モモ、“今”に戻る

「モモ、モモ、起きなよ。モモ、モモ。」

隣のナナコが必死に起こしている。

「モモ、モモ。」

はるか遠くからナナコの声が聞こえてきた。モモの意識は徐々に戻りつつあった。

「まつだいらっ!」

荒木先生のあまりの大声にモモは脊髄反射で椅子から立ち上がり、叫んだ。

「余は将軍じゃぞ!」

次の瞬間、教室は大爆笑となった。

「松平!授業中に何を寝ぼけとるのか!」

モモはキョトンとして周りを見渡した。クラスメートはまだ大爆笑している。隣ではナナコが涙を流しながら、ケラケラ笑っている。

「ど、どうしたの、モモ?何の夢を見てたの?」

「え、え?」

モモはようやく気づいた。元の時代に戻っていると。いや、夢から覚めただけなのか。

「す、すみません!」

モモは、とりあえず先生に謝って座った。

「気持ち良さそうに寝てたから、起こさなかったんだけど、急に唸って。それで心配になって起こしたの。」

「そ、そうなの?私が?」

(あれ、夢がさめたの?)

ズキズキする頭の痛みをこらえながら必死に夢の最後のシーンを思い出してみる。

(そうそう、子犬と庭で遊んでいて、池に近づいて危ないから注意しようと思ったら。そう、私、自分の裾を踏んで足がもつれて池に落ちたんだ!突然で心の準備してなかったから、溺れて池の中の鯉と目がバッチリあって。)

ナナコが私をまだ心配そうに見つめている。

(冷た!)

ひんやりとした背中に今頃になって気づいた。背中だけではない、寝汗とは思えないくらい制服が濡れている。そして、制服には沢山の茶色の短い毛がついている。

(これ、きっと、あの子犬の毛じゃない?私は間違いなく、あの時代にいたんだ!)

モモは確信した。

(でも、これは私だけの胸にしまっておこう。だって、誰も信用してくれないだろうし、変な人に思われちゃうから。)

そう、あの天下の悪法で名高い“生類憐みの令”は、決して将軍が狂気の沙汰で考えついたものではないのだ。もっと単純で純真な生き物に対する、ひとりのJKの思いがつまったものなのだ。

「ちょっと、モモ。やっぱり変よ。」

「大丈夫だってば。ちょっと、夢見てただけだから。それより今日、帰りにお茶していかない?」

「いいけど、どこにする?」

「うん、ちょっと行きたいお店があって?」

「え、どこ、どこ?」

「日本橋にあるお団子屋さん。江戸時代から創業しているんだって。」

「お団子?太っちゃいそう」

 ナナコはクスクスと笑った。

「でもいいよ、たまには。行こう。」

「じゃ、決まりね!わたしのオ・ゴ・リ!」

「さすが、ショーグンさま!ゴチになります!」

 JKはいつも楽天的なのだ。

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