流木おじさん

カント

本編

「よぉ久しぶり」


 子供の頃、帰り道の浜辺で呼び止められた。


「何してるの」


 涅槃仏ねはんぶつのように寝転んでいる、無精髭ぶしょうひげだらけの男が居た。下半身をボロボロの流木に突っ込んでいる。人魚ならぬ人流木だ。


「流れてる。色んな場所や時代を」


「時代?」


 物珍しさに負け、僕は男と少し話をした。悪い人生じゃ無かった――男は笑っていた。


「ここが潮時だったな」


 しばらく話した後、男は動かなくなった。やがて警察が来て、大騒ぎになった。


 僕は『死』を見たわけだ。






 就活に疲れ、ふと浜辺に向かった。


 水際を一人進む内、転がっている大きな流木を見つけた。


 中が空洞になっている。


 入ったらどんな気持ちだろう。


 物珍しさに負け、僕は木の洞へと下半身を突っ込んだ。

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流木おじさん カント @drawingwriting

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