第二話「覚悟」


 Side 愛坂 マナ


 数日経過し、学校は再開した。


 私は心の底から笑えなくなった。


 頑張れなくなった。


 ただ陽キャであることを無理して保つだけの存在になっていた。

 

 それがとても苦しくて悲しくて――何時の間にか人気のない場所を求める。


 気がついたら私は図書室にいた。


 クーラーが効いて夏場が涼しい以外には特徴が無い。

 

 授業で無理矢理いかされるか退避場所でしか来ることはない場所。


 何故かそこに辿り着いた時、私は「ゲッ」となった。


 オタ崎がいた。

 

 本名は坂崎 ユウヤ。


 男子で良くもてる藤堂 真一とは真逆の存在だ。


 そんな彼が以外にも一目見て難しそうな本を読んでいた。   


 ふとこちらに目をやるとそのまま黙り込んで本を読む。


「アンタ本読むのね」


「うん」


「何の本?」


「シャーロック・ホームズ」


「シャーロック・ホームズ?」


 聞いた事がある。

 確か名探偵の名前だ。

 それ以外はあまり知らない。

 

「面白いの?」


「ああ、まあ」


「あんたラノベばっか読んでるイメージあったけど意外だわ」


 こいつは普通に教室でラノベ読んでるタイプだ。

 なので少々意外だった。


「ゲームとかでちょっと興味持って」


「ああ、成る程ね」


 それなら納得だ。

 

「それよりも、その、なんだ?」


「?」


「どうして俺に喋り掛けた? 万が一、誰かに見られたら陰キャになるんじゃないのか?」


「私の心配してんの?」 


「まあな」


 上手く会話が続かない。

 何故だか突き放しているような物言いだった。


「ねえ? 先日の事件どう思う?」


「先日の事件? ああ、女児向けアニメみたいな恰好したコスプレ少女と黒い騎士の格好をした何かが戦ってて、その巻き添えで警察官が何人も死んだ事件のことか?」


「そ、そう。それよ」


 物言いが悪くて何かいいたくなったが私はぐっと堪えた。


「確かに恐ろしい事件だよ? もしかして今度は巻き込まれるかもしれない」


「巻き込まれる?」


「王道で考えれば学校の誰かが超常的な力を誰かから授かって、そして相手はそれを追いかけて来たと言う感じなんだろう――警察官はその戦いに割って入ったから殉職した。運が悪かったんだよ」


「運が悪かったって……それで片付く物なの?」


 私は何故だか怒り交じりにそう尋ねた。


「やけに絡んでくるな……まあいいけどさ。つかそう言うキャラだったのかお前?」


「お前呼ばわりされたくない」


「オタ崎って渾名で呼んでバカにしてる奴に言われちゃしまいだ」


「なによ。少し話しかけただけで調子乗っちゃって」


「お前がそう言う話をしてきたんだろうが」


「はあ? 私が悪いわけ?」


「突然シリアスな話題吹っ掛けて来て、真面目に答えたらこれだ」


「運が悪いのが真面目な答えなの?」


「蒸し返すな……じゃあ戦いに巻き込んだコスプレ少女と黒い騎士の格好をした奴が悪いと言えばいいのか?」


 それを聞いて私は頭が真っ白になった。

 その場に崩れ落ちる。


「おい? どうした!? 大丈夫か!?」


「私はー―私は悪くない――私は――」


「ー―保健室行って休んだ方がいい。教師には適当に伝えておく」


「う、うん」



 私は保健室に行って授業をさぼった。

 保険の先生から心理カウンセリングを受けるように薦められたがなんか今の地位から転落しそうなのでやめておいた。

 

『聞こえますか? 今直接アナタの脳内に語り掛けています』


(なによ!? アンタのせいで私、私はどれだけ酷い目に遭ったと思ってるの!?)


 ふと私の体の中にいるらしい玩具が語り掛けてくる。

 

(私のせいで大勢の人間が死んだの! どうしてなの!? どうしてなのよ!?)


『……』


(なんとか言いなさいよ!? ハッキリ言えば良いじゃない! アナタが弱かったからこうなったって!)


『それでも戦わねばなりません。戦うことを放棄すればもっと犠牲は出ます』


(そんなの……わかってるわよ……)


 涙目になって保健室のベッドにより深く潜り込んだ。


 またアイツが来る。


 その時はまた犠牲が出る。


 私のせいになる。


 もうそんな思いはたくさんだ。


『敵が来ます。戦闘に備えてください』


「ちょっと敵が来るの?」


 小声で返事した。


『はい。場所は少し離れた場所。繁華街ですね』


「また無関係な人が襲われるの?」


『それが奴達のやり方です』


「……いかないとダメ?」


 私は正直戦いたくなかった。

 もう関わりたくなかった。


『いかなければ人が死にます』


「そう――」



 怯えながらも私はこっそり保健室を、学校を抜け出し、平日の繁華街に向かう。

 変身し、超常的な身体能力を手にした私からすればそんなに時間はかからなかった。

 辿り着くと――あちこち火の手が上がり、爆発音まで聞こえてくる。

 あの日と同じだ。


『来たか――待ちかねたぞ!?』


 そして二本角の黒騎士がいた。

 交差点のど真ん中。

 車が数両爆発炎上して煙を挙げている中、両手を広げて歓迎するように呼び掛けてきた。


「何が待ちかねたよ!? どうして関係のない他人を巻き込むのよ!?」

   

『力ある者は何をしても許される。この世界でもそうではないのか?』


「それはー―」


『私のやっている事は正しく悪魔の所業だろう。だがこの世界の人間も同じく悪魔の所業をしているではないか? それを今から丁寧に一つずつ教えてやろうか?』


 中学生でもそんな事は知っている。

 核兵器を向けあって平和を保ち、すぐ隣の国では悪の限りを尽くしているのに誰も止めようとしない。

 そんな事よりも大人たちは、政治家達はくだらないことを言い合う。

 だけどー―


「だからと言ってアンタのやってる事が許されるわけじゃない!!」


『よく言った!! さあ殺し合おうか!!』


 もう話し合いでどうこう止まる相手じゃない。

 殺すか殺されるかだ。

 

 相手の素早い剣撃を落ち着いて交わす。

 だがこのままでは前回と同じ。


 どうにかしなければーー

 

『武器を、剣をイメージしてください』


 あの玩具の声が聞こえた。


 剣をイメージーー


『ほう、剣を取り出したか――』


「これで条件は同じ――」


 私は純白の剣を構える。


『本当はもうちょっと楽しみたかったが……我が名はドモス。ダーク・ディサイドの一人だ』


「ドモス。それがアンタの名前ね」


『ああ。お前の名はー―』


「エンジェルハート……そう言う名前らしいわ」


 体の中にある玩具から教えてもらった名前だ。

 お互い剣を構え、少しの時間の後に斬り合う。


 私は剣なんか持ったことはないのになぜだかわかる。

 どうやって剣を動かせばいいのかが。


『少しはマシになったではないか!』


 そしてお互い剣の押し比べの状態になったところで角から光線が放たれ、咄嗟に回避。

 その隙に膝蹴りを腹に叩き込まれてしまい視界が歪み、腹部が痛む。

 

『死ね!!』


 そして剣を横に振るう。


「きゃああ!!」


 剣で斬られた?

 いや、叩かれた?

 ともかく私は鈍くて重い痛みと共に吹き飛ばされた。


『防御機能か。厄介な物だな!!』


(どうすればいい? この姿になってパワーアップしても相手の強さはそれ以上――普通にやったら負ける――普通にやったら)


 待てよ?

 普通にやったら?

 そんなことを考えて相手の一撃を受け止める。


(ねえ、なんかこう派手な必殺技みたいなのない?)


 体の中にある玩具に語りかける。


『あります』


(それを使って押し切るしかないわね)


『ですが普通に使ってもまず当たらないでしょう』


(そうよね。アニメ見たく上手くいかないわよね)


 そして斬り結びながら――剣が弾かれ――宙を舞い、相手の剣の一撃が右肩に――


『つくづく頑丈な体だな!?』


「ええ、そうね――」 


『!?』


 そう言って私は痛む体にムチ打ちながら両手で剣を肩に押し付けるようにして抑え込んだ。


「肉を切らせて骨を断つ!! エンジェリックバースト!!」


 桜色の閃光が私の体全身から放たれる。閃光は私を中心に広がり、そして黒騎士ドモスをも飲み込んでいく。

 

『まさかこの、私があああああああああああああ――――!? 』 


 ドモスは閃光と一緒に消滅した。

 そして――後には桜色の粒子が花弁のように舞い散り、火災も焼失した場所だけが残った。



 数日後


 学校の教室で。


「おはようマナ。最近元気なかったけど調子取り戻したみたいね」


 学校の友人の双葉 マリが語り掛けてくれる。 

 ボブカットで優しい女の子だ。


「私も心配したんだよ。何かあったら気軽に相談して」


 三重 ヨシコも同じく語り掛けてくれる。 

 お洒落な眼鏡を掛けた二房のおさげの女の子。

 私と同じ陽キャ達の中で心を許せる存在だ。

  

 まあ中には阿久津 ミヨみたいなやらしい女グループなどもいるのだが。


「あら、やっと元気になったのですね。このまま陰キャになり果てる物とばかり思ってましたのに」


「ははは。それはどうも阿久津さん」


 長い黒髪。

 大人びた顔立ちに中学生顔負けなナイスバディ。

 だけどな内面は性悪女。

 それが阿久津 ミヨだ。

 噂ではいじめやったり上級生に取り入って好き放題しているようだ。


「藤堂君もおはよう」


「あ、おはよう藤堂君」


 藤堂 慎一。

 カッコよくてモテる男子だ。

 女子の中で付き合いたい、仲良くなりたいという子は多い。マリもヨシコもその中の一人だ。

 噂ではミヨの奴も狙っているらしい。

 私もお近づかきになりたいな~と思うが――

 

 ふと、オタ崎の方を見る。

 目線が合い、オタ崎はすぐに目を離した。


 全てが全て元通りというわけではないけど、私の学園生活が戻ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る