第三話「意見は人それぞれ」


 Side 愛坂 マナ


 私は成り行きのまま戦った。


 そして敵を倒した。


 無我夢中だった。


 賞賛する声もあれば批判する声もある。


 皆好き放題にあの命懸けの戦いを賛否両論してきた。


 私は愛坂 マナ。


 ただの中学生。


 異世界「ラブレンティア」からやって来た侵略者「ダーク・ディサイド」と戦う正義のヒロイン、エンジェルハートらしい。


 勝手に身体の中に入っているラブリージュエルがそう言ったのだ。


 正直ネーミングがかなりダサいと言うか安直であるがそう言う名前らしい。


 それに他のネーミングも思いつかなかったし、まあ名乗らなければいいかと思っていた。



 私は敵の出現を聞いて夜の町に刈り出す。 

   

 空や地上にはマスコミが好き勝手に報道し、野次馬が集まっている。


 それを制止して避難誘導をする警察達。


 必死に対処する機動隊。


 だが化け物――まるでトラックが地を這う多脚生物に変異したような怪物にまるで歯が立たなかった。 


(アレは何なの?)


 近場のビルの屋上から様子を伺い、体内にいるラブリージュエルに話しかける。

 勿論ピンクのフリフリした格好でだ。


『ダーク・ディサイドの手で地球の物体が魔獣化したのでしょう。さしずめ、ディサイドモンスターと言ったところでしょうか』


(ちょっと名前長いわね・・・・・・)


 まあだからと言って代案があるわけではないのだが。


(で? アレをどうすればいいわけ?)


『撃破すればいいです。問題は中に取り残されている運転手と、背中に積んでるガソリンです。モンスター化した事によるどうなっているか分かりませんが最悪大爆発が起きてここら一帯は廃墟になります』


(一応私これでもまだ実戦三回目なのよ!? なんかハード過ぎない!?)


『敵はそんな都合なんて知りません』


 確かに言うとおりだ。

 それはドモスとの戦いで身を持って思い知らされた。


(ともかくやるしかないわね――)


 もう自分のせいで誰かが死ぬところを見るのはいやだった。

 

 私は戦う事を決意する。

 


 まず最初の手は段取り通り、大きな燃料タンク部分と本体とを剣で切り離すところだった。

 アニメならば名前を名乗ったりポーズを取ったりしなければならないのだが、現実にご都合主義など存在しない。

 

(上手く切り離せた!!)


 基本トラックは車両本体と荷台を載せた所領部分とは連結して繋がっている。

 それを切り離せばいい。

 ビースト化を促すコアに当たる部分はトラック本体の前面にあったせいか、ただのガスタンクに戻った。


「ちょっとどうなってるのよ!? 人型ロボットになったわよ!?」


『エネルギーの循環が変化したせいでしょう! 早く倒さないと――』


「分かってる!!」


 そして私は慌てて剣をコアの位置に突き刺す。

 堅そうな車体は意外と柔らかく突き抜け、その先にある堅い鉱物を砕いた感触を感じ取った。

 

 そしてトラックは元に戻る。


(さて、カラオケに戻るわよ)


『女子中学生と言うのは大変なんですね』


(うっさい! 誰のせいでこんな目に遭ってるのよ!?)


 などと言いながら私はその場から離れた。

 周囲はシーンと静まりかえっていたが私は無視して飛び去っていく。





 朝になり、私は登校する。

 まだ学校全体で心理カウンセリングや警察官の見回り、地域のパトロールは続いている。


 治安はよくなるだろうが戦う敵の事を考えると無意味だろう。 


 せめて自衛隊ぐらいは引っ張り出して欲しい。


 町の彼方此方や学校の正門ではマスコミが連日のように報道している。

 テレビの反応も相変わらずだ。

 

 私はと言うと――


「それで凄いんだよ、謎の戦士の動画」


 黒髪のボブカットの少女、双葉 マリがそう言い、


「うん。アニメのヒロインみたいで格好いいよね」


 お洒落な眼鏡を掛けた二房のおさげの女の子、三重 ヨシコが相槌を打つ。

 私は「そ、そうかな?」と苦笑いしていた。


 今はテレビは面白いのがあんまりないせいか、日曜日の朝はなし崩し的にヒーロー番組やヒロイン番組を見る子は多い。

 だけどあんまり深くその話題をするとオタク認定されそうでイヤだった。


 それはともかくとして――


「そんなに話題になってるの?」


 私は試しに聞いてみた。


「うん。ネットの反応は凄いみたい」


 双葉 マリがそう言って謎の戦士の纏めサイトなる物をスマフォを通して見せてくれた。

 その傍らでヨシコは眼鏡をクイッと直して「どうせ異世界からの悪の侵略者が来て、謎のマスコットから何かから変身アイテムを授かって戦ってる女の子がいるんでしょう」などと、探偵っぽく推理していた。


 ヨシコ。マスコット云々以外の部分は当たってます。

 マリは「ヨシコちゃん、テレビの見過ぎだよ~」とか言ってるのが何故か胸に刺さる。

 

「ふん、ばっかじゃないの」


 そんな話題に冷や水を浴びせるようにして長い黒髪のタカビーな女、阿久津 ミヨが話に割って入ってくる。

 何時の間にか現れて突然顔を出してきた。

 なんだこいつ。 


「正義のヒロインだか何だか知らないけど、無関係な人間を巻き込んで欲しくないものね」


 私は何か言いたかったが正論ではある。

 

「まあ、警察も役に立たないし、自衛隊もこないだろうし、精々平和に貢献してもらいましょ」


 そう言って彼女は言うだけ言って立ち去った。


「なにあれ? 感じ悪い」


「だよね~ヨシコちゃん。マナもそう思うでしょ? ・・・・・・マナ?」


 私はハッとなった。


「ああごめん。ちょっと考え事してた」


 慌てて取り繕うがヨシコに眼鏡越しに見つめられて、「無関係なのに変身ヒロインの事考えてたの?」と言われた。


「いや、そんなわけじゃ」


「嘘付くのヘタね。もしかして知り合いだったりするの?」


 いいえ本人ですとは言えず苦笑するしかなかった。


「まあ、阿久津さんの言い分は酷いけど確かに理はあるわね。まあそれが正しいかどうかはまた別問題なんだけど」


「ヨシコはどう思ってるの?」

 

 私はおそるおそる尋ねてみた。


「正直事情が分からなければなんともって感じ――すくなくとも警察にも構わず、無差別に破壊活動や殺人するような奴がいたり、謎の超技術を持っている奴をいざとなったら誰が止めてくれるの? いざって時に誰が助けてくれるのよ? 警察? 自衛隊? アメリカ? 阿久津さんの物言いは身勝手よ」


「そ、そう」


 三重 ヨシコの言い分に双葉 マリは「おーヨシコちゃん大人っぽい」と賛辞の拍手を送る。

 私は少し救われたような気がした。



 教室も例によって私のことで話題一色だった。

 正直大量の犠牲者を出しているので形見が狭い想いだった。


 ふと藤堂 慎一も同じ陽キャ男子達と一緒に話をしていた。


「オタ崎が好きそうな話題だよな」


「どうせあいつキモオタだし、カメラ片手にサービスショットでも狙ってんじゃねえの?」


 などと好き放題言っている。

 陽キャ=聖人君子ではないのは分かっているが酷い会話の内容だ。


「慎一はどう?」


 と、無口を貫いていた慎一に男子の一人が質問を投げかける。


「正直興味ない。勝手にやってろって感じかな」


 そう言われて私は――何故だか深く傷ついた。

 そこへ更に阿久津 ミヨがキザっぽく長い黒髪を手で靡かせながら「慎一君はああ言う勘違いしているような奴なんて興味ないわよね?」などと言った。


 慎一は「まあな。巻き込まれる方はいい迷惑だよ」と即答だった。


 私は無言で教室から出て、ひっそりと涙を押し殺して泣いた。


 そして時間が経ち昼休みになり――何故か図書室まで行った。


「酷くない? オタ崎?」


「なんで俺に相談する」


 何故か私はオタ崎に相談した。

 オタ崎は本を読んでいた。

 

「まあ話は分かった。慎一が噂の変身ヒロインに対して冷たいってことだろ? まあそれが普通の反応じゃないのか?」


「それは――分かってるけど」


「大体なんでお前はそこまでその変身ヒロインに肩入れするんだ? 密かにそう言うの好きなタイプだったのか?」


「私はそう言うキャラじゃない!! ただ――」


「ただ?」


「人のために戦うのってそんなに悪いことなのかなって・・・・・・」


「いや、悪くはないだろ。無謀と勇気を履き違えてなければ」


「なんか一言余計じゃない?」


「はぁ・・・・・・」


「そこで溜息つく?」 

 

 何か腹が立ってきた。


「なんでお前とこんな真面目会話してるんだと思ってな・・・・・・お前もしかして例の変身ヒロイン様かその関係者か?」


「私はエンジェルハートじゃない!」


「・・・・・・」


「うん?」


 オタ崎は無言になった。

 そしてそそくさと本を本棚に戻して退室準備をする。


「ちょっとなにそのリアクション?」


「お前なんで謎の変身ヒロインの名前知ってるんだ?」


 しまったと私は思った。

 こんなバカみたいなミスで私の人生が終わる。


「そ、それは――ネットで検索したから――」


「そうか。んじゃあ今からネット検索かけてみるわ」


「ちょっと待って!」


 スマフォ検索の手を強引に止めようとする。


「・・・・・・はあ、何も聞かなかった事にするからいいよ」


 検索を諦め、彼はもう私の正体を知った上で黙ってくれるつもりらしい。

 いや、それはありがたいけどそうじゃない。


「だから、どうして私がエンジェルハートだって納得するのよ!?」


「・・・・・・最初に図書室で会った時、事件に巻き込まれたからだと思った」


「え?」


「だけどずっとあの言葉が引っかかってた。私は悪くないって――」


 そこまで聞いて私はもう隠せない事を悟った。


「覚えてたんだ・・・・・・」


「ああ。まるであの事件の中心にいた、深く関わってないと出せない言葉だ。嘘をついているようにも見えなかった。あの言葉が嘘だったら君は十分役者の素質があるよ」


「・・・・・・そう」


「一体どう言う経緯で、何と戦ってるのかは分からないが、俺は怒りを感じている」


「怒り?」


「だってそうだろ? 一体どう言う理由でそうなったかは知らないが、何の戦闘経験もない君が警察官だろうが何だろうが平然と殺し、町を破壊するような恐ろしい連中と戦う。そんなの許されるのは物語の世界だけだ」


「それは――」


 そう言われると確かに私にあまり落ち度はないように思える。

 それに自分でも言ってたではないか。

 私は普通の女子中学生だと。

 なんか心がとても軽くなったような気がした。


『それについては私から謝罪します』


「ラブリージュエル!?」


 そしてラブリージュエルが勝手に体の中から出てきた。


「成る程、君が変身するように仕向けた張本人か」


 ラブリージュエルの存在に多少驚きはしたようだがすぐさまそう皮肉混じりに切り返す。


『その通りです』


「それとお前は謝罪する相手を間違えてる。謝罪するべき相手は愛坂さんとそのご家族だ」


『・・・・・・その歳で中々シッカリされてるのですね。確かにアナタの言うとおりです』


「人のイヤな側面を眺めてたらこんな捻くれた性格になっただけだよ」


 一体どんな人生を歩んできたのだろう。

 ちょっとオタ崎の人生が気になった。

  


 Side ???


 空から私は図書室にいる二人を眺める。

 

 その片方の少女。


 赤毛で両方のツインテールをロール気味にしている、年齢のわりに垢抜けた感じの女の子が例の戦士らしい。

 

 私はダーク・ディサイドのプリンセス。

 

 ラブレンティアで遊ぶのも飽きたからこうして地球まで出張ってきたんだけど、彼女は私を楽しませてくれるかしら?


 すでにこの土地にはマジスがいるようだけど。


 せいぜいお手並み拝見と言うことかしら?


 異界の魔法戦士さん?   

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