小布施の栗モンブラン 🌰🍰

上月くるを

小布施の栗モンブラン 🌰🍰





 あ~あ、またやっちゃったわ。(*'ω'*)

 ったく、懲りない人だよね~。(*ノωノ)


 

 新人なのにデジタル事務局をつとめる句会に友人を入れてもらえるか根回しをし、先輩各位の快諾を勇んで本人に伝えると「そうですか、やってみます」の呆気なさ。


 なにこれ?! あなたが上達したいって言うから、無理を承知でみなさんにお伺いを立てたのに、わたしのひとり相撲だったの? ま、いつものことだけどさ。(^-^;




      🚙




 こういう日は危ないことを経験則で知っている。

 放っておけば、負のスパイラルに絡めとられる。


 ああだこうだ考える隙を自分に与えず、さっさと着替えをして運転席に乗りこむ。

 三軒確保しているカフェかファミレスのいずれにするかは、その日の気分しだい。


 いつもの席で「いつもの」をオーダーすると、先刻の憤懣がすでに半減している。

 あの人にもこの人にも避けられている……被害妄想癖まで尻尾を巻いて退散する。


 冷静に振り返ってみれば、当の本人より仲介者の自分が熱心すぎたのかも知れず、辟易というかタジタジというか、一方的に押しまくられるイメージだったのかもね。


 そういえば、日頃から「仕事時代、たいへんお世話になったので……」と言われていたような気もするので、もしかして、今回の入会希望も義理がらみだったりして?


 

      

      🌅




 そこまで考えを進めて来て、ふと気づいた。

 あと何日かで多事多端な寅年も終わる。🐅


 俳句を始めてからいつも持ち歩いている文庫本サイズの歳時記を取り出してみる。

 自分の生きて来た道やこれからに思いを巡らすこの時期を先人はどう詠んだのか。



 ――旧里や臍の緒に泣く年の暮      芭蕉

   去ね去ねと人にいはれて年の暮    路通

   ともかくもあなた任せの年の暮    一茶



 う~ん、重いよね~、他人さまの懐や厚意をあてにする昔の俳人の人生は茨の道。

 なのに風雪や極寒を凌げる居場所を確保できている身でなにをぐちゃぐちゃ……。


 


      🍰




 気づけば、あんなに気になってならなかった友人の一件はすっかり薄らいでいた。

 お膳立ては済んだのだから、あとは事務局として淡々と月一の作業をこなすだけ。


 そうなったときに、どれだけクールになれるか、自分自身が一番よく知っている。

 いままでもそうして自分の心の決着を自分でつけて来たし、これからだって……。


 歳時記をバッグにもどした指先は、卓上のコールボタンに迷いなく向かっている。

 季節限定「小布施の栗モンブラン」を今年のカフェスイーツの食べ納めにしよう。


 娘夫婦の好物をゆっくり賞味すれば、佳い兎年が待っていてくれそうな気がする。

 真っ白な大皿にちょこんと鎮座ましました栗菓子は、ほどよい甘さの絶品だった。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小布施の栗モンブラン 🌰🍰 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ