第9話オニババ・セイネン・アフター

あれから一週間


イワテは俺の借りている6畳間のアパートに転がり込んで共同生活することになった。


いろいろな身の上話をしてお互いの事がなんとなくわかってきた。


イワテはどうやら1000年以上前に生き、人を山ほど食い殺した大妖怪らしい。


普通であればそんな与太話を信じることはしないだろうが


自分自身の目で見て体験したわけだし、


警察に相談しようにも、イワテのような存在をまともに受け入れてもらえるとも思えなかった


結局のところ分かっていることは名前と当時の生き方くらいで、


イワテが生きた地域や時代がはっきりしないため


今度、所属しているオカルトサークルのH先輩に相談してみようと思っている。


関わり合になりたくないが、あの人ならいろいろと助言してくれるだろう。


そのまえに先日の飲み会をサボった件を土下座して謝らなければならない。


それはそれで気が重い…。


イワテはやたらと順応能力が高いのか俺のアパートで引きこもり生活を満喫している。


俺の妹が俺の部屋に泊まる時ように置いていった下着に俺のお古のTシャツを着て


ソファーを占領する置物と化している。


ここのところスナック菓子をつまみつつ時代劇の再放送を見るのがお気に入りらしい。


クリーニングから帰ってきた紫色の着物はクローゼットに仕舞い


自称大妖怪が聞いてあきれるなぁ。


始めはこの二人暮らしの資金面など苦労しそうだと心配したが


イワテが料理を作ってくれる事になり、あっさりと解決した。


何よりイワテの作る飯は美味かっし、


コンビニ弁当やジャンクフードが主食だった今までの爛れた生活からすれば


革命的な出来事である。


漬物や味噌汁など質素で古式ゆかしい食事ではあったものの


実家から遠く離れて暮らす身としては非常にうれしい誤算だった。


今のところ生活費は一人暮らしをしていた頃と比べればトントンといったところだ。


イワテの人食いという食性に関しては


「飯を作る代わりにたまにラーメンを食わせてくれればよい」


とのことで今の身体になってからというもの、ラーメンが人の代わりとなっているようだ。


「この時代に生きるなら人なんて食わんでもよいのだ」


と、少し寂しそうな顔をしていたように思う。


ということで基本3食作ってもらう代わりに水曜日と日曜日に一食ずつラーメンを食いに行く約束をとりつけている。


幸いこの町はラーメンの激戦区のため、様々なラーメン店がノレンを下げている。


きっとイワテも飽きて人を襲うことなくラーメン生活をエンジョイしてくれる事だろう。


バイトから戻りイワテの作った遅めの夕食を頂いた俺は


ガチャリと冷蔵庫を開けた。


「ん?」


冷蔵庫を開けてとっておきのプリンを食おうと思ったがどこにも見当たらない。


イワテがこさえたきゅうりの浅漬けの入ったタッパーの左側に


油性マジックで俺の名前を書いたプリンちゃんが忽然と姿を消していた。


またやりやがったなこの鬼っ子が


「なぁ、イワテ」


「なんじゃ?」


俺は怒りを抑えつつポテチをかじりつつ録画した暴れん坊将軍を眺めているイワテに問いかけた。


「俺のプリンしらない?」


「あー…。食ってしもうた」


手元から取り出したそれは


俺のとっておきのプリンの変わり果てた姿だった。


貧乏な学生生活を切り詰め、バイトしてやっと買えたお楽しみの高級プリンである。


ちなみに一個500円はするもので、イワテの分もしっかり買ってあり、この鬼っ子はどっちも食いやがったのだ。


「食ったじゃねぇわボケェー!!」


「なんじゃと!このケチなクソガキが!」


戦争である。


イワテが家に転がり込んでからというもの何度目だこのやりとり


俺も大人になれればよいのだが


甘いものとなれば別の話だ。


どうやらこの鬼っ子も甘いものには目がなくなってしまったらしい。


口裂け女事件の後にラーメンを食って帰るときにコンビニでアイスを買って食わせるんじゃなかった。


「自分の分真っ先に食っといて俺の分まで食うんじゃねよロリっ子が!」


「じゃかましい!プリンくらいで騒ぐな!なんだお前、食い殺すぞ!!」


大妖怪とのやかましい生活はしばらく続きそうだ。

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安達ヶ原のオニババちゃん 英U-1 @hanabusa-u1

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