第四話「マジスの脅威」


 Side 愛坂 マナ


*第三話終了後からすぐ。お昼休みからそれ程時間は経っていません。


 私はオタ﨑に口止めしたが「余程お前がボロを出さなかったら俺の言う事なんか誰も信じね―よ」と冷静に返された。


 やっぱりあいつはむかつくわ。


 陰キャの中でも底辺のくせに。


 それにあいつも――阿久津 ミヨもむかつく。分かっていたがあいつ自衛隊を「税金の無駄使い」とか平然と言って、災害が起きた時は真っ先に「早く来いよ自衛隊」とか言うタイプだ。


 藤堂 慎一の物言いもかなりショックを受けた。正直幻滅したような気分だ。


 私、正直なんのために戦ってるんだろう。


 そりゃ私のせいで人が死ぬのがイヤだから戦ってるだけあって正義とか平和とかそんなご大層な目的はない。


 やっぱり人選ミスじゃないのこれ?


 百歩譲って才能があったとしてもやっぱりこう言うのはやりたい奴にやらせた方がいいと思う。


 そんな風に考えながら授業を進めていた。


 突然授業が自習になる。


 皆スマフォを開いて事態を察知した。


 また敵が現れたのだ。



 現れた場所は警察署だった。


 激しい発砲音が聞こえる。


 しかし撃たれた相手、ディサイドモンスター――今度はパトカータイプが三体だった。 

 

 フロントガラスに禍々しい目がありボンネットが口になってタイヤを器用に操って警察署を力任せに解体している。


 まるで安っぽい怪獣映画のようだ。


 私は剣を取り出し、ミニスカートを靡かせて顔両サイドのロールヘアーを揺らしながら相手のコアを一閃する。


 まず一体。


 そこでパトカータイプがようやくこちらに気づく。


『カカカカ。ドモスがしくじったと聞いたからどんな相手かと思えばまだケツの青い小娘ではないか』


「なに!?」


 不気味な老人の声だった。

 聞くだけ身震いしてしまう。

 声と気配の先を追う。

 場所は解体されようとしている警察署。

 そこには先端にドクロと悪魔の羽がついた杖を待つ、黒色のローブを身に纏う悪の魔法使いですと全力で自己主張している存在がいた。


 地面に降り立つ。

 周囲を警察に拳銃を突きつけられる。


『邪魔じゃ』


 しかし構わず左手を――骨の手を向けた。

 

「危ない!!」


 私は警察官の一人を突き飛ばして庇った。

 遅れて私の身体に電撃が浴びせられる。

 熱い。痛い。肌が焼ける。後に残らないだろうか? こう言う目に遭う度に変身して戦う事を後悔する。

  

『カカカカ。これだから魔法戦士の相手はやりやすい。こうして弱者を適当にいたぶればいいのじゃからな。ラブレンティアの時もそうじゃった』


 そうして何度も何度も私に雷を浴びせてくる。


 その後ろではパトカーの怪物が再び破壊作業を続行する。


『お前達の弱点は非情になりきれんことじゃ。世の中は強い奴が弱者を上手く使い潰すことで成り立っておる。キサマが助けた役立たずも見捨てればこんな目には遭わなかっただろうに』


「どいつも・・・・・・こいつも・・・・・・」


『うん?』


 電撃を浴びながら。

 撃ち倒されそうになりながら。

 私は立ち上がる。


「弱いとか強いとかそんなに重要なの!? 助け合って生きるのがどうして悪いことなのよ!? そんな世の中、反吐が出るわ!!」


『カカカ!! それを負け犬同士の馴れ合いと言うのじゃ小娘!!』

 

 今度は一際強い電撃を浴びせられる。

 全身が熱い。

 何も考えられない。


『弱者など存在する価値もない! 強者のための奴隷となって生きればいいのじゃ!』


 痛みで。

 電撃で。

 言いたい事が言えない。


『それが世の理じゃ! この世界もイヤが上でもいずれはそうなるのじゃからな! カカカカ!』 

 

 このまま負ける?

 こんな理不尽に好き放題言われて?

 ダメ。

 意識が――


『ほう』


 そして不意に電撃が止まる。

 警察官の一人が拳銃を構えていた。

 先程私が助けた警察官だった。

 顔を青くし、身体をブルブルと震わせている。


『よく見ておれ。弱者が強者に逆らうとはどう言うことを言うのか!!』


「~~~~!!」


 警察官は声にならない悲鳴を上げて拳銃を発射するがすぐに弾切れになる。

 私はどうにか立ち上がろうとする。

 だけど電撃を浴びすぎて身体が彼方此方熱くて言う事きかない。

 身体が、手が届かない。

 なら――


『!?』


 マジスの後頭部に私が放ったピンク色のエネルギー弾が直撃する。

 そして放たれようとしていた火炎の弾が逸れた。

 標的にされた警察官はその場に腰を抜かして崩れ落ちた。


『小娘が――もう少しいたぶって楽しもうと思ったが、どうやら先に死にたいようじゃな――』


「私は――」


『うん?』


「私は世の中のこと、語れるほど賢くないけど一つだけ分かるわ」


『なにがじゃ?』


「アンタがクソ野郎の教科書だったことよ」


『そんなに先に死にたいか小娘。やれ』


 今度はパトカーの怪物が二体襲い掛かってくる。

 ああもうダメだ。

 このまま私は――


「ふざけんな!!」


『なぁ!?』


 気合一閃。

 剣で纏めてパトカーの怪物を両断。

 元に戻ったパトカーはそのまま派手に後ろの方に飛んでいってクラッシュする。


『あれだけ痛めつけられてまだ戦うか!?』


「うっさいわね! もうとっくに限界よ! 体のあちこちが痛いし熱いし、悲鳴あげてとっとと帰りたいわよ! だけどここで踏ん張らなきゃ一生後悔するから!」


『ええい! ならば――』


 そう言って今度は悪魔の羽と頭蓋骨のついたセンス最悪の杖を向けて雷撃を放つ。

 私は最後の力を振り絞って剣を向けて特攻した。


『ぬう!?』


 マジスは警察官が乗ったパトカーに後ろから思いっきり轢かれて狙いが逸れた。

 ナイスだ警察の人。


「おらぁ!!」


 私は気合一閃。

 剣をマジスに剣を振り下ろした。ローブを斬り、堅い何かを断つ感触。

 そしてマジスは飛び退き、警察署の屋上に降り立つ――マジスは――仕留め損ねたらしい。

 だがダメージは入ったらしく、ややよろめきながら切り裂かれた箇所を手で押さえていた。

 

『カカカカ。ワシとした事が少々遊びすぎたようじゃ。また今度仕留めてやろう――』


 そう言ってマジスは立ち去った。 

 

「あの――君――」


 そして当然の事ながら私は限界だった。

 すぐに逃げようかと思ったがフラフラである。

 そんな時に警察官達が立ち寄る。


「本来は――君を事情を聞くために拘束しないといけないのだが――上の方は我々で誤魔化す。だから行ってくれ」


「そ、そう――」


 私はお礼を言おうとしたがその気力すらなく、フラフラになりながら私はその場から飛び去った。

 もう家に帰りたい。 



 翌日。


 私はベッドの上にいた。


 学校で倒れてそのまま気絶して病院に運び込まれたらしい。


 外傷は無い。


 変身アイテムであるラブリージュエルがダメージを肩代わりしてくれたそうだが全部と言うわけではなく、彼方此方が痛い。


 そして最悪なことに私は変身不可能となった。

    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る