第19話 人形使い
「エルンストさん!」
「うわっ、キモッ」
ユリアさんはアイテムボックスから見た事のない小銃を取り出し、問答無用で射撃する。
窓は粉々になり、シミュラクラ人間は至る所に被弾し、後ろに倒れた。
シミュラクラ人間は体を覆うようなマントを着用していて一瞬しか見えなかったが、無機質な体をしていた。
あれは人間じゃなくて、ゴーレム?
「ユリアさん、今の銃は?」
「よくぞ聞いてくれました。この前の室内戦の反省から作った散弾銃です。まさか、デビュー戦の相手があいつだとは思わなかったけど」
窓を覗くとシミュラクラ人形がたくさんいた。
エルンストさんが舌打ちした。
「あの人形野郎、結構な数を持ってきやがったか」
シミュラクラ人形が次々と窓を乗り越えようと突撃してきた。
ユリアさんは侵入させまいと射撃しているが、追い付かない。
侵入したシミュラクラ人形は天井や壁を4足歩行で駆け抜け、玄関へと向かう。
玄関の扉が開錠されたようだ。
「もう~、酷いよね。友達に対する対応じゃないよ」
男はヘラヘラとしながらゆっくりとこちらに向かって来た。
後ろにはシミュラクラ人形が控えている。
シミュラクラ人形の1体が空いている椅子を引き、男が座りやすいようにした。
「どうも」
男は座ると、私の顔を見た。
「この子、誰? ユリアは弟子をとらなさそうだし。エルンスト? 嘘、意外だな~。昔のエルンストだったら弟子? そんなのに構ってる暇はないとか言いそうなのに。あれ? 二人ともどうして黙ってるの?」
「お前が平然としゃべっている事の方が不思議なのだが?」
「あ、そうだ。お茶頂戴。ここに来るまでに、すごく時間が掛かったから、のどが渇いて」
「お前、図々しいにも程があるぞ。招かれざる客の分際で、偉そうに茶を要求するな」
エルンストさんはそう言いつつも、お茶を出している。
「そう言いながらも、出してくれる所がエルンストの良さだよね」
男はそう言うとお茶を口に含んだ。
「これ、独創的な味がするね」
「この体験、金貨1枚となっています」
エルンストさんは男がお茶に口を付けたタイミングで金額を請求した。
「騙したな、エルンスト!」
「何も騙してないのだが?」
「だいたい、そんな法外な金を請求できるほど大した茶じゃないでしょ。何これ、銅貨3枚ぐらいの茶?」
「いや、道端の雑草をブレンドしたやつ」
「それはお茶って言わないからね。ただの雑草汁じゃん」
「何でも良いけど、何しに来たの? 早く帰って欲しいんだけど」
「ユリアまでそう言う事言うの? 二人して冷たいな。友達が久々に会いに来たのに」
「私、肉でできた生物しか友達として認めないから」
ユリアさんの回答に一瞬、場が凍った。
「俺はそもそもお前と友達になった覚えがない」
エルンストさんはユリアさんの回答をなかった事にして話を進める。
「ユリアの衝撃的な返答はなかった事にするとして、エルンスト、君とはあの時、一緒にあれをした仲じゃないか」
「あの時のあれとは?」
「ほら、あれだよ。あれ」
「そんな適当な言葉で騙されてやるほど俺は優しくないからな。それで何しに来た人形野郎」
「あの、この方は……どなたでしょうか?」
私はエルンストさんに聞くと男が嬉しそうにする。
「僕はダレル・ベイカー。世界一の人形師。そして、この2人の友人の魔術師さ。お嬢さん、お近づきの印に1体如何?」
シミュラクラ人形が前に出た。
「……いえ、遠慮しておきます」
「ちなみにコイツ自身も人形だ」
エルンストさんが衝撃的な事実を告げた。
「え?」
私は思わず、じろじろと見てしまった。
「よくできてるだろ?」
ダレルさんが自慢するように言う。
「人間と遜色ないんですね」
「表面はな。だが、明らかに気配が人間じゃない。魔術師ならば、簡単に気付けるさ。ある程度実力があれば。あと、これは本体じゃないからな。ダレル本人は今もどこかで、目の前のダレル人形を操ってる」
「え~、そんなことまでバラすの? 良いじゃん、黙っていてくれても」
「テレーゼは優柔不断だからな。何かあった時に、コイツに容赦なく攻撃できるようにしておかないと」
「何で攻撃する前提?」
「そう言えば、思ってたんだけどさ。何でこの人形たち、顔がこんなに適当なの? 流石に点3つだけとか可哀想じゃない?」
ユリアさんがダレルさんに聞く。
「考えるの面倒だったから仕方ないじゃん。いずれ、正式な顔をこの子たちにも与えるから良いんだよ」
「それで何しに来たんだよ。さっさと要件を済ませて帰れ」
エルンストさんは玄関を指さしながら言う。
「いや、風の噂で君たちが面白い物を発見したって聞いてね」
「人形に俺らを監視させていたのか?」
「いや、そんな事はしてないけど、協会の幹部の人が君がビュアイ遺跡に行ったって言っててね」
「チッ、鬱陶しい奴らだ」
エルンストさんが舌打ちした。
「ユリアとエルンストは協会を舐めすぎだよ。彼らはなかなか優秀だよ。まあ、彼らもアトリエまでは分かってないみたいだけどね」
「つまり、お前がここの場所を協会に知らせる可能性があると言う事だな」
「何で?」
「お前はあっちの内情を知り過ぎている。内通の可能性が高いと見るべきだろ、どう考えても」
「いや、僕は人形使いなんだよ? 人形を大量に潜り込ませてるんだよ」
「お帰りは……」
「待ってよ。話を聞いてたかい? 僕は協会に人形を派遣してるって言っただけなんだよ?」
「もう帰ってもらって良いか? 信用がないんだよ」
「そんな酷い事言わず……」
ユリアさんがダレルさんに散弾銃を撃った。
ダレルさんだった物の上半身が消し飛んでいる。
「これで邪魔者は消えたよね」
「本来なら怒る所だが、今回は褒めよう。よくやったユリア」
「エルンストさん、残された人形はどうするんですか?」
私はシミュラクラ人形を見ながら言う。
「そのままで良いよ」
私たちは窓の方を振り向くと、ダレルさんがいた。
ダレルさんはよいしょっと、と言いながら、窓から家に侵入した。
「予備を持ってきていたか」
エルンストさんは残念そうに言う。
「そりゃ、手の速いユリアがいるんだから、予備を持って来るのは当然だよね~。それで、僕がここに来た理由は簡単。魔王の秘密を暴く事。魔王に関しては興味があったんだけどね、やっぱり資料がなくて。一人でやるのは無理だなって思っていたら、強力な助っ人がここにいるじゃないですか。と言う事でどう?」
「確かに、魔術師としてダレルがいれば、心強いな。だが、これ以上うちに問題児を抱えるつもりもない。それにお前は得体が知れなさすぎる」
エルンストさんはダレルさんを射抜くような視線を送る。
一方のダレルさんは満面の笑みだ。
「そんな事ないさ。僕は夢見るただの魔術師だよ。ねえ、ユリア、君がエルンストを説得してくれよ」
「あれ? いつの間に家の中に入ってきていたの、ダレル?」
「ユリア、お前だけ生きている時間軸が違うのか?」
エルンストさんが呆れたように言う。
「何言ってるの? そんな訳ないじゃん、常識で考えてよ」
「お前は常識的な言動をしてから言おうね。おい、ダレル。コイツに話を振るな。話の方向性がおかしくなる」
「久々で忘れていたよ。そう言えば、そうだった」
ユリアさんは昔からこんな感じだったのか。
「君たちも魔王に関してはたいして情報がないんでしょ? 協力した方が良いと思わない?」
「いや、まったく思わない」
「ほら、やっぱりそうだよね。思うよね」
「はぁ、お前マジで面倒だな。じゃあ、一応聞いてやる。お前は何を俺らに差し出せる?」
エルンストさんはうんざりと言う様子で聞く。
「一般的に知られていない魔王の実験場の場所」
「それはどこだ?」
「それを言ったら、僕は情報だけ抜き取られて君に追い出されるよね?」
「……分かった。その話に乗ろう」
「エルンストなら、そう言ってくれると思っていたよ」
戦場の乞食と呼ばれた女~逃げた先はイカれた魔術師のもとでした~ 斯波 花心 @skashi
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