倍速

あじふらい

倍速①~⑧まとめ

登場人物

コージ (24) 主人公 男

ナミ  (26) コージの彼女 女

ユア  (24) コージの新しい彼女 女


○コージの家・リビング (夜)


 ソファーで寝そべり、缶チューハイを飲みつつタブレットで番組を観て笑う主人公・コージ

 番組は倍速で流れている。コージは「倍速視聴」をしている。

 彼女であるナミ、キッチンからコージがいるソファーに近づき話しかける。


ナ (甘えながら)ねぇ?何観てるの~?


 コージ、イヤホンを外してナミに返事をする。


コ (気だるそうに)ん? この前やってた「クセスゴ」。

ナ じゃあ私も観る~!


 ナミ、強引にタブレットを奪おうとする。

 コージ、奪われないように抵抗する。

 奪おうとする中、倍速視聴に気付いたナミ。だんだん不思議そうな表情を浮かべる


ナ コージ。これ速くない?

コ あ。ごめん。倍速で観てた。

ナ え~ ちゃんと観たいのに~ 観てて疲れないの??

コ 別に? 色んな番組見れるし全然苦じゃないけど?

ナ ふ~ん・・・ じゃ自分のタブレットで観ますよ~だ


 ナミ、不満げな顔をしながら自分の部屋に行く。

 

コ そんじゃ次は何にしよっかな~


 コージ、再びタブレットを持ち、「倍速視聴」を続ける。

 しかし、アルコールが回ってきたせいでそのまま眠ってしまう。



○コージの家 リビング (朝)


 朝。鳥が騒いでいるかのように鳴いている。

コージ、目が覚める。まだ寝ぼけ眼である。


コ ……ん。……そうか。寝落ちしたのか。

 

 コージ、部屋を見渡すと、ナミがあくせくと朝食を作っている。


コ ナミ。おはよう。

ナ オハヨウ!コウジ! キノウネオチシタデショ! オコソウカナヤンダケドサ…

コ ……え? ナミもう少しゆっくり喋ってくれないか??

ナ ユックリッテ… ワタシイツモコンナカンジデショ?? ツカレテルンデショ~


 コージ、早口で話すナミに唖然とする

 ナミ、そんなコージをよそに朝食作りを再開する。

 


コ ……昨日、何かしたかな…? ま、いいか…


 コージ、テレビを付ける。ニュース番組が流れている。

 画面には倍速で喋るアナウンサーが映っている

 コージ、思わずザッピングをする。

 するとどの番組も倍速で流れている。


コ おい!ナミ!! テレビ壊れてないか!? 変だぞ!?

ナ エ~? ソンナコトナイトオモウケド…

コ あとそのしゃべり方やめろよ!

ナ ナニガ?ワタシフツウニシャベッテルジャン?

コ もう… 何なんだよ…


○ コージの家 玄関 (朝)

 

 コージ、疲れた表情を浮かべながら出勤する。

 

コ …それじゃ、いってくるよ。

ナ(声) イッテラッシャ~イ!!


○ 電車内


 満員電車。多くの人が会話している。

 コージには倍速で聞こえている。


女 ソー! ソレデネ・・・

女 エ!?マジデ!?


男 ッタク・・・ キノウモマケタノカヨ・・・


コ(声) い、一体どうなってるんだ・・・? さっきからどいつもこいつも早口で・・・


○ コージの職場


 多くの社員が朝から働いている。

 コージにはこの職場も倍速で聞こえている。

 コージ、上司の目を盗んで「倍速 現象 原因」と検索し調べている。


コ ・・・現象ってこれか? えっと何々・・・

  「近年、人間の行動、言動が全て倍速に見える現象、『ダブルスピード現象』が増加中。原因は・・・」

上 ・・・! オイ!シゴトサボッテンジャナイヨ!!

コ あ・・・ すみません。つい・・・

上 ッタク・・・ チカゴロノワカイヤツハ・・・


 コージ、嫌いな上司から説教を受ける

 しかし、倍速に聞こえているため不思議な表情を見せる


コ(声) ・・・あれ? 全然苦じゃねえ! ラッキ~

上 オイ! ナニワラッテンダ!!

コ す、すみません・・・笑


○ コージの家 (夜)


 1日目と同じようにソファーに寝そべりながら番組を観ているコージ

 倍速に見えているからか通常再生で観ている。やや退屈そう。

 ナミ、コージに話しかける


ナ コージ、キョウハマニミテンノ?


 コージ、ナミの問いかけを無視して観続けている。


ナ ネ~ ムシシナイデヨ~ ナニミテルノ??

コ 別に何観たっていいだろ・・・

ナ ア!コレキニナッテタンダヨネ~ テイウカキョウハバイソクジャナイノ?

コ ・・・今日はそういう気分じゃないから。悪い。明日早いから。


 コージ、自室へ向かう。

 

コ(声)倍速の世界は便利だと思っていた。

    だけどそれ以上に退屈な世界になってしまった。


 タブレットから流れる漫才師のVTR

 動きも声も早口になっていて面白くなくなっている。


 コージ、ため息をつく。


コ(声)そして次の日も・・・


○ コージの家 (朝)

 

 コージとナミ、朝食を食べながら会話している

 ナミは楽しそうに話しているが、コージはつまらなさそう。


ナ デネ!キョウスタバニイクンダケドネ!

コ ・・・ごめん。もう少しゆっくり話せないか?

ナ ・・・サイキンイツモソウイウヨネ。


コ(声)また次の日も・・・


○ コージの職場


 電話が鳴る。

 コージ、受話器を取り通話をする。


電話 モシモシ?××トモウシマスガソチラハ○○シャデショウカ? 

コ  あ・・・えと・・・ すみませんもう一度お名前を聞いてもよろしいですか・・・?

電話 ハイ!××トイイマスガ・・・

コ  あの・・・ もう一度よろしいですか・・・?

電話 ・・・デスカラ××・・・

コ  すみません。もう一度・・・

電話 モウイイデス!!


 コージ、電話をガチャ切りされる。 


コ(声) 俺はこの世界から抜け出すことは無かった。

     そしてついに・・・


〇 コージの家 (夜)


 コージとナミ、無言で夕食を食べている。


コ …なあ。

ナ ……ナニ。

コ 今日機嫌悪いけど何かあったか?

ナ …ベツニ。

コ そうか…

ナ …アナタニハナシテモキイテクレナイカラ。

コ …すまん。もう一回言ってくれないか?

ナ !! マタソウイッテ! ナニワタシノイッテルコトガワカンナイノ??

コ そうじゃなくて… その…

ナ …モウイイ。


コ(N)これがきっかけとなり、ナミとは別れることになった。



〇 コージの家 (昼)


 カーテンを閉め切り薄暗い部屋。

 コージ、何もせずソファーの上に寝ている。

 タブレットでYouTubeを観る。しかし倍速に見えているまま。

 タブレットを乱暴に置く。


コ(N)ナミと別れた後も「ダブルスピード現象」が収まることはなかった。

    何をしようとしても全て倍速に見える日々。

    こんな日々がこれからも続くのならいっそのこと…


 コージ、ベランダへ行き、地面を覗く。

 その時、スマホに着信が。

 コージ、スマホを取り電話に出る。

 電話主はコージの友人だった。


コ …もしもし。

友 オウ!コージカ!?ゲンキニシテルカ~?

コ …まあな。で、何の用だ。

友 イヤ、オマエガサイキンナミチャントワカレタッテキイテサ、ドウセナラゴウコンニデモサソオウゼッテナッテサ~ ドウダコナイカ?

コ …行くと思うか?

友 イイジャンイイジャン~ ナ!カワイイコヨウイシトクカラサ~

コ ・・・ったく。


〇 居酒屋の個室(夜)


 男女3対3の合コンをしている。コージとアキ以外は盛り上がっている。

 コージは浮かない顔をしながら参加している。

 アキは場の雰囲気になじめず、1人おどおどしている。


友 トイウワケテ、゙カンパーイ!!


 全員、グラスを合わせ乾杯。

 コージとアキは少し遅れてグラスを合わす。


女 アノ、オシゴトッテナニサレテルンデスカァ?

男 オレハエイギョウヤッテマス!! キミハ?

女 ワタシハ・・・


 コージとアキ以外、会話が盛り上がっている


コN ・・・合コンも倍速になるとつまんねえな。

   これはさっさと帰った方がいいか。


男 オイコージ!ナニダマッテンダヨ!

男 オマエラシクナイナ!ア!マダヒキズッテンノカ?

コ ・・・うるせえ。


女 ネェ!アキモナンカシャベッタラ?

女 ソーダヨ! セッカクノゴウコンナンダカラサ!

ア ・・・・・・うん。 


アキ、コージに話しかける。


ア ・・・あの。コージ・・・さんですよね?

コ あぁ。はい。 ・・・って え?

ア ・・・? どうかしましたか??


 コージ、アキの話す速さに動揺する。


コN えっ? なんでこの子の言葉がはっきり聞こえたんだ??


ア ・・・やっぱり、私って話し方変なのかな・・・ ごめんなさい。

コ いえいえ!! あの・・・ よければもっと話しませんか?


〇 公園 (夜)


 コージとアキ、2人で公園を歩きながら会話をしている。


ア 今日はありがとうございました。とても楽しかったです。

コ こちらこそ。僕も楽しかったです。

ア ・・・コージさんって聞き上手なんですね。

コ そうです・・・かね?

ア ・・・私、話すのがとてもゆっくりなので、なかなかちゃんと話を聞いてもらえなくて・・・・・・

コ ・・・いえいえ。これで良かったのなら・・・


 コージ、ベンチを見つける


コ 少し腰掛けますか。

ア (無言でうなづく)


 2人、ベンチに腰掛ける。


コ ・・・・・・人と会話するってこんなにも幸せなことなんですね。

ア ・・・? どういうことですか?

コ ・・・僕、「ダブルスピード現象」に悩んでて・・・ あ、知ってますかね・・・?

ア ごめんなさい。知らないです・・・

コ えっと・・・ あの船見えますかね?


 コージ、海を走る船を指さす


コ 僕はあの船が速く動いているように見えてるんです。

  それに、あのジョギングしている人もあの散歩している犬も全部高速移動してて・・・

ア ・・・・・・

コ 人の会話もそうなんです。僕には全部早送りに聞こえてて・・・

  だから今日の合コンもみんな何を話しているのかわからなくて。

ア ・・・じゃあなんで私は・・・

コ それはその・・・ はっきりと聞き取れたというか・・・

  あ!バカにしてるわけじゃないんです! 何というか・・・ その・・・

ア ・・・・・・私と似てますね。

コ え?

ア ・・・「スローモーション現象」ってご存知ですか?

コ ・・・ちょっと聞いたことないですね・・・

ア 私には全部スローに見えてるんです。簡単に言えばコージさんの逆ですかね。

  ・・・でもこんな現象わかってくれるはずがないですよね・・・

コ わかりますよ! 僕も同じ気持ちです!

  誰にもわかってもらえなくて、どうすればいいかわからない悔しさ・・・

  アキさんの気持ちわかりますよ。

ア ・・・コージさんと出会えて本当に嬉しいです。

  まさか私と同じ悩み・・・いや真逆だけど真逆じゃない悩みをわかってもらえるなんて・・・

コ あの! もしよかったらLINE交換しませんか??

ア ・・・! ぜひ!

 

 コージとアキ、どこか肩の荷が下りたのか幸せそうな顔を浮かべて見つめあう。


〇 コージの車内 (7年後)


 コージ、車を運転しどこかに出かけている。

 アキ、助手席に座り楽しそうな表情を浮かべる

 後部座席には2人の子供・小鞠が一人ぐっすりと眠っている。


コ ・・・ってこともあったよなぁ。

ア そうね。それがコージさんとの出会いだったね。


コN それから間もなく俺はアキと結婚し、今ではかわいい一人娘を持つ1児の父となった。

   残念ながら「ダブルスピード現象」はまだ治っていない。

   ・・・いや。正しく言えば治さないことを俺は選んだ。それはなぜかって?


 コージの周りでは時間が速く進んでいる(ように見えている)

 アキの周りでは時間が遅く進んでいる(ように見えている)


コN この現象のおかげで妻と出会うことができた。

   やっかいな現象のまま生きていくがそれも苦ではない・・・はずだ。


 コージ、思わず笑顔を見せる

 アキ、不思議そうにコージを見つめる。


ア ?? 何笑ってんの~?

コ ・・・ん!? あ、これは・・・ 幸せだなぁって思っちゃってさ・・・

ア ・・・変なコージさん。

ねえ。あそこのサービスエリア寄らない? 

コ おっけ。


 車がサービスエリアの駐車場に止まる。


コN だが、一つだけ悩みの種がある。それは・・・


ア よし! 小鞠~ ソフトクリーム食べにいこっか!

こ う・ん・パ・パ・も・は・や・く・い・こ・!

コ ・・・おう。


 小鞠、コマ送りのようにカクカクと動いている。

 コージ、車から降り、小鞠を不安そうな目で見つめる。


コN 娘は娘でこの世界が「別世界」に見えている・・・ということだ。

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倍速 あじふらい @ajifu

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