第14話 エピローグ
晴れて絵里香と恋人同士になった俺は、毎日のように一緒に登下校をして、休日はデートをしたりする日々をくりかえし……
今はというと、自宅のリビングでソファに埋もれてにまにまとした笑みを浮かべている。
「でへ。でへへ……」
「お兄ちゃん、キモい」
スマホを手に、絵里香とのやり取りを眺めているとつい顔が緩んでしまう。
「もぅ。体調だってまだ万全じゃないんだから、早く寝なさ~い。寝れないならホットココア入れてあげるから。
「えぇ~」
とかいいつつ、妹は「身体大事にしなよぉ?」と、ココアを手渡してくれた。
九死に一生を得たあの事故以来、家族がやけに優しい。
妹はツンツンしつつも気遣ってくれるし、母さんなんて毎日のように夕飯のリクエストを聞いてくれて。
『今ある日常が、本当は奇跡みたいに幸せなことなんだって、わかったの』と。口元を綻ばせていた。
そんな順風満帆に舵を切り直した俺の人生だが。
ある日を境に状況が変わる。
◇
ざわざわとするクラスメイトの視線の向こうにいるのは、金髪碧眼の美少女女子高生――じゃない。美少女聖女様……
「え。アリーシアちゃん……?」
教壇にて軽く自己紹介を終えた少女が、絹糸のように滑らかな髪をふわりと耳にかけ、俺の耳元で囁いた。
『ふふっ。来ちゃいました……♡』
(『来ちゃった♡』で、異世界転移ってできるもんなの……? ちょっとカジュアルすぎじゃね?)
おーい、神様。女神様。どうなってんの?
だが、元いた世界で、聖女として神を崇拝し祈る日々の中で、アリーシアちゃんは神と交信することに成功したらしく。
転移するにあたって『縁』を頼りにここに辿り着いたらしい。
夢のような空間。夢のような人達……でも、夢じゃない。
たしかに、ここにいる……
蒼い瞳と目が合って、彼女はそっと囁いた。
「これからは、隊員と隊長……でなく。クラスメイトとしてよろしくお願いしますね♡ 私はもう幼馴染ラヴァーズじゃない。私が好きなのは――」
……狙っている。
俺は完全に狙われている……!?
「ふふっ……!」
といたずらな笑みを浮かべて、謎の美少女転校生は背後の席に腰をおろしたのだった。
◇
「お、俺には絵里香がいるから……」
と。弁当を隣で広げるアリーシアちゃんに釘を刺す。
昼だって、俺は絵里香と食堂で食べる約束をしているし……
でも。
転校生、ぼっち、弁当……
う~ん……!
「お昼……一緒に食べる?」
思わず、声をかけてしまった。
問いかけに、アリーシアちゃんはぱぁっと顔を輝かせた。
「隊長、やっぱり優しい! 好き!」
「あぅ……」
まっ正面からの好意に思わず赤面してしまう。
謎の美少女転校生を連れて歩くことはかなりの視線を集めるし、友人に会えば質問攻めを食らうしで、食堂に着くころには俺は正直へとへとだった。
アリーシアちゃんを連れて食堂へ行くと、クラスが違う絵里香は目を見開いて驚き、立ち上がる。
「えっ……? えっ。えっ……!?」
「「夢じゃ、ない……?」」
っぽいんだよな。これが。
あの異空間、『幼馴染を愛で隊』はどこかの次元に確かに存在していて、あの場で縁が結ばれたことで、こうして『異世界追っかけ』なんていうものありえてしまうらしい。
俺は、女神や神様なんて元来気まぐれなものだってのを身をもって知っているし、アリーシアちゃんがこちらの世界にとっては不思議な力――謎の治癒力を使う聖女ということも知っている。だから、成し遂げられてしまったんだろう。
もしくは。アリーシアちゃんの想いがそれほどまでに強かったのか……
(重い……愛が、重い……!)
まさか、そんな贅沢な悩みで頭を抱える日が来るとは思っていなかった。
俺は絵里香が好きだから、アリーシアちゃんの想いに応えることはできないけれど……
せめて……友達として、仲良くできたら嬉しいなって。
俺は、食堂の賑やかさと見慣れない食券機にそわそわするアリーシアちゃんの右隣に立つ。
「この世界は、きみにとってわからないことだらけでしょう? 案内するよ。隊長だから」
「!」
その左脇から、絵里香もにっこりと顔を覗き込む。
「仲良くしようね、アリーシアちゃん!」
天使のようなその笑みに、元聖女ちゃんは「ぐぬ……!」と少しだけ唇を噛み、それから、根負けしたように頷いたのだった。
ふわりと、絆されたような笑みを浮かべて。
「えへへ……よろしくお願いしますね」 と。
(エピローグ・完)
『幼馴染を愛(め)で隊』の隊長になったら、俺の幼馴染本人が入隊してきてしまった。しかし俺は死んでいる 南川 佐久 @saku-higashinimori
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