愛天使エンジェルハート
MrR
第一話「物語のようにはいかない」
Side 愛坂 マナ
赤い髪の毛でロール気味のツインテールは子供っぽいかなと思いつつ私は洗面所で髪の毛のセットをする。
昔はどうだったか知らないけど今時の中学生は大変だ。
特に女子はそうだ。
テレビの話題とか、ヘアメイクとか。
気を抜いたら陰キャになってしまう。
クラスメイトにオタ崎とか言う陰キャ通り越してキモオタがいるのだがあいつみたいになってしまったらおしまいだ。
そうこうして髪の毛のセットを終えて私は学校に通学する。
そして学校では陽キャを演じ、テストもそこそこ頑張って友達付き合いして陽キャにあり続ける。
それが私の日常。
私の学園生活。
☆
私は部活はやっておらず、何時もの帰り道は友達と一緒だ。
私達は中学二年生。
大人達は今から勉強頑張っておけとかどうとか言われるけど正直実感が湧かない。
クラスから嫌われている先生も口酸っぱくして言ってるが頑張ろうと言う気持ちが湧かない。
そんなふうに思いながら一人帰路についていた途中だ。
異変が起きたのは夕方の人通りが多い交差点である。
(え? なに?)
突如として空から閃光が。
目も眩んでまともに直視できない。
光が収まると眼前には――
(なにこれ?)
私は子供向けの女児向けアニメに出て来そうな手のひらサイズのオモチャか何かを見つけた。
ピンク色のハートの宝石が埋め込まれていた丸い物体だ。
それが空中に浮かんでいた。
(ワケ分かんない・・・・・・なんなのこれ?)
そしてもう一つ。
後ろに鬼のような角を生やした仮面の黒い騎士がいた。
何かヒーロー番組とか特撮物とかに出てきそうな奴だ。
周囲もざわめき始める。
『そうか――キサマが――その宝石と一緒に来て貰おうか』
「え? ちょっと? なになに?」
黒騎士は剣を向けて強引に私の腕を引っ張ろうとするが――
なにこれ?
なんかの撮影?
『グォ!?』
しかしピンク色のバリアが発生して黒騎士を弾いた。
そしてオモチャが私に近寄ってくる。
「どう言うこと? あれはなに!?」
『私はこことは異なる世界、ラブレンティアから来た物です』
「え? オモチャが喋った!?」
優しい少女の声だ。
『時間がありません。この世界を、アナタを救うためにもラブリージュエルで変身してください』
「ちょっと待って!? 本当に急すぎるんですけど!?」
なにこの展開?
ワケが分からなすぎる。
とにかく私は逃げた。
☆
私は何時の間にか学校にトンボ帰りしていた。
人気のない裏校舎まできて、そこでぜいぜいと息を吐き出しながら一緒に付いてきたらしいオモチャに尋ねる。
「一体全体なんなのよ!? もう!? こうなったら警察に電話して――」
『無駄でしょう』
「無駄でしょうって――私はただの中学生よ!? もしかしなくても何か子供向けアニメっぽいヒロインみたいな格好をして戦えってんでしょ!? そんなの他にやりたい奴にやらせりゃいいじゃん! どうして私なの!?」
と、本音をぶつけた。
『確かにアナタは精神的にも肉体的にも戦士としては未熟です。ですけど素質はあります。それに時間がありません。奴達はその気になれば――』
もう付き合ってらんないと思い、スマフォを開いて警察を呼ぶことにした。
とりあえず変な格好したコスプレ不審者に追われてるとでも言えば来てくれるだろう。
『ここに逃げ込んでいたか?』
「アンタ!?」
そのコスプレ不審者が何時の間にかこの場に来ていた。
『さあ来てもらうぞ? それとも痛い目をみたいか?』
剣を再び振り下ろして――私は目を瞑る。
再びピンク色のバリアが守ってくれたが今度はバリアが砕かれた。
『これでそいつも回収できる。お前も来てもらうぞ』
「来てもらうって何処によ!? もうすぐ警察が来るんだから!?」
『ほう? じゃあその警察とやらを殺せばキサマは来る気になるのか?』
「そうよ! 良い歳してそんな格好してどんなトリック使ってるか分かんないけど・・・・・・とにかく言いなりになんてならないんだから」
ヤバイヤバイ。こいつテレビに時偶出てくる本当にヤバイ奴だ。
現実と夢との区別がついてない奴だ。
これだからオタクって嫌いなのよね。
『ハハハ! 気が強い小娘だ!』
素早く左手で首元を掴まれ、校舎の壁に叩き付けられた。
気がついたらこうなっていた。
相手の動作が見えなかった。
息が苦しい。
『じゃあ力尽くでも来てもらおうか!?』
(く、くるしい、誰か助けて――)
ワケが分からない。
意識がボーとなる。
そんな時だった。
『緊急措置です。仕方ありません』
『なに!?』
私の身体の中にオモチャが入り込んだ。
そして私の姿が変わっていく。
ピンク色で顔の両サイドがロールした長い髪の毛。
桃色でスカートの裾は短く動きやすい感じ。
白い長手袋。
桜のような鮮やかなブーツ。
そして首下にフリルの布が巻かれ、ピンクのハートが飾り付けられていた。
それが私の変化した姿。
閃光と共に相手をはじき飛ばし、私は正しく変身した。
「なにこれ!? こんな格好現実でやるなんて罰ゲームもいいところよ!?」
危機を脱したのは良かったけどこんな姿とても恥ずかしい。
格好いいとはとても思えない。
こんなの許されるのはアニメぐらいだ。
『変身しただと!? こんな小娘が!?』
相手は動揺している様子だった。
私も同じ気持ちだけどそうも言ってられず相手は剣を振り下ろしてくる。
「あぶな!?」
私は咄嗟に躱す。
遅れて地響きが鳴り響いた。
校舎裏の学校の壁が崩れる音だった。
続いて剣による破壊の嵐を巻き起こしながら私を追いかけてくる。
『まてぇえええええええええええ!!』
「待つわけないでしょ!!」
『被害が拡大しています。とにかく戦わないと――』
「戦えって言われても私ただの中学生だから!!」
そうして私は運動場に出てしまった。
まだ部活動している生徒が沢山いる。
相手は人目など構わず空高く跳躍して剣を振り下ろしていき、私はそこでも回避する――
「爆発!? なにが――」
何が起きたのか分かって絶句した。
軽いクレーターが出来ていたのだ。
他の生徒も倒れ伏していたり、叫んで逃げたりしていた。
『鬼ごっこはおしまいにしようか? それとも何人か殺した方がいいか?』
「ちょ、待って!?」
そして黒騎士は腰が抜けて倒れている女子生徒の一人に歩み寄り、剣を振り下ろそうとする。
私は咄嗟に割って入った。
身体に鈍い衝撃とともに吹っ飛ばされる。
今度は校舎を囲む壁に埋まる形で激突したらしい。
あまりの痛さで目尻に涙が出た。
『キサマら正義の戦士は何時もこう言う手に引っかかる! 楽な仕事だよ!』
そう言って何時の間にか眼前に来ていた敵の黒騎士は剣をスイング。
今度は壁をぶち破り、壁の反対側の道路に出た。
死ぬ。死んでしまう。
『帰りの途中で元気になられても困るのでな? 多少は痛めつけさせて貰うぞ』
そう言って何度も何度も剣を振り下ろす。
その度に耐え難い衝撃が襲い掛かる。
どうしてこんな目に。
もういや。
許して。
命乞いしようにもそれすら出来ないあんまりな状況だった。
「け、警察だ!! 両手を挙げて――」
パトカーのサイレン音とともに警察がやってくる。
やっとかとほっとした気分になると同時にこんな尋常じゃない化け物相手に警察で大丈夫なのかと言う不安がよぎる。
『ふん、威勢だけは一人前だな!』
そうして今度は警察に襲い掛かる。
警察官が斬られて血に染まる。
パトカーが爆発、炎上。
映画でしか見ることができないワンシーン。
高笑いをあげる黒騎士。
私は呆然となってこの光景を見た。
そして地面には倒れ伏す警官。
応援の警察が来るが次々と似たような末路になる。
まるで地獄絵図だ。
「どうして――」
『うん? まだ元気が残っていたか?』
「どうしてこんな事するの!? あの人達は関係ないじゃない!? 狙いは私なんでしょ!?」
『邪魔した彼奴らが悪い! それに俺から言わせて貰えば武器を構えて戦いの場に来て殺されずに――』
「ちょっと待って!? 殺したの!?」
『それがどうかしたか?』
私は目の前が真っ暗になった。
人が死んだ?
私のせいで?
私が逃げたから?
『なあに心配するな!! 我々がこの土地へ本格的に侵攻すればどうせ死んでいたさ! 強い奴が支配し! 弱い奴は支配され! 逆らう奴は死ぬ! それがこの世の唯一の掟だ!』
言ってることがメチャクチャだった。
どうしようもない、今迄感じたことのない怒りが湧き上がる。
もうこの感情を押さえきれない――
「うわああああああああああああああああああ!! どいつもこいつも好き勝手に押しつけて!! あんたなんかぶっ殺しやる!!」
『甘ちゃんがやっと殺る気になったか? こうでなくてはな!!』
そして私は怒りのままに殴りかかる。
簡単に横へ回避されてそのまま背中に剣を振り下ろされるが構わず拳を撃ち込む。
『なにぃ!?』
そっからもうガムシャラだ。
相手の反撃などに構わず怒りに任せてとにかく殴りかかる。
痛みなんか知らない。
ただ目の前の敵を殺せればそれでよかった。
☆
私が気がつくと病院のベッドの上で寝かされていた。
そこから警察の人に重要参考人だか何だかで事情聴取を受けたがそんな気分じゃ無いので適当に嘘ついて返事してたら解放された。
どうやら数日間寝込んでいたらしく、ネットもテレビも私が経験したあの戦いの話題でもちきりだ。
私を救世主だと言う声もある。
私を批判する声もある。
そして警察官達のお葬式。
あの場に駆けつけた警察官はみんな殉職したらしい。
幸いと言っていいのか学校の子達に怪我はなかった。
これが現実。
ただただ私はひたすら泣き崩れた。
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