走馬灯
私はただ、平穏に暮らしているだけだった。両親を早くに亡くし、5つ年上の兄さんと慎ましく暮らしていた。
それも半年前からのストーカー被害により崩れていった。
最初は違和感だった。どこからでも視線を感じるようになり、一人で帰る時は誰かに付けられているような気がする。次に差出人不明の手紙、印刷された無機質な文字が私の1日の行動をビッシリと書き込んでいた。
気味が悪くて、それからは手紙が来るたびに読まずに捨てていた。しかし、あとを付けられるのは変わらず、私は日毎に元気を無くしていった。
私の様子を変に思った兄さんが、捨てていた手紙を見つけた。
私がストーカー被害に遭っていると知った兄さんは、今まで見た事ない恐い表情をしていた。
「俺が必ず何とかするからな」
兄さんはそう絞り出す声で呟いた。
数日後、兄さんは逮捕された。ストーカーを見つけた兄さんが殺意を抑えられず、その場で暴行を加えたらしい。ストーカーは意識不明の重体で、事件から数日経っている。
兄さんが黙秘をしている為、世間は動機が分からず兄さんを通り魔だと思っている。
兄さんは事実を言えば周囲が私に好奇の目で見られると思い、黙っているのだろう。
実際は『通行人を襲った通り魔の妹』のレッテルを貼られ、連日沢山の人が押しかけてくる。
皆一様に目を爛々として私をどうしてやろうかと考えているのが窓越しからでも分かる。
もう私を守ってくれる人は誰もいない。悪意と敵意しかないここから早く逃げないと。
せめて偽善の彼らに一矢報いてから逃げたい。一歩間違えれば彼らの餌食になるが、私と同じ苦しみを味わってもらおう。
その為には少し休息が必要だ。ここ数日、ろくに寝てない。体力回復の為、少しでも仮眠しよう。
私は最小の音で数時間後にアラームをかけてベッドに沈んだ。微睡む意識の中、これで終われば良いのにと考えながら。
終わり
偽善からの逃走 考作慎吾 @kou39405
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます