赤い彼女は輝く炎!
「それで、カラス。ここに誰がいたの?」
赤い魔法少女は近くにあった巨大な蛇の死体に触れ、その肉体を燃やし始める。
そしてその体に刺さってあった一本の軍刀を抜いた。
それを見てドキッと、一瞬心臓が跳ね上がる。
鼓動の音は完全に早くなっていて、冷や汗も大量に出てき始めていた。
カラスが隠れろ、と言った以上俺を隠す理由が何かあるのだろう。
見つかったら、どうなってしまうというのか。
「あー……や……これは……俺様がやったんだ。な?」
(いやいや、無理があるだろ……!!? お前カラスじゃん、どうやってそれ持つんだよ!!?)
なんてことを焦る思考の中で考え、二人の様子を見守る。
赤い魔法少女は少し間黙りこくっていたが、「そう」と一言言うとその手に握っていた軍刀を一瞬のうちに溶かしてしまった。
跡形もなく、刃の部分から握る場所まで全部。
一つの液体物となってぼたぼたと床に落ちた。
熱量はまだ、上がって行く。
もはや冷や汗か、普通に汗かいているだけかわからないほどに。
「私、嘘は嫌いだからね?」
「……知ってるよ。お前のことは、よくな。もう数年前の話だろ。そのコートだって、あん時のものだ」
「……いっそ忘却の
「そんなのあったら、こっちだって苦労しねぇよ」
会話の内容がよくわからないが、彼女の着ているものに何かあるらしい。
彼女の着ているもの、と言うと。
まさに魔法少女、って感じの赤いドレスを着ている。
着ているのだが……その上から何故か、氷のように真っ青な青いコートを羽織っているのだ。
あまりにも似合わない格好に俺は違和感を抱いていた。
「ま、これはカラスがやったとってことにしとく……じゃあ、私は帰ろうかな。家でやることあるし」
「そうか……あー、もしあいつにあったら、よろしく言っといてくれ」
「あの人? もうしばらく会ってないんだけど……ま、いいか。もし会ったらね」
赤い魔法少女は空を見上げ、力強く踏み込むと爆発的な炎を足元で起こして飛んで行ってしまった。
飛んで行ってからもしばらく顔を引っ込め隠れていたが、カラスに呼びかけられてようやく俺は表に出る。
表はあの熱量で少し建物に歪みが生じて、死体に関してはもう燃えかすしか残っていなかった。
「……こわっ」
「ま、そりゃそうだろうな。今の魔法少女たちの筆頭みたいなもんだし」
「なんか会話聞いてて、気になることが多すぎるだが」
「……さっきのは昔の話だよ。ま、ある意味……俺様が今回お前を魔法少女にしようとした原因でもあるな」
「どういうことだ?」
「……改めて契約の話するぞ。取り敢えず一旦戻るか」
と言うとこっち来た時と同じように、カラスは俺の真下の足場が消え部屋のど真ん中に落っこちる。
だが今は魔法少女の体、簡単に着地に成功した。
部屋の中だからと俺はブーツを脱いで、羽織っていたコートも脱ぎ、契約した時と同じように座る。
「で、まず聞きたいんだが、さっきのあいつはなんなんだ? 敵って週に一度だけじゃないのか?」
「おっと、その話をしてなかったな。さっきも言ったと思うが、あいつらはいわゆる『眷属』ってやつでな。その統括を務めるやつらが週に一度出ている奴らだ」
「……つまり魔法少女って週に一度戦っているわけではなく、毎日戦ってるってこと?」
「そう言うことだな。まぁ、あいつらにもプライベートってもんがあるからな流石にそっちの方を優先してもらっているが……基本的には手が空いたやつが率先して奴らの討伐に向かう。と言っても、みんな早く生き返りたいからな。奪い合いになることは少々ある」
「少々で済むのか……?」
なんて疑問を呟くが、返答が返ってくることはなかった。
しばらく黙っていると、その空気に耐えかねたかのように、カラスが机の下から一枚の羊皮紙を取り出す。
今度は日本語の手書きでしっかりと書いてあり、俺でもちゃんと読むことはできた。
できたのだが……なんと言うべきか。
俺はそこに書いてあることを、簡単に飲み込むことができなかった。
「…………なぁ、これってどう言う、ことなんだ?」
「そのままさ。書いてある内容の意味、そのまま」
「……俺の読み間違えじゃないければ、魔法少女と、戦えって書いてるあるような気がするんだが?」
「……ま、大方正解だな」
「どういうことだよ。俺も魔法少女なんだろ……!? なんで魔法少女と!?」
カラスはしばらくどこかに視線を向け、そして目を瞑ってしばらく。
彼は俺の顔を見つめて話し始めた。
「魔法少女ってのはな。個人が一つの兵器並みの力を持つことを意味してるんだ」
「……まぁ、怪物と戦えるような奴らだからな」
「これは……完全に俺様のミスとしか言いようがないが。結局のところ増えすぎたんだ。魔法少女が。それでこそ戦争したとしても抑えつけれないほどにな」
「抑止力が存在しない、ってことか?」
「まぁ……そう言えるな。同じ魔法少女でしか対抗できない。だからこそ数年前、あんな事件が起きた」
「あんな事件?」
「……決して公になっちゃいない話さ。この国の根幹が揺らぐような、話」
「それぇ……俺が知っていい話?」
「……魔法少女にならなきゃ死ぬだけだし、大丈夫だろ」
「そんな無慈悲な」
無慈悲と伝えはするものの、カラスはそっぽ向いて勝手に話を始める。
俺も取り敢えず何か言うことはやめ、カラスの話を聞くことにした。
「最初は一人の魔法少女が持つ疑問だった。私たちは何故、怪物たちとだけ戦い続けているのか、って」
「どう言うことだ?」
「強大な力を持っているのに、世界規模に続く戦争を止められないことを悲観したんだろうよ。そいつは特に……そう言う過激な思考を持っていたからな。続けるぞ。そいつはその疑問を魔法少女たちに問いかけ、そして一部の魔法少女たちはその魔法少女と共に、魔法少女という機構そのものに反抗を始めた」
「反抗って……」
「俺はコイツを、第一次魔法少女戦争なんて呼んでいる」
「第一次って……」
(それってつまり第二次があったって意味なんじゃ……)
視線をぶつけていると、俺の言いたいことは悟っていたようで頷いていた。
カラスは淡々と話を続ける。
「彼女が掲げたものは『魔法少女は全てを支配する力がある』と。全てを支配し、全てを均衡にし、そして全てを平等と平和の元に」
「過激すぎだろ!? 何だその、独裁者並みの考え!?」
「そんなわけで維持派と支配派間での戦争が起き始めた。表沙汰には一度もならなかったが、太平洋に穴が空くほどの激闘だった」
「……あ。それニュースで見たぞ。確か……三、四年前くらいだよな。海の一部が枯れ果てたとかなんとか……確かあれって、怪物の影響なんじゃ……?」
「実際は魔法少女だ。力と力のぶつかり合いで物体そのものが球体状に消滅してしまってな……まぁ、そんな感じでしばらく戦いは続いていた」
「どっちが勝ったんだ……? って言っても、予想はつくが……」
「まぁ予想通りだろう。結果として維持派の勝利だった。支配派の先導者を殺し、
「……なるほどな。で、第二次は?」
「こっちは関係ないから今度話してやる……まぁ、魔法少女になるなら、って話だが。というわけでだ、決めろ」
「決めろって……」
魔法少女、特別な力を身に纏い、日常的に化物たちとぶつかり合う。
それから力を奪うことは、世界にとっての損失になりかねないだろう。
だが、だがそれよりも、こんな戦争が二度も起きているという事実は、世界にとって、それこそ怪物たちよりも脅威だろう。
もしこれを受け取れば世界の未来は、俺の手に委ねられるのも同然と言ったわけだが。
「い、一日だけ」
「ん?」
「一日だけ、猶予をくれ」
「…………わかった、いいだろう。一日だけだ。だがなるべく早く決めてくれ。俺様としては他にやる奴がいるなら、そいつに任せるだけだからな」
「わかってるさ……ところで」
俺は立ち上がって、自分の格好を見る。
さっきからずっと少女の姿だったのだ。
ずっと美少女の姿というのもなかなか落ち着かないもので。
実のところずっとそわそわしていた。
「ああ、戻り方か。戻りたいと強く思えば戻るぞ」
「何で戻る時だけ適当なんだよ……まぁいいや」
戻りたい、戻りたいと延々と願っていると、突然目の前に
どうやら魔法少女の姿から戻ったようで、懐中時計を手に取った時、あることに気づいた。
「……なぁ」
「ん?」
「何で俺、まだ女の子の姿なんだ?」
「……あ、忘れてた。男が変身した場合、半日は戻んないんだったな」
俺は今、変身が解けて男の時に来てきた服装を被っている少女の姿になっていた。
魔法少女の時と全く同じ姿の、ただの少女に。
「え。え。戻るないって、半日も?」
「ああ。12時間経たないと戻らんぞ」
「はああああああああああああ!!!? お、おまっ。ふざけんなあぁぁぁぁあッ!!!?」
「すまん。我慢してくれ」
「戻せこのカラス野郎おおおおおおおッッ!!!!」
広いマンションの一室、少女となった俺の可愛らしい叫び声が響き渡るのだった。
魔法少女戦争 蜜柑の皮 @mikanroa
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