第5話 ギルドマスター ガルバニス
アドレーヌがギルドで冒険者更新をした、翌日。
ガルバニスが諸用から執務室に戻ると、机の上に小さい包みがあった。
「……ん?」
包みを開け、ガルバニスは大きく舌打ちをする。
そこには、雑に作られたサンドイッチが入っていた。
それも、パンの中には、具らしい具は一切入っていない。あるのは、何か野菜の葉っぱのみであった。
「……なんだ、これは」
アーネットの仕業……ではない。ガルバニスは野菜が大嫌いなのだ。食うものと言えば、基本は肉。そして、お膝元で売っているドーナツである。
性格的に、やらないとまではいわない。アイツもグランディアの女だ、「健康に~」とか言って、嫌がらせまがいの事をしてくる事もある。
だが、アーネットの仕業ではないことは、見ればわかった。――――――雑過ぎる。几帳面な性格のアイツが、こんな適当なサンドイッチを、作るはずがなかった。
「あら、お弁当ですか?」
入ってきたアーネットが、ガルバニスの持つサンドイッチを見て、いたずらっぽく笑った。この女、何か知っているのは間違いない。
ほかに、ガルバニスの好みを知っているとなると――――――。
「あら、何か入ってますね。手紙みたい」
わざとらしく言うと、アーネットも「お昼買ってきます」と、執務室を出てしまう。手紙を手に取ると、汚い字でこう書かれていた。
『ドーナツばっか食ってねーで、野菜食え』
ガルバニスは手紙を、ぐしゃりと握りつぶした。
「――――――余計なお世話だってぇの」
握りつぶした手紙をゴミ箱に放ると、今度はサンドイッチを口に放る。
ほろ苦い葉っぱの味に、ガルバニスは顔をしかめて、やがて呑み込んだ。
********
「ただいま」
「おー、お帰りなさい」
集金から帰ってきたアドレーヌは、「シャワー」と言って奥に引っ込んでしまった。血まみれだったし、また相当な無茶をしたのだろう。
しかし、どこか楽しげでもあった。さては、誰かさんにいたずらでもしてきたな。
クロガネはそう察する。
初めてアドレーヌと会った時は、本当に野良犬みたいな感じだった。ぼろぼろで、ずぶぬれで、雨が降っているのに傘も差さないで。そんなのが会社の前に立っているのだから、たまったものではない。
どいてくれないかなあ、と思ったが、ギルドマスターの娘であることは知っていた。
もともと違法な商売だ。何か、ギルドマスターに交渉できる材料は、あった方がいい。最初はそんな軽い気持ちで、面倒を見始めたのだが。
(――――――アドのおかげで、思いのほか集金がうまくいくようになったんだよねえ)
一人で債務者を追っかけるのはしんどかったが、アドは鼻が利く上に、債務者への威圧もばっちり。まさに、集金係としてうってつけだった。いい拾いものをした、とクロガネはつくづく思う。
あの鬼のようなギルドマスターも、さすがに自分の娘のいる会社を潰したりは――――――いや、するかもな。あのギルドマスターだし。
「金貸しの極意は、あくまで親切に、親切に」
社訓にもしている教えを唱えながら、クロガネは空を見上げる。
相変わらずの曇り空で、お天道様が出る気配は今日もなし。
日の目を浴びない悪党どもが、今日も愉しく生きる街。
そんなサイテーだがサイコーな街、グランディア。
会社のドアを開ける、若い二人が現れた。身なりをみるに、きっと、新人の冒険者だろう。きっと、ギルドの融資制度も、知らないような。
クロガネはそんな二人を見て、糸目でにっこり微笑む。
「いらっしゃい。――――――で、いくら、貸してほしいんだい?」
ここは悪党の街、グランディア。
そんな街で暮らす、悪党たちの毎日は、とっても馬鹿馬鹿しく、面白いのだ。
〈第5章 ギルドマスター・ガルバニス 完〉
Grandia Days ~悪党の街グランディア~ ヤマタケ @yamadakeitaro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます