逆・裸の王様

高黄森哉

裸の王様

 俺は、ファッションショー、というものは、今日の今日まで崇高なるものだと、勘違いしていた。しかし、実際は違った。男子中学生の猥談を具現化したような、破廉恥な衣服が幅を利かせるような、ところであったのである。


「あれは、なんですか」

「あれは、ロブスターです」


 ロブスターを背負った女が半裸に近い状態で目の前を誇らしげに歩いていく。


「あれは、どういうファッションなのですか」

「あれは、常識の破壊です。ファッション的リテラシーがないと、分からないでしょうね」

「分からんものだな」


 俺は首をかしげるばかりだった。今、話した変な衣装の男は、あの装飾の真意を理解しているのだろうか。もし、理解しているなら、ファッションの価値を認めざるを得ないが。


「あれはなんですか」


 逆立ちをする女は陰部を天に突き出している。


「発想の逆転であります。顔を陰部の位置にすることで、顔を最高限度に神聖化しているのでしょう」


 変な気分だ。明らかに高校生の性欲を偶像化したままの姿なのに、業界人は、それを真面目に観察しているのである。こいつらは、笑わないことで、理解していることを示そうとしているにちがいない。俺から言わせれば、笑った方が、物事をよく理解できていると思う。だって、この奇体を笑うことが、適切な物の評価なのだから。


「あれはなんですか」

「あれは、性の開放と、日常化による、エロスであります」


 ついに胸をあっぴろげにしている女優が出てきてしまった。これは、現代によみがえった奴隷ショーなのだろうか。値切りたい気持ちにさせられた。変な衣装がくっついてる分を、おまけしてくれないか。


「男も参加できるのか」

「ええ。そうでございます」

「俺も参加してくることにしよう」

「ご自由に」


 俺はバックステージで服を脱ぎ始めた。適当にそこら辺に放り出されていた王冠を被り、舞台に昇った。人々は神妙な顔をして、俺を観察していたが、つまみ出せ、という声はついに上がらなかった。

 後日、批評が乗っていたので、呼んでみると、俺の衣装は「見事」だったそうだ。俺は知らぬうちに馬鹿にしか見えない衣装を着ていたらしい。あぁ、馬鹿で良かった。

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逆・裸の王様 高黄森哉 @kamikawa2001

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