最適解は“無視”

 議題そのものは共有出来ていて、言葉もお互いに理解できている。

 それにも関わらず、どれだけ話しても永遠に平行線。

 彼らへの説明だったり和解の為の歩み寄りだったりがまずまともに聞き入れられない原因は、お互いの目的の違いにあると、前回結論付けました。

 こちらの目的が問題の解決であるのに対し、彼らのそれは問題の停滞……もう少し悪し様に言えば「相手の誠意や頑張りを踏みつけにしている状態の維持」にあります。

 踏みつけて溜飲が下がるものなら「その場は耐え忍ぶ」と言う選択肢もあります。

 しかし、彼らのような自己愛性PDに敵視(あるいは支配対象と)された場合、我慢すると言う事さえ悪手になります。

 何度も繰り返しますが、こちらの目的が「甘んじて踏みつけられて問題を終わりにする」のに対して、彼らのそれは「永久に踏みつけ続ける事、その状態の維持」であり、ゴール地点が噛み合っていないのです。

 彼らのあらゆる行動原理は、その時その時の目先の利益(主に自分の精神的充足)であり、言い換えれば相手からそれを「勝ち取る」為の戦い。

 古今東西の戦争でもそうですが、敵が不利を感じて下手に出て来たなら、追撃(搾取)のチャンスと見るのが普通です。

 歴史を蒸し返して相手国に自虐史観を植え付け、現代での交渉を有利に運ぶ……建前や“事実”を最大限に利用して実を取る、立派な戦略です。

 そんなわけで、自己愛性PDに嫌われると言う事は、その時点で生存競争に巻き込まれたも同じだと言う事です。

 

 ブラック前職での私は、会社やリーダー達の言う事全てに従順に振る舞い、一度として逆らいませんでした。(それでも、口応えだの、不貞腐れた態度だのをこじつけられる事もありましたが)

 とにかく、抵抗しなければ最低ラインの所では穏便に済むと考えていました。

「上司に楯突く反逆者」のレッテルが貼られたなら、職を失うかも知れないからです。

 しかし、最終的な結果はどうだったか。

 リーダーの取り巻きや、ともすれば全く関係のない別部署の人間にまで一挙手一投足全てを憎まれ、時には事実無根の罪まで着せられるようになりました。

 この最終的な状態と、私が危惧していた反抗的と言うレッテルと、果たして違いはあるのか?

 今にして、そう思います。

 会社の中での立場がどれだけ悪くなろうとも、命を含めた全てを奪われる事に比べれば絶対にマシな筈です。

 

 だからと言って、相手をやっつけようだとかは考えない方が良いのも事実です。

 今にして思えば不必要に感情的で、みっともない文章ではありますが、その根拠となる私の経験談を貼っておきます。 https://kakuyomu.jp/works/1177354055446437088/episodes/1177354055606516970

 読むのが億劫な人向けに簡単に説明すると、挨拶を無視してくる人が居たので私の方からもスルーしてたら、それを物凄い剣幕でキレられた。

 それに対して私も同じくらいの罵声を浴びせたが、双方一歩も退かずに泥沼化……と言うお話です。

 本当に何も、欠片の後学さえも生まない無駄そのものでした。

 彼らは、反撃を受けたとしても、折れたり引き下がると言う事をのです。

 よって、彼らを倒したり負かしたりする事は絶対に不可能です。

 誰しも、こうした人達に絡まれると理不尽で腹が立つ事でしょう。

 実際私は、現職でもゲンさんに対して、機会が巡れば反撃を喰らわせて後の禍根を絶つ事も考えていました。

 しかし、本当に無意味どころか、逆効果です。彼らの挙動を検証したい、とかでない限りは。

 前回の、私の財布が紛失した話が良い例です。

 どれだけこちらに理があろうと、彼らにとってそんな事は関係ありません。

 そして最後には「この落とし物リストの持ち主は全員死んでいる」などと言うトンでも理論を素面・正気そのもので言い放つのです。

 思考の位相が別次元、別の生き物と言い切っても過言ではないと思います。

 屈してはならない。

 しかし、攻撃すれば、それを貪欲に反撃の足掛かりとされてしまう。

 決して譲らず、しかし必要な礼は失しない。

 服従も反撃も、どちらもタブー。あらゆる意味での“接点”が生じる余地を潰さねばならない。

 相手からも手出しのしづらい“宙ぶらりん”の状態を極力維持する事です。

 だから“無視”と言っても、真っ当なコミュニケーションに対してはきちんと応じる必要はあります。

 

 そんなこんなの過去の教訓から、私はゲンさん(のマウント取り)を基本的に無視する方針で居ます。

 私の会社での立場?

 問題ありません。

 彼は上司でも無ければ、役職者でもない。

 むしろ、同僚への横暴と所属長の命令にすら逆らうなどの自業自得により、その“権威”は皆無です。

 また、前のお話で紹介したコンプライアンス違反の数々を敢えて胸のうちにしまっているのですが、これを社長や役員に開示すれば、あちらもただでは済みません。

 思うに、パワハラとは怒鳴ったり何かを強要する事、それ自体では無いと考えます。

 それが役職や立場の権威にせよ、体格差による威圧や恫喝にせよ「本来、筋の通らない事を、持っている力で無理矢理通させる事」ではないでしょうか。

 彼は今、私や周囲に対してもはや形骸化した「先輩の立場」と、せいぜい体格差による「フィジカルな優位」と言う、社会では何の役にも立たないもので、無理を通そうとしています。

 彼らは自分が優位に立つために、使えるものは何でも使い「言ったもの勝ち」で他人を丸め込もうとしますから、これは当然の挙動と言えます。

 だとするなら、私にはなおさら、ゲンさんに屈する道理も、欠片の要素すらもありません。

 

 実際、私が現場リーダーになったあたりから、微妙にあちらのやり口が変わってきています。

 私に直接言わず、所属長に告げ口をするか、仲の良い従業員に陰口を吹き込む形が多く、その理由もお粗末なものばかりです。

 電気の消し忘れだの、リーダー様の態度がイキってるだの(※1)

 何故かと言うと、他人のあら探しに腐心してきた彼は、もはや私よりも(この部署での)仕事を知らないので、糾弾するためのカードが無いからです。

 前述の電気の消し忘れについても、所属長へ報告する体での私への当て擦りでしたが、明らかに聴こえているのに無視しました。

 改めて所属長から指摘された体のタイミングで「以後気をつけます」と、所属長にだけ向けて言いました。

 

 確かに私の現職の例では、私が圧倒的に有利な立場にあるから、そのように毅然としていられるのだと思います。

 不利な立場で押さえ付けられている方からすれば、役に立たない話に思われるかも知れません。

 しかし、だからこそ、パワハラをするような人間から権威を剥いだ姿がどうなのか、見えてくると思います。

 それが今回、この番外編を書き始めた一番の理由でもあります。

 前職の主犯であるタケさんほど狂っていたならわかりませんが……少なくとも便乗犯のダイさんから権威を取り上げた姿が、現職のゲンさんの姿に思えてなりません。

 

 当然、無視とは彼らのような人間にとっては、体感に過ぎないとは言え死活問題です。

 親との精神的分離を果たす前の乳児にとって、大人に無視されると言うのは“餓死”に直結するからです。

 だから、彼らのような人達は、特に無視(※2)されたと感じた時に異様な逆上を見せます。

 前職の主犯タケさんが、そうでした。

 彼らも彼らでこちらの“無視”を封じ込めようと、更なる“力”を行使してきます。

 だからこそ、ターゲットにされた場合、冷静な“損切り”を考えねばなりません。

 今、どれだけ彼らを逆上させるよりも、会社での立場が悪くなるよりも、最悪なのは従順にいじめ殺される事。

 そこまで考えるのは、もはや彼らに目をつけられた者としてのです。

 家族を抱えている立場であれば言わずもがな、彼らに負ける事は、彼らに誤った成功体験を与える事により、自分以外の誰かを未来の被害者とする事です。

 “戦場”において“敵”とは理不尽で当たり前。

 頼んで攻撃の手を休めてくれるような存在ではありません。


(※1)

 とあるミスを即時注意しなければならない、かつ、距離が離れていた物理的な事情から大きめの声を出さざるを得ない、緊急性の高い事でした。

(※2)

 一瞬、返事に窮したなどの、こちらとしては無視のつもりでない事も、運が悪いと無視とみなされます。

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