初めてってステキなこと!
「いてて……」
随分と高いところから放り出されて数分後。
俺は真下にあったコンクリート状のビルの中にいた。
コンクリートを突き破って中に入ってきていたのだ。
それでいて今の俺は何故か、いてて、で済んでいる。
普通なら死んでいてもおかしくないような状況なのに。
(ここは……さっき爆発音がしてた場所か。なんというか、盛大にやったな)
周囲を見渡してみれば、辺りは瓦礫の山。
天井には大きな穴が開いており、真上に登った太陽が部屋の中を照らしていた。
ちょっと暑いなと思いながら、その場を立ち上がって今の自分の様子を確認する。
俺は確か、落ちる途中に
無事なのも、それが原因なのだろうか。
(しかし、カラスはどこに行った? あの野郎、まさか俺を放置する気じゃ……──)
カラスを探すために辺りを見渡した時、壁際に人影を見つけた。
一歩前に近づいた時、それが鏡であるということに気づいて、驚愕と混乱で俺は固まった。
「……これ、誰だ?」
自分の顔をペタペタ触ると、そこに映る美少女は全く同じ動きを取る。
頰を軽くつねってみると、これがまた結構痛い。
どうやら見間違いや夢ではないらしく、そこに映っている少女は──信じたくはないのだが、俺らしい。
身長からして大体中学生くらいだろうか。
長く艶やかな銀色の髪、宝石のように輝く赤い目、ぷにぷにほっぺに整った顔立ち。
まさに美少女、というしかない顔立ち。
だがそんな顔を隠すように、コスプレ感のある軍帽を深くかぶっていた。
格好はそんな軍帽に合わせたかのように、スカートの軍服、更にその上からコートを羽織っている。
「……これが、俺? 俺なのか?」
少し体を捻ったりして全身を見てみれば、鏡に映る姿と全く同じ服装になっている。
下を見てみれば地面が近くなっている、身長も本当に縮んでしまったらしい。
一体何がどうしてこうなってしまったのか、と混乱していろんなところに視線を向けていると、右と左の腰に吊るされているもの見つける。
鞘に収まった武器のようで、中に収まっていたのは、二本の細く長い片刃の軍刀だった。
「武器、だよな?」
左腰に吊るされていた軍刀を抜き、右手で落とさないようしっかり握ってから刃の部分を見つめる。
ギラギラと輝く刃は俺の顔をしっかりと映していて、これがまた意外と軽い。
壁の方向に向かって軽く振ってみても、重さをほとんど感じないくらいには軽い。
本当にこんなので耐久性があるのかと心配になるぐらいには。
(こんなので、戦えんのか?)
刃を見つめながら訝しんでいたところで、真上から声が響いて上を見上げた。
「なんとか変身できたみたいだな」
「カラス……変身って、ことは。これが魔法少女としての姿、ってことか?」
「ああ。
「そういう割には、あんま強そうに見えないけどな」
「ああ、それならば前の壁、見てみりゃわかるさ」
「前の壁……? ……おい、マジかよ」
奴が言ったのは俺が先ほど軍刀を振るった方面の壁。
カラスに促されるまま壁を見てみると、一筋の切り傷が壁に刻まれている。
壁にはヒビが一つもなく、ただ一閃、そこに深く刻まれていた。
「これが、魔法少女の力……」
「これが
「あ、アーツ? なんだそれ」
「アーツってのは
得意げにカラスが解説を続けようとしていた瞬間。
突然、建物全体に響き渡る咆哮。
そして直後にまるで地震かのように建物が揺れ始めた。
(地震……じゃ、ない! まるで、誰かが揺らしているようなっ……!!)
右手にしっかりと軍刀を握って辺りを見渡す。
だが少しすると揺れは止んで、咆哮も聞こえなくなってしまった。
「おい! ボサッとしてんじゃねぇッ!! 下だッ!! 来るぞォッ!!」
カラスが焦ったように声を荒げる。
俺はハッとして下を見つめ、ヒビが入っていたことに気づいて、大きく後ろに飛ぼうとし、穴の開いていた屋上にまで飛び出してしまった。
「う、うわわわ……!!?」
「身体能力全般が大幅に強化されてるからな、そりゃそうなるよな。それよりも下見てみろ」
俺はカラスに言われるがままに、さっきまで自分がいた場所を覗く。
そこにはもう既に床はなく、赤いシミのようなものが付いた何かがぐるぐると動いていた。
一瞬なんだろうと見つめていたが、動きを見ていてあるものを思い出し、それが何か気づいてしまった。
(……もしかして、アレは頭、なのか? 似てる。テレビで見た、化物たちと)
ずるずると這い上がり、のらりくらりとした動きと、吐息の漏れる音を聞いて考えの確信に至る。
やはりアレは魔法少女たちがいつも戦っている化物たちと同類だということに。
「本当に戦えんのか……?」
「安心しろ。お前のやつは特別製だ。他の魔法少女たちより格段に良い奴を用意させてもらった。なんとなくわかるんだろ? 戦い方が」
「それは……確かにそうだけど」
「なんたって、その
と、カラスが得意げに語ろうとした瞬間。
突然建物が揺れ、ものすごい勢いで下から化物が飛び出してきた。
しかも飛び出してきた場所はカラスがいた場所で、カラスがいた床をカラスごと飲み込んでしまったのだ。
「へ……?」
目の前であっという間に飲み込まれてしまったことに唖然として、化物が飛んでいった空を見ていると、飛び出した蛇のような化物がまっすぐこちらに向かって落ちてきているのが見える。
「ちょ、ま……!!?」
屋上の足場は今俺が立っている場所だけで、下も方もだいぶ床が崩れていた。
降りようと思えば瓦礫ぐらい切り捨てて降りれるだろうが、どうしたらいいかわからない今は、逃げることが最優先だろう。
「大丈夫……屋上まで上がる身体能力があるんだ……うおおおおおおおおおッッ!!!」
気合の掛け声とともに俺は強く地面を蹴ると、少し離れた隣のビルに向かって飛び出した。
足場的にも結構離れていたと思うのだが、少し余裕を持って着地することに成功。
化物は真っ逆さまにビルの下へと落ちて行く。
「あ、あぶねぇ……俺も一緒に落ちて行くとこだった……!」
なんとか回避できたことに安心して、下を覗いて化物を見る。
化物はずっと這いずり回っており、ずるずると引きずる音が聞こえ続ける。
ふと、気づいたのだが、奴は建物に噛り付いていた。
どうやらコンクリートを食べているらしい。
お腹壊しそう、とかいう感想は置いといて、建物が倒壊するのは時間の問題なのは間違いない。
つまりこのまま放っておけば、いずれ大惨事へと発展する。
(奴を、止めないと……! 建物を喰らい続ければ、この街一帯大変なことになる……魔法少女が来た頃には、もう既に……!)
カラスも他の魔法少女のいない今、止められるのは俺一人。
しかし何故か戦い方はなんとなくわかるだけで、実際にやったことなどない。
だが流石に自分の住む街が危機となれば、もはや覚悟を決める他ない。
自分の家があるであろう方面を見つめて、右手に握ってある軍刀を力強く握る。
そして右腰に吊るしてある軍刀を抜き、両手に構えてからもう一度飛んで、ほとんど足場のないビルへと戻る。
(こわっ……い、いやっ、大丈夫だ。カラスを信じるしかない……!)
ガツガツと壁を喰らう奴に向かって、俺は真っ逆さまに落ちて行く。
途中、床が俺の落下を阻むが、両手に握った剣を振るえば、コンクリートの床は真っ二つになって砕け散る。
(行ける……! このまま奴を真っ二つに……!)
俺は落下の勢いを保ったまま、体を器用に動かし回転して、その落下の勢いを利用したまま二本の軍刀を、一階にいる奴の体に叩きつけた。
轟音とともに確かな手応えを軍刀越しに感じて、頰に降りかかる血しぶきを浴びながら、即座に姿勢を変え立ち上がり、後ろに飛んで距離を取る。
「ギョォッ……!!」
奴の苦しむような声が聞こえて、ずるずると体を動かしながら、こちらに顔を向けてきた。
初めて奴の顔を見たが不思議と恐怖心はなく、今俺の頭の中で考えていることは、どうやったらこいつを倒すことができるだろうか、だけだった。
「クソ……魔法少女って難しいんだなッ!!」
俺は両手に握った軍刀を構えながら、飛んでくる奴に向かって走り出した。
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