第18話 遠征 ―水の教会へ―(2)

 鬱蒼とした森に入って数刻、本来ならそろそろ抜け出しても良い筈の時間に幾度目かの休憩の号令が掛かった。


 さっきから神官達後ろの方が騒がしかったから、もしかしてと思ったんだけど、やっぱりなようだ。


 団員さん達――特に助っ人の第三騎士団の中には、あからさまに不満気な顔をする人も出はじめて、不満の矛先は神官達だけではなく、彼等の我儘言い分に耳を傾ける指揮官のレナードにも向けられ始めた。


 レナードはじめ第四騎士団のメンバーは、一連の神官達の行動を『御子オレを渡さないが為の抗議嫌がらせ』と考えているようで、『無視を決め込むと余計に厄介な行動を取り時間を無駄にする』と我儘を聞き入れる作戦をとっているようだが……。


 このままで本当に大丈夫なのか心配になってきたな……。


 何せ神官あの人たちの抗議嫌がらせの原因の一旦が俺にもあるらしいから(俺はそんな覚えは無いけど)、何か申し訳無さを感じてしまう……。


「ほら」

 先に馬から降りたレナードが、俺を乗せたまま馬の手綱を近くの木の幹に素早く括り付け、取って返して俺の前に手を差し伸べた。

 

 今日何度目かの光景。

勿論、俺の下馬を手助けしてくれるためだ。


 まだ馬から一人で下りる事すら、ままならないんだよね、俺……。


 何せ乗馬の経験が皆無だった俺には、乗る・降りる(って言うのか?)なんて基本動作すら、

ハードルが高すぎた。


 ビミョーに恐怖心煽る高さなんだよ!

馬上って!!


 あぶみに足をかけて馬の背を跨ぐと、レナードの腕を支えに、そろそろと滑り落ちるように馬から下りる。

 最後には不安定な着地をした俺の身体を、

レナードがしっかりと支えてくれた。


 毎回、ホント助かってマス…。


「ここで……」

「?」

 服についた砂埃を払ってくれながら、レナードが声を掛けてきた。


「この休憩で、ついでに食事をとる事にした。補給隊後ろの奴らが配っているはずだから、お前もこのまま貰いに行ってくるといい」


「……と、いっても、配給されるのは美味しくない携帯食だけどね」

 俺の背後から声がした。


 振り向くと、後ろの隊列にいるはずの、第四騎士団に所属する赤毛の青年・クリフが、にっこり笑って立っている。


 何度見ても、爽やかな笑顔の似合うイケメンっぷりだ……。


「……携帯食って?」


 俺の問いかけに、二人共が苦笑いを浮かべた。

 どうやら何か思うところがあるらしい。


「まあ、食べてみたら解るよ」


 二人の微苦笑の意味がわかるのはもう少し後の事なのだが……。






 ――えっと……。


 まさか俺、割り込みかなんかしちゃった?

 でも、ちゃんと列の最後尾には並んだような……。


 補給隊の団員さんから渡された、携帯食という名のクッキー(日本あっちのシリアルバーに近いかも……)を手に、俺はいたたまれない気分になっていた。


 何だか、視線が痛いような……。


 俺が補給隊の携帯食配布所(勝手に名前付けてしまったが、何て言うんだ?ホントは……??)とおぼしき所にたどり着いた頃から、辺りがザワザワしていたのは何となく解っていたけれど、

やっぱり皆、食事を楽しみにしてるんだなぁ~。

くらいにしか思っていなかった。


 自意識過剰かもしれないけれど、心なしか俺の事を話題にしているような……。


 やっぱり俺、思いっきり割込みしていた?

いや……でも、

きちんと確認してから列に並んだはず……。


 遠巻きに俺の方を見ていたのは、どうも第三騎士団の助っ人さん達のようだ。

 何やら笑っている人もチラホラ見受けられた。


 これって、まさか……。 


 俺の中で、嫌な予感がした。


 まさか俺……、推しキャラのコスプレして喜んでるイタい奴っ!

……とかって思われてる?


しかも、


“コイツ、似合って無いよねっ!!”

……って感じですか!?


 いやいや、これはコスプレじゃなくって!


 確かに袖を通した時は……(白状します!)

 少しばかり厨ニ心をくすぐられたけど!!


 でもね、言わせて!!

 これは着る服が無いのを見かねた、レナードがだね!


 そんな事を考えていたら、辺りのざわめきが一段と大きくなった。


「?」

「あぁ、御子様!こんな処に!!」


 いつの間にか出現していた神官達は、口々に思ったままの言葉を発し歩いてくるて。


「まったく、御子様をお護りするとか大きな事を言っておきながら……」

「これだから騎士あれらは信用ならないのですよ」



おいおい。

そのセリフ、今言う?神官達おっさんら……。


 一瞬、目眩がした。

 

 辺りで休息をとる騎士から射殺さんばかりの視線が現れた神官達に注がれている。


 何度となく取らされる休憩に、行軍の中断を余儀なくされていた騎士達の不満が一斉に吹き出した様子だ。


 そんな中、神官達彼らは各々、非難の声を挙げているのだ。

 

 彼らは周りの視線を感じてないのか、それともモノともしない鉄壁のハートをしているのか……。

恐ろしい事、この上ない……。


 しかも、俺の周りを取り囲むかのようにぞろぞろ近づいてくる。

 殺気立った視線に、案の定、俺もロックオンされた。


 まったく、やめて欲しい。


 生憎、俺のチキンなハートにはこの状況は耐えられないんデス……。


 騒然とした広場に、ゾンビ映画よろしく集まってくる集団。

 これを恐怖と言わずして何と言うんだろうか?


 この場からどうやって逃げようか……。

ただそれだけしか、今の俺には思い浮かばなかった。


タイミング、悪すぎでしょ。

これ……。



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俺がつぶやくと何故だが現実になってしまう件〜しかも何か勘違いされてます〜 藤沢 充 @mitsuru3588

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