撃事件などもこれで説明がつく。
同時にあることに気づく。
(ラブレンティアってのは異世界の名称じゃなくて国の名前なんだな)
そこが重要だ。
異世界全体を支配して一種の星間戦争を仕掛けてきてるのなら愛坂 マナに世界中のバックアップがあっても被害は甚大な物になるが、もしそうなら幾らでもやりようはある。
「色々質問はあるが――単刀直入に言おう。何しにきた?」
「僕は商人なんだニャ。色々助けになる物を売りに来たのニャ」
「異世界版の猫型ロボットってか?」
「僕はロボットじゃないニャ」
そうは言うがたぶん多くの人間がそう言うだろうと思う。
「悪い。とにかく回復アイテムが欲しい。それと他に仲間は?」
「仲間はいるのだニャ」
「何人?」
「他に三人。現地の協力者も一人は確定だニャ」
「少ないか・・・・・・いや、大勢でくると逆に問題になったが」
喋る猫、ニンショーは「そうなのかニャ」と聞くと「地球の事情」に明るいワケではないらしい。
異世界はどうだか知らないが地球はとてもややこしい。
最悪、世界規模で魔法と言う未知のテクノロジーの奪い合いが自分の住んでいる町で行われるのだ。
今はどうにか魔法少女ものであるが異世界スパイ物に発展してしまう。
そうなったらもう収集つけるのは不可能だ。
ただでさえ現在、第三次世界大戦に発展しそうなきな臭い世の中なのにこのままでは世界大戦が現実味を帯びてしまう。
(もっとも地球の身内同士で殺し合うか、異世界跨いで殺し合うかのどっちかになりそうだがな――)
と、自嘲気味に考える。
自分は総理大臣でも政治家でもなんでもない。ただの中学生だ。
あれこれ考えても仕方ない。
もうここまで来たら、なるようになるしかないだろう。
「そう言えば仲間は三人いて現地協力者がいるといってたな?」
「うん、言ったニャ」
「その現地の協力者っていうのは地球人だよな?」
「ま、まあそうなるかニャ?」
「もしかして素質があるだけで無関係な人間を巻き込んだりしてないよな?」
「そ、それは・・・・・・」
図星らしい。
俺はハァと溜息をついた。
「確かに一人じゃ無理だけど、やたらめったら増やせばいいってもんじゃないだろ・・・・・・つか俺は巻き込まれるのは確定事項ってワケか? 他のクラスメイトとかあいつの家族の守りとかは?」
「一応こちらも監視の使い魔達を張り巡らしてレジスタンスの方に増援を要請しているニャ」
「・・・・・・そっちも厳しそうだな」
異世界側も懐事情は厳しいらしい。
やれるだけの事はやってくれているようだ。
「まあニャ。私の世界は争いとは無縁な平和な世界だったニャ。それがどうしてこんな事に・・・・・・」
「・・・・・・そもそもダーク・ディサイドって何者なんだ?」
俺は話題を変える意味でも話の確認を進めた。
「分からないニャ。ある日突然現れて、空が真っ暗になって――ディサイドと名乗る奴が配下と一緒に現れたのニャ。そして信じられないことにディサイドの配下には――王女様がいたのニャ」
「それ王女様が封印された奴を解き放ったとかそう言うパターンじゃないだろうな?」
創作物でよくあるパターンを話す。
「十分ありえるニャ。王女は二人。妹と姉がいて、妹が国を継ぐことになったのニャ」
「国の仕組みは世界によりけりなんだろうが、普通そう言うのは姉が継ぐものじゃないのか?」
「僕もそこまでは分からないニャ。ただ、姉君の方は悪い噂が多くて評判は最悪だったニャ」
「・・・・・・そこで実は他の王族、妹だか宰相だか大臣が黒幕だと言う線は?」
そこで俺は他のお約束をぶつけてみる。
「そこまでは分からんニャ・・・・・・王国内部に精通しているのはレジスタンスの内部でも僅かだニャ」
俺は(だろうな)と思った。
「だがハッキリとしているのは――姉君、ディアーナはダーク・ディサイドのプリンセスを名乗り、暴虐の限りを尽くしていると言う事ニャ」
「そうか・・・・・・」
まだ謎の点は多いがとんでもない話だと思う。
監視云々は伏せて、話の内容はすぐにでも愛坂 マナに伝えるべきだと思ったが・・・・・・
(この状況下じゃな・・・・・・)
外はマスコミやら警察やらが大量に外を彷徨いている厳戒態勢で、特に警察は殉職者も出ていてある程度の強硬手段も辞さないだろう。
夜、中学生が出歩けば間違いなく補導されるし怪しまれる。
もう陰キャとか陽キャとか言っている場合ではない。
接触するとしたら明日だなと思った。
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