エピローグ やっぱり俺は懲りないのだ、エルフの美女の誘惑に

 はじまりの村からの帰り道、エレーナは本当にくっついてきた。


 飲食代も、乗合馬車の運賃も、ぜーんぶ俺に払わせた。


 なんて図々しいやつだ。まぁ払う俺も悪いんだろうけど。


 馬車の座席で、エレーナが、俺のほっぺたを指先でぐりぐり押してきた。


「あたしの路銀も払っちゃうし、はじまりのダンジョンで脱出用の魔法ロープを初心者冒険者に使っちゃったし、機会損失もたくさんあったし、利益はかなり減ったんじゃないの?」


 経済は難しい。費用と収益だけではなく、機会損失の概念もあった。


 ダンジョンでエレーナのためにタダ働きしたこと、および教会の地形効果を無料で書き換えたことだ。


 もし両者から利益を得られたなら、この案件は大幅黒字だったはずである。


 もちろん現時点で、多少なりとも黒字は発生しているのだが、他の経営者が収支報告書を見たら、もったいないと思うかもしれない。


 だが、この機会損失多めの数字は、俺らしいともいえた。


 はじまりの村の村長が感謝してくれたあの姿こそが、うちの会社が長続きしている要因だろうから。


「エレーナは、機会損失がたくさんあったと思ってるんだろ? なら、たくさん損をした俺を慰めるために、ほっぺにちゅーしてくれよ」


 俺がほっぺたを差し出したら、エレーナは悪い顔になった。


「じゃあ前と同じように酒の飲みくらべをしましょう。それであたしに勝ったら、今度こそ一晩だけ恋人になってあげる」


 分の悪い賭けである。


 だが賭けに勝てれば、美しいエルフの女を一晩だけ好き放題できる。


 ただし理性が訴えていた。これまで何度も同じ手に引っかかってきたじゃないかと。


 しかし俺の性欲は、理性をあっさり蹴っ飛ばして、どかーんっと勝負にでた。


「絶対だな!? その約束、忘れるなよ!」


 うちの会社がある商業都市で馬車を降りるなり、さっそく馴染みの酒場で酒の飲み比べとなった。


 俺は勝つ気満々だったが、ステータスのカンストした超人に、アルコール耐性で勝てるはずもなく。


 あっさりと酔いつぶれて、ふと気づけば朝だった。


 すでにお店は閉店しているし、エレーナの姿はない。


 俺は自分の酒臭さで敗北を悟り、がっくりとうなだれた。


 あぁ、今度こそエレーナとワンチャンあると思ったのになぁ。


 酒場の店長が、店内を清掃しながら、俺に言った。


「ゲイル社長、あんたエレーナに財布持っていかれたぞ」


「えっ…………うわマジじゃないか! っていうか店長もなんでエレーナを止めなかったんだよ!」


「こちらとしては、酒代払ってくれるなら、どちらの財布でもいいからな。それに、ゲイル社長は、エレーナに財布持っていかれたぐらいじゃ、へこたれないだろ?」


「そりゃそうだが……ああもうこんな時間か。社長が遅刻したら、カッコ悪いからな。自宅に戻らずに、出社するか」


 酒臭いまま出社するわけにもいかないので、酒場のトイレを借りて、顔を洗うことにした。


 トイレの鏡で、自分の顔を見たとき、嬉しい誤算に気づいた。


 なんとエレーナのリップマークが、俺のほっぺたについていた。


 どうやら財布を盗んでいくとき、ほっぺにちゅーしてくれたらしい。


「なんだよ、どうせほっぺにちゅーするなら、意識があるときにしてくれよ!」


 俺は地団駄を踏んで悔しがった。


 酒で酔いつぶれたときに、ほっぺにちゅーされても、あのぬちょーっとした幸せな感触を味わえないではないか。


 あぁ、もったいない。


 でも、ほっぺにちゅーは事実である。


 しかもこの案件では、合計三回もちゅーしてくれた。


 でへへ、エルフのちゅーは気分がいいな。


 ただそれだけで、財布を盗まれたことに納得してしまうんだから、俺はやっぱり色仕掛けに弱い。


 えぴそーど1完結


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作者です。続きのアイデアはあるんですが、これ以上更新すると、異世界お仕事コンテストの規定文字数を超えてしまうので、キリのいいところで完結とします。

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地形効果をメンテナンスする男が、エルフの悪女に騙されてタダ働きする話 秋山機竜 @akiryu

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