藍染三月さんの作品はどれも綺麗な缶に閉じ込めた紅茶やお菓子みたいな存在感があります。凝った缶のデザインに一目惚れして手に取った時の嘆息、蓋を開ける時のワクワク感と期待、いざ味わった時の恍惚…など。
今回ご紹介させていただくのは、こちらもまたまるで外から内から職人が作り上げた一品のように重厚かつ繊細なバトルダークファンタジーの「誅戮のヘイトレッド」です。
人と人を縫い合わせて魔女を造る非道な魔法により、実験体として妹を奪われたエドウィンさんと、理性を持つ成功作の魔女となり双子の妹の身体に宿ってしまったメイちゃんが主人公。
人生を狂わされた二人が魔女に関する全てを終わらせる為に戦い続ける復讐譚です。
この作品は冬のイメージが強い作品なので「芯まで凍えそうな寒い夜に飲む、ブランデーを注いだ熱々の紅茶」という印象があります。カップだけでなく水や温度までこだわって丁寧に淹れて、血のように真っ赤な紅茶にアルコールを加え、深い苦みを乗り越えた先に芳醇な味わいと香りで一杯になるような…
硬めの文体ながら選び抜いた美麗な響きの言葉が並び、それがまた残酷な世界を綴る為にとても相応しい。容赦なく血塗れのバトルシーンまでも、伝わる紅の艶やかさに魅入ってしまいます。
私が特撮オタクの端くれだから思うのですが「植え付けられた敵と同じ力を己の正義の為に使う」は仮面ライダー的な作品だな…と感じます。
この構文で当てはめて考えると人外の力を得てしまったヒーローはメイちゃん、人間として戦うヒーローはエドウィンさん、ヒロインはユニスちゃん、おやっさん枠はマスターと非常にバランスの良いメンバーです。ただしユニスちゃんは守られるだけのヒロインでないし、おやっさんキャラは時に期待を裏切るんだ…
そこを踏まえると、確かに主人公はエドウィンさんとメイちゃん二人居てこその作品だと思います。
どんな悲劇に襲われても決して絶望しない彼らの高潔な生き方が本作の魅力の一つなので、ここでメインの酒場メンバー三人について語らせていただきます。
全員光属性ではあるけど、それが何の光なのかは違うなと感じてまして。
まずエドウィンさんは、赤々とした火が燃える綺麗なランプ。
本作のオム・ファタールなので敵ですら本能で惹かれずにいられず、不用意に近付けば身を滅ぼす。どんなに自我が強かろうと、魅了されれば高熱と光に吸い寄せられる虫になってしまう。
アテナ様に関しては、この五年とはエドウィンさんに対する壮絶な一目惚れと片恋と失恋だと自己解釈してます。美を理解する感性があった所為で自覚も無いまま溺れてしまった。いっそ失敗作の魔女のように理性が無ければまだ勝機あったのかもしれないとすら。
アテナ様とのラストバトルですらエドウィンさんはメイちゃんのことを考えていて、激しい憎しみこそあれどアテナ様自身に対しては全く興味や関心を持って見ていないから「あ、これはアテナ様はエドウィンさんに絶対勝てない」と早々はっきりと理解してしまったものです…
そういう訳で、どれだけ長い時を生きてもアテナ様は結局のところ「冷酷な人外を演じている人間」という印象がありました。人間的な欲が捨てられないから、エドウィンさんに出会った時からこの結末は決まっていた。
反対に、エドウィンさんを人間として見ていたからこそ酒場メンバーの方は家族になれて温かな愛を築けたのかなと。
メイちゃんは煌々と夜を照らす月のイメージ。
その光は平等だからこそ本人が見たくないものまで照らし出してしまい、後ろめたさを隠し持っている者には脅威にもなる。敵にとってこんなにも恐ろしいことはない。
メイちゃんは成功作の魔女であれど、それが元でエドウィンさんと出会ってしまったのが敵にとって全ての敗因でもあると思うので、巡り巡って何とも皮肉だなと思ってます。
家族を失って誰も信用できなくなっていたメイちゃんが酒場メンバーにゆっくりと心を開いていく姿が可愛い。戦いを終えて新たな家族を得たメイちゃんの幸せを願わずにはいられません。
ユニスちゃんは小さくても光り輝くアイオライトのイメージ。
すぐ千切れそうにも見える華奢な鎖と可憐な宝石でできたアクセサリーのようで、簡単には壊れたりしない。
トラウマを抱えていたユニスちゃんがエドウィンさんに対する恋心を自覚して乙女らしく感情表現している様が可愛い。そしてエドウィンさんの方は「少女が叶わぬ初恋をして、永遠に美しく心に残る相手」としてあまりにも理想的過ぎるんですよ…!エドメイもエドユニも微笑ましいです。
私が誅戮を読み始めた時は既に三巻まで更新済みでほとんど一気読みでしたが、最終章はリアルタイムで更新時間を待って毎日ハラハラドキドキと楽しませていただきました。
それこそ缶の底まで茶葉をティースプーンで叩いて、飲み終わってしまうのが惜しくてこの香りを香水にしてしまいたいと思うような気持ち…その仄かに甘い余韻のあるラストを是非とも見届けて欲しいです。
久しく読み応えのある、重厚な作品だった……!
その場限りの話ではなく、しっかりと考えられた歴史が再び読まれているような……そんな感覚だとも!
難しい言葉が度々出てくるがゆえ、読みづらいという者もいるのだろう。
けれど、それらがまた、コレが古いお話であることを強調するように、この残酷な世界に溶け込んでそれなしでは語れないものになっているんだ。
時が飛ばず、淡々と……しかし鮮烈に刻まれていく秒針。この1枚の項を捲る手すら、重々しく感じるような……それはきっと、終わりに向かうことへの恐怖だろうか?
ああ、この文を噛み締めたい。だと言うのに、いつかは終わりを迎え、その先に花が咲くような笑顔がないのだと悟ってしまうと、些か淋しく思うんだ。
「二人の人間を赤い紐で縫い合わせて作られた化け物」――それが魔女。この設定だけで物語に引き込まれた。
魔女とは何か、という設定に、ここまで強烈なものを出してくるなんて…。
魔女という存在は多くの作品に登場するけれど、本作の魔女はただ魔法を操り、摩訶不思議な現象を起こす存在ではない。人であった名残と、人ならざるものの残酷さ、その両方を抱えた存在として描かれていて、読めば読むほど胸に重く残った。
戦闘シーンはとにかく映像的で、文章を追っているのに頭の中では自然と光景が浮かぶし、魔法の描写、登場人物たちの語りも含めて、自然と「見えてくる」。
何より驚いたのが作品の完成度の高さ。
イラストがあるだけでも嬉しいのに、オリジナルPVまで用意されている!
ぜひPVも見てほしい!
声がつくことで、言葉がそのまま登場人物を動かしているように感じられて、物語世界への没入感が深まった。
ダークファンタジーが好きな人はもちろん、重くて残酷だけれど、しっかり心に残る物語を読みたい人におすすめしたい作品。
一旦第二章まで読んだ所感で書かせていただきます
19世紀の外国が舞台とのことですが、薬草と硝煙の匂いが漂ってくるような、どこか異世界的な雰囲気も感じられます。
エドウィンが妹を救うために戦うという、本筋だけを見れば王道、しかしその中身は非常に洗練されています。
多くの方のレビューにもあるように、文体はとにかく安定しており表現豊かで情景が目に浮かぶかのよう。
特にバトルシーンのヒリつくような緊張感がとても魅力的でした。
イラストの雰囲気も世界観にマッチしており、耽美で退廃的な雰囲気が個人的にもかなり刺さりました。
既に完結済とのことなので、続きも楽しませていただきます!
エドウィン、メイナード共に悲惨な出来事が起きてもそれに屈しない強さ、ひたすらに「妹に会う」という強い希望と肉親への思いが強く家族に対する愛を感じた作品でした。
メインキャラ枠でないキャラクターの描写もしっかりと描かれており、そこにも「己が妹に酷いことをしたから帰る場所がない」と嘆くほど家族に優しい人なのだと暖かみを感じました。
またそれぞれの生い立ちに悲しき過去があれどそれを乗り越えていこうとする人間的な強さも表れていて励まされるところもありました。
数々の戦いの中で、生きることに対して諦めない強さにも煌めきがあったように感じています。
全体として「家族とは陽だまりのような暖かさと優しさに包まれたものなのだ」という家族の在り方を教えてもらえたような気がします。
いつか全てのキャラクターが報われる日を願って。
読んで楽しかったと思うと同時に、私の心が救われる作品でした。
この作品が投稿されたことに感謝いたします。