これが自分の力!
縦の大きさは俺より少し大きいぐらい、とは言っても俺なんて軽く飲み込めるぐらいには口が大きい。
全長は……多分だけど、測りきれないほどある。
奥の方でとぐろを巻いていてよくわからないから、こういう表現になっているのは仕方ない、
ともかく、俺はそんな蛇のような化物と交戦を始めた。
最初に衝突したのは、俺の二本の軍刀と奴の口から見える大きな牙。
牙は金属のような光沢と輝きを放っていて少々気味が悪い。
だが目前まで迫れば、そんなこと考える余裕すらなくなる。
「く、そォ……ッ!!」
俺に向かって噛み付こうと振り下ろされた二本の牙に対し、サッと横に飛び出し牙を避けて、近くの瓦礫を蹴って奴の体めがけて飛ぶ。
だが化物に常識なんてものは通用しないようで、突然奴の体が蠢き出したと思うと、尻尾の部分が体の横から生えてこちらに向かって飛んできた。
そこに軍刀をクロスして構え、その攻撃を受け流してから、そのまま尻尾を切り捨てる。
顔の方でうめき声のようなものが聞こえたが、当然ながらそれだけで終わらせるわけにはいかない。
(動ける……追撃、行ける!)
あまりにも不規則で非現実的な動きをする奴に対し、俺は軍刀を構えて蠢く奴の斜め後ろに着地すると、そのまま弧を描くように走り出す。
その瞬間、奴は顔を地面に叩きつけたかと思うと、広範囲に渡って引きずりながら大きく顔を振るった。
だが攻撃はギリギリ当たらず、俺が走りながら既に構えていた軍刀の斬撃を顔面に直接受ける。
奴は顔を上げてさらなる呻き声をあげるが、俺は走るのを中断して床を蹴り、がら空きになった体に向かって飛んだ。
「腹を切り裂いて……終わり……な、わけねぇ、かッ!!」
腕をクロスに構え、そのまま振り下ろして体を切り裂くはずが、上に向いていたはずの顔が、斬りかかろうとしていた体から生えてきたのだ。
そして顔は飛び出しながら、口を開けて俺のことを待ち構えている。
ならば、と空中で地面に軍刀を突き刺して止まり、軍刀を抜きながら全力で地面を蹴る。
横向きに回転しながら二本の軍刀を構え、頭に二つの斬撃を全力で叩きつけた。
結果としてその攻撃により、鋼鉄のような牙が口の下の部分に突き刺さり、そのまま地面に突き刺さって抜けなくなっていた。
「勝った……で、いいんだよな。俺ってこんな動ける……わけねぇよな。もしかしてこれが魔法少女としての力、なのか?」
少し息を切らしながら、俺はジタバタと動いて牙を抜こうとする奴の体の周りを歩く。
流石に地面に固定されてしまっては、別のところから体を出すことは不可能なのようだ。
案外呆気なかったことに驚きつつ、ジタバタ動く奴の体に、左手に持った軍刀を突き刺して動きを止める。
「……取り敢えず腹を切り裂いて、カラスだけでも取り出すか? 生きてればいいけど……」
右手に握った軍刀を大きく振るってスパッと体を開くと、身動き一つ取らなくなってしまった。
不思議なことに血はほとんど出てこなかった。
さっき切った時に出た血が幻だったかのように、血が出てきていない。
まぁそんなどうでもいいことよりも、今は大事なことがあるので、そっちを優先することにし、俺は右手に持った軍刀を奴の体に突き刺した。
「おーい、カラス。消化されてないよな?」
「……ぎ、ギリギリ、な」
と言いながら翼でべちゃべちゃと胃液と血溜まりを這って、俺を魔法少女にしたカラスは出てきた。
案外大丈夫そうだったが、正直近寄って欲しくはない。
少なくとも今は。
俺はちょっとだけ近くに寄って、しゃがんで終わったことを報告する。
「倒せたぞ。難しいとか言っちゃったが、案外すぐ終わった」
「そりゃそうだ。奴は本体じゃ、ねぇからな」
「本体じゃない?」
「まぁ、『眷属』っつー、まぁ……つまり。雑魚だよ。それに……お前の持つ
そこまで言いかけたところで、突然奴の尻尾が蠢き出す。
あまりに大きな音で動くものだから、流石の俺も無視はできずに尻尾の方を見た。
完全に倒したもの、と思い込んで油断していた俺は、目前まで迫っていた鋼鉄の牙に対応できなかった。
せいぜいできたのは右腕を前に出して顔を覆うくらいで、攻撃の一つすら出せなかった。
「えっ」
俺の顔の横を通り過ぎて小さな行く蛇の化物。
そして同時に生々しい肉の音ともに中途半端な右腕が落ちる。
痛い、などと知覚する瞬間すらなく。
腕から血は出ているはずなのに、痛みは感じず言葉も出てこない。
「は……? な、なん、で。なんだよ、これっ……う、腕、が……俺の、うで、がッ……!!?」
右腕の残った部分を掴んで、混乱と恐怖の入り混じった感情によって手が震える。
だがそんな俺に対し、カラスは俺に向かって言い放つ。
「いいか! 耳かっぽじってよく聞け!! お前の持つ『武装の
俺はカラスの言葉を聞きながら、思考を即座に切り替えさせられる。
途切れた右腕から手を離し体を動かす蛇を見る。
さっきよりも明らかに小さく、どうやら切り落とした尻尾の部分が蛇そのものになったらしい。
蛇は体をバネのように縮こませると、こっちに向かって飛んできた。
それと同時にカラスの言葉が耳に響き渡る。
「──能力は、【武器】を生み出す能力だ!」
それならばと、俺は切り落とされた右腕から鋼鉄の
「弾け飛べッ!! クソ野郎があああああああッ!!!」
力を込めて叫ぶと、小さな蛇の化物の体から弾けるようにいくつもの刃物が体から突き出る。
奴は声すらも出せず、体のありとあらゆる部分から血を吹き出しながら完全に沈黙した。
命があるという感じはもうしない、完全に絶命したのだろう。
腕を抜き取れば、一緒に大量のナイフの刃が落ちてきていた。
「はっ、はっ……はっ……はぁっ……」
今になって呼吸が追いつかなくなってきて、息切れし始める。
ようやく終わったことに安堵した、っていうのもあるのだろう。
そこで俺は鋼鉄と化した右腕を見る。
一切感覚はなく一応動かせるものの、多少のラグが発生していた。
「くそっ……マジで、右腕がっ……!! どうして、こんなっ……魔法少女って、そんな、ことにっ……!!」
「なるに決まってんだろ、身体能力以外は普通の人間とほぼ同じだよ」
「くそ、くそッ……!!!」
残った腕の部分を強く握りしめ、何回か深呼吸を繰り返したことでようやく落ち着き始める。
切れた腕が視線を移し、切れ落ちた方の腕を見た。
やはりというかなんというか、あれはさっきまで繋がっていたはずの俺の腕。
間違いなく俺の腕が落ちている。
(治んのかよ……これ……)
俺は腕の近くに行って鋼鉄と化した右手で拾い上げて腕を見つめる。
かなり血が出ているが、どうすれば治るのだろうか。
取り敢えず後でカラスに聞いてみよう。
多分なんとかしてくれる、してくれるはずだ。
ともかく戦いは無事……ではないが、終わったのだ。
早いところ戻って、こんな魔法少女なんて、やめてしまいたい。
「カラス、もう終わりだろ? とっとと戻ろうぜ」
「……まさか。まだ終わっちゃねぇよ」
「……は?」
「あの死体、見てみろ」
そう言ってカラスがまるで犬のように体を振って、体についたものを取って飛ぶと。
腹を割いた方の蛇の死体に向かって飛んで行き、その真上にある瓦礫に着地した。
俺はそんなカラスの真下にある、腹の開いた蛇の死体を見た。
見てしまったのだ。
(……冗談、だろ……!?)
「ギョッ……」「ピギョロ……!!」「ピギギ……」「ギョギョ!!」
それはもう、おぞましいというべき他ないだろう。
なんせ這い出てきているのだ。
開いた蛇の腹の中から、大量の小さな蛇が。
まるでヒルのように集団で、次から次へと。
吐き気を催すような気持ちの悪い光景に、俺は口を押さえて一歩だけ後退りしてしまう。
「おい、なんだよ……あれは……!」
「眷属の……残りカスみたいなもんだな。あいつら、ほっとけば元となった奴の大きさまで育つから、とっとと処理はした方がいいぞ」
「処理した方がいいって……おいおいおい、無茶苦茶言うなよっ……!! アレ、百は軽く超えてるぞッ……!!?」
軍刀を抜こうとして、俺は蛇の体に突き刺していたことを思い出し、手元に手繰り寄せるように軍刀を新たに生み出す。
蛇の死体の周囲を見渡し、新たに生まれ出た蛇たちを見た。
目視で確認できるだけでも、十、百、三百は超えているかもしれない。
ただヒルのようにちょっと太めの、普通の蛇のサイズの化物がうようよしているのだ。
少しでも奴らが攻撃体制に入れば俺の体は瞬時に穴だらけになって死ぬだろう。
(……死ぬ、か。魔法少女ってのは、やっぱり死と隣り合わせなんだな……)
そのことを改めて実感し、冷や汗を垂らしてギュッと軍刀を握る。
瞬間、大量にいる蛇たちの中から一匹が俺の方を見た。
すると直後、一斉に蛇たちがギョロッとこちらに視線を向けた。
ゾッとするような光景に、俺は軍刀をしっかり握って、踏み込んで走り出そうとした。
だがカラスが上を見上げ声を荒げたことで、俺の動きは止まる。
「……! 待て。 来た!!」
「は? 何が来たんだよ?」
「……魔法少女だよ。予想よりずっと早いな!」
「ま、魔法少女……! ってことは!」
「絶対に姿を見られるな! とにかく隠れろ!!」
「へ、え……あ、ああ。わかった」
俺は意味もわからず、蛇たちから逃げるようにして、近くの瓦礫の後ろに息を殺して姿を隠す。
その直後に、上空から何かがものすごい速度で落ちてきて、大量にいる蛇の真ん中着地した。
(な、なんだ……!? すごい、砂埃で……何も見えねぇ!)
少しだけ顔を横から出し、何が起きてるのか見ようとする。
だがわかるのは、蛇たちのあげる断末魔のみ。
それと膨大な熱を持った何かがいると言うことだけだった。
「……っ、はぁっ……気持ち悪いなぁ。もう、もっと早く知らせてよ。カラス」
「お前は……あー、『煉獄の
「渡してそれっきりだもんね。敵がいるところ教えてくれるだけだし、覚えてないのも仕方ないか」
誰かがそう言った瞬間、蛇たちの真ん中から炎が巻き起こって砂埃が晴れる。
そっと覗いた俺が見たのは、赤とオレンジの髪をして、炎に包まれた少女の姿。
それはこの街で……いや、この街だけではない。
日本の様々なところでその噂を聞く、炎を操る魔法少女だった。
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