レストラン 🍛

上月くるを

レストラン 🍛





 ――はふはふ超辛口ビーフカレー 🐄 

   ふつうの辛さのポークカレー 🐖

   いろいろ具だくさんのピラフ 🦐



 学校から帰って自転車を止めると、どうしても窓の文字に目が行ってしまいます。

 ランチや夕食どきには地元客でにぎわっていたレストラン「昴」を閉めて三年目。


 一時はすっかり消沈していた両親もようやく明るさをとりもどしつつありますが、お店のかたちはそのままで、いつか復活させる気があるのかないのか分かりません。


 ただ、毎朝夕、はやっていたころの残骸を見なければいけないのがいやなのです。

 なんだか未練たらしいような潔くないような、近所の人に恥ずかしいような……。


 でも、高校を卒業したら専門学校で本格的に料理を学び、志半ばで閉業した両親の思いを引き継ぐ気があるのか問われれば、うつむいて黙りこむしかなくて……。💦




      🥘




 すべてを奪ったコロナが憎い。

 憎くて、憎くて、たまらない。


 何度、何十度思ったことだろう、思っても仕方ないことを。

 それでもまだ思う、コロナのバカヤロー、お店を返してよ。


 他のメニューはともかく(笑)カレーに関しては街一番のプライドを持っていた。

 白い帽子が似合った父はむろん、接客の母も、部活の仲間をよく連れて来た兄も。


 もちろん、ミチル自身、うちのカレーは日本一、ううん世界一だと思っていたし、いまも思っている、どこのだれが何と言おうと、他の店には絶対に負けないんだと。

 



      🍰




 創業者の祖父母が他界していたことだけはよかった、神もそこは配慮したと思う。

 ふたりが存命中に閉店の事態に陥っていたら、どんなに嘆き悲しんだことだろう。


 なにしろ、祖父母にとってわが子同様、というよりもっと大切な存在だったのだ。

 そのお店がとつぜんの感染症のため経営していかれなくなる……。(´;ω;`)ウッ


 人生に苦難はつきものだろうと経験の浅い高校生にも想像はつくが、まさかねえ。

 両親は生きる拠りどころと職を失い、成績優秀な兄は、辛うじて奨学金で大学へ。


 じゃあ、自分はどうする、これから……。

 お店を継ぐのは諦めて、進学か、就職か。


 契約社員やパートで働き始めてからも、店舗の窓のメニューを消そうとしない。

 さりとて、たいへん遅ればせの行政の支援を知っても、腰をあげようとしない。


 降ってわいたコロナに痛めつけられ深く傷ついた両親の気持ちを考えると、迷う。

 藤川ミチル、花の十七歳なれど、まことに悩ましい秋が過ぎてゆくのであります。





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