第2話 春風の序章

「ん……眠い」


アラームの機械音が鳴り意識が上昇してくる。今日から新しい新学期だ。たとえいつもより登校時間が遅いとはいえ遅刻は許されない。


俺、綾部蛍(ほたる)は部屋のカーテンを開けて日光を浴びて目を覚まさせようと努力するも昨日遅くまでやっていたオンラインゲームのおかげか眠気は全く醒めなかった。


「ふぁぁぁ…快適だけどたまーに眠くなるんだよな、4月って。てか背中も腰も痛え…ゲーミングチェア、ちゃんと考えた方がいいかもな…」


独り言のような愚痴をぶつぶつ呟きながらリビングへと降りていく。リビングには今年から大学2年生を迎える姉、綾部花凛(かりん)が部屋着姿で朝食を食べていた。寝癖や着ている服を見る限り、俺と大して起きた時間は変わらないのであろう。

大学進学を気に茶色く染めた髪はやっと伸びだしたのか肩下にまでかかる長さになっている。スッピンでも比較的整っている顔は普段のカラーコンタクトとは違って眼鏡姿に代わっていた。


「うぃーす、、、おはよ」


「ん…おはよ。お母さんならさっき仕事に出かけたよ、レンジの中に同じの入っているから食べてって」


我が家の両親は二人とも朝が早いため、家族四人が集まることはハッキリ言って少ない。俺自身、普段の登校時間の際には親父と母さんと食事をする機会はあるのだが、如何せん夏休みのような起きる時間が自由な期間だと今回のように、食事だけ用意されているケースが多いのだ。姉に関しては大学進学を機に自堕落がより一層、増したため朝方、両親の顔を見たことが今年に限ってはないだろう・・・


「そういえばアンタも高校2年生か~、ほんと早いね。この前入学したばかりだと思ったんだけど」


「なんか親戚のおばちゃんみたいなことを言うね・・・まだそんな年寄り言葉を使わない方がいいんじゃない?」


机の下で足をけられる。彼女のつま先が脛を直撃し打ち所が悪かったせいか、身体が固まってしまった。朝からこうも痛みを覚えると眠気が覚めていい。


「口には気をつけなさい?まったく・・・そういえばクラスの振り分けの発表はいつなの?」


「え、多分今日だと思うけど。例年通り、始業式で紙が配られてそれを確認するみたいな」


「ふ~ん、今年は彼女出来るといいわね。少しばかり期待しておくわ」


「・・・心配しなくて結構です!」


どうしてこうも人が気にしているところをついてくるのだろうか。確かに、高校進学をして早二年。彼女の一人もできていない、クラスの女子とは仲良くなれたのだが結局のところ、そこまでで止まっており女性と個人での関係性を持つことなどなかったのだから。

朝食を食べ終えて部屋に戻り、朝の支度をする。スマホの通知画面を確認すると男友達からのメッセージが何件か入っている程度で、女の子の名前などは一切見当たらなかった。


(もし、付き合ったりしたら本当にドラマみたいなこともあるのかな・・・)


若いカップルが登下校一緒にいて食事も二人で食べたりして、はたから見れば青春を絵に描いたような雰囲気。

一度も彼女を作ったことのない自分にとって妄想の範囲でしかないことだが、きっとそれは楽しくてしょうがない事なのだろう。


家を出て自転車に跨り遅刻しないギリギリの時間帯を目指す。学校からの距離はさして遠くない、自転車で15分ほどだろう。スマホの通知は変わらずアプリの通知と男友達からのメッセージだけ春の訪れはまだ来そうにもなかった




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枯れない花のアルストロメリア Rod-ルーズ @BFTsinon

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