選考対象外

_wataya

選考対象外

Uー18文学賞コンテストの選考結果が表示される液晶を、強く睨みつけていた。1次選考の段階で既に結果は届いているからわかりきっているのだが、それでも万一の可能性に期待している私が情けない。落選以降音沙汰のないメールボックスを信じたくなかったのだ。

ウェブページをスクロールする指に必要以上の力が入っているのに気が付き自制する。長い。とにかく長い。ただただ大賞準大賞審査員賞を羅列してくれればいい物を、総評だとか応募総数だとかが邪魔をする。気になるのは私の作品が選ばれているのかどうかだ。だれも数など聞いちゃいない。というか審査員の総評にきちんと目を通す応募者がいるのか?どうせみな一様に、「自分じゃなければ誰が選ばれたのか」だけが気になってこのページに飛んできているだろう。もしくは「賞に選ばれたことを今一度この目で確認したい」だ。虫唾が走る。こんな考えを数秒、そこまで時間は経たずに<大賞作品>が一瞬目に写った。スワイプをしすぎたので少しだけ上へ戻す。

大きく縁どりされた枠内に収まる格好の良いサブタイトルに、着飾り過ぎない素晴らしいタイトル。難しくない文字列がそこに鎮座していた。誰しもが欲しがったその場所に。流れるまま作者の名前を見る。本名のようだ。ありがたいことに学年まで書いてある。高校一年生、年下じゃないか。

少しだけイラッとした。何も私より年下の奴が上に立つなと言いたい訳じゃない。ただ彼か彼女より年上で、このコンテストに応募した者を嘲笑っている気がしてムカついただけだ。書かれたあらすじをあらかた眺める。恋愛小説のようだ。




***********

彼女が留まる停留所あの日、君を止めさせないと、一人誓った。

────────────


毎日使うそのバス停に少女はいた。バスが来るまでの5分間。少女とただの高校生の僕2人だけの時間。彼女との出会いは僕の人生を大きく一変してい_____

「うざっ」

気づいた時には漏れていたその言葉と、しかめっ面。あらすじで分かるザ・青春小説感。Uー18の賞だけあってリアルな視点で描かれる青春ものは選ばれやすい。王道を突っ切る所が若気の至りらしいのだろうか。評価基準が分からない。ただ、選ばれる為に必死こいて青春群像劇書いて、恥ずかしくないのかよ、と思う。高校生だからこそ描ける青春?純粋無垢な甘酸っぱさ?誰がそんなの持ち合わせているというのだ。本当に青春を謳歌している奴はまず小説など書かかない。舌打ちと共に、連なる他の賞へと目を移す。こんなにも掲載される席はあったのに、私の席はなかった事実に余計腹が立つ。どれもこれも恋愛だの青春だのそればっかりじゃないか。どうにか目を付けて読んでもらおうとそれを避けた自分が馬鹿みたいだ。結局学生ばかりの賞レースで選ばれるのはお涙頂戴感動小説と、読者が経験してない透んだ青で紡がれるアオハル小説なのだ。




まあ、どれだけいちゃもんをつけて罵った所で、結果が変わることがない。諦めるのが正解だ。しかし、承認欲求の塊と化した私の脳の思考はそれを許さない。もしかしたら、審査員らは私の作品を見逃しているのではないだろうか。そう思うが、1次選考落選メールが届いている事を思い出す。いや、でもあのメールは定型文だった。何度も確認したから間違いない。一斉送信をしているのなら、私の作品を見ずとも送ってしまった可能性は十分ある。そう、だってあの作品は私が何日も懸けて作り上げた作品なんだ。受賞しない筈がない。読まれた上で落ちるわけが無い!

いっその事、問い合わせのメールでも送り付けてやろうか。そんな思いで、<連絡先はこちら>のボタンに指を伸ばす。




一生受賞することはないのだろうな。と思った。押す前に。スマホの電源を切って、すぐには手が届かない距離へ壊れない程度に投げ捨てる。こうして楽観思考を巡らせた後は、すぐにいつも自己否定と膨大な無気力感に苛まれる。そして培った物全てを簡単に手放してしまうのがオチだ。単純すぎてなんとも馬鹿らしい。

分かっていた。最初から。高校生をターゲットにした賞レースなのだから真っ当な青春を描くのが1番だって事は。そしてそこを狙う人が多くいるのは当たり前で、それでも同じ題材で頭1つ飛び抜ける努力、あるいは才能をみせるのが最適なんだ。そりゃあ審査員だって人間だ。現実に寄った在り来りな小説より、現実離れした在り来りの小説の方が面白いと評価するに決まっている。

彼らが私の作品を読んでないだなんてこれっぽっちも思ってない。ただの言い訳だ。万を超える応募数だから斜め読みかもしれないが、私の小説にも目は通してくれているはずだ。審査も仕事の一つだし全く読まない訳にも行かず、きっと最初の数行、

『Uー18文学賞コンテストの選考結果が表示される液晶を、強く睨みつけていた。1次選考の段階で既に結果は届いているからわかりきっているのだが、それでも万一の可能性に期待している私が情けない。』

位は読んでくれているだろう。そこを読んでプロの小説家や編集者達は「あぁ、よくある逆張り小説か」と心に波風立てることもなく思うのだ。厳しい人ならそこで終了、優しい人なら一応最後まで見てくれるかどうか。そして彼らは口を揃えてこう言い出す。「選ばれる為に必死こいて皮肉小説書いて、恥ずかしくないのかね?」と。本当に選ばれる為に思ってもない事を書いてるのはどっちだよ。私じゃないか。みんな賞レースに応募している時点で動機は不純、と言えばそこまでかもしれないが、こんなに汚い手を使って選ばれようとしているのは私だけだ。私以外に居ない。周りは同じ土俵で等しく闘っているというのに私は別の土俵に上がっている。ズルい。真っ向から勝負しろ。その通りだ。私でも思うのだから周りはもっと非難するだろう。恥ずかしさとダダ漏れの思惑で死にたくなる。




一通り荒らした部屋の床に大の字になって思う。何はともあれ受賞しなくて良かった。と。あんな作品で受賞していたら堪ったもんじゃない。盛大に賞を皮肉って、自分には受賞しなかった際の保険までかけた作品が受賞なんて形として残ったら最大の汚点だ。今回は魔が差して逆張り小説を送ってしまったが、真っ向勝負を避けてしまっただけだ。私だって青春小説を選んでいたら1次選考位は超えていたはずだ。来年はもうUー18文学賞には応募できない年になってしまうが、20歳以下の文学賞だってあるはず。賞を落とした今しか書けない物語も、きっとある。今度はこれを利用してみようか。なにやら面白くなってきた。やる気がある内に執筆に取り掛かろう。次こそ審査員の心を震わしてやる。





















つくづく馬鹿だと自分でも思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

選考対象外 _wataya @krt_0516

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る