序章:アウイ神も投げ殴られる


〘ぎいいいいええええええええ!?〙

 神の悲鳴は常人には届かなかった。 その代わりに、青い業火が硬い屋根を溶かし回った。

 青の思神は、ローブを柄にされてその全身を刑務所の表面に叩きつけられ続けている。 自らが出した獣によって。

 ローブの下がすっぽり抜けないのは、神故のことなのか。

 恩を振り回している張本人アケナは、高らかに笑っていた。

「あぁ~りがとなあ~っダしてくれてよっ!

 あんた、シなねーカンじだろ? おレイに一緒にここぶっ壊そうぜ!!」

〘なに滅茶苦茶言ってんだばしゃぁっ、どんな理屈びやあっ!?〙

 取れた片腕を持ちつつ、ついていってる巨体オートァイは呟いた。

『ぶ……武器にされている。 神じゃなかったのか……?』

 リモの目に映る、壁の逆殴打に白目で喘いでいたアウイは、咆哮した。

〘だ……ダイヤモンドォォォ!!!〙

 聞き慣れぬ言葉にアケナは手を止めると、アウイは白目で言葉を紡ぎ出した。

〘僕は……真実を封じたダイヤモンドを、ここから盗りに来てたんだ!!

 君もそれに協力しろぉぉぉ……〙

「……んめえのかソイツ?」

〘食えねーよ!!! 君より賢い使い方で!! 所長室にあるんだよ!!!〙

 叫んだアウイを片手に、アケナは顎に手を当てた。

「んー……ショチョーシツってどこだ?」

〘おい機械……地図出してやれ〙

 言われるがままに、胸からマップ映像を出力するオートァイ。 目を輝かすアケナを尻目にリモは思った。

(なんでおれ、言われるままにやってんだ?

 神だから……? いや、投げられる神様なんて聞いたことも……待てよ)

 ――神様なんて、どこで聞いた?

 ――家で勉強してたのは……

『……おい神様。 アンタ、本当におれになにをした?

 覚えてるはずのことが、まるでわからない。

 !?』

 ゼェゼェと息を切らすアウイにダメージはないが、壁への殴打によって疲れている。

〘だ……黙れよ情弱。

 NPCだったお前を、引き上げてやったんだ!

 感謝して僕のために働け……!!〙

『え、エヌピーシーってなんだよ? ちゃんと説明してくれよ!?』

「なんかわかんねーけど、おマエらヨエえな」

 アケナの率直な言葉に、リモの困惑はますます深まった。

〘ぼ、僕が弱い……? ふざけるな野生児! 僕は高ランクプレイヤーだったんだ。 

 この世界で唯一の常識人だ!〙

 リモとと同様に、意味のわからない言葉を耳ほじる指で塞ぐと、リモに向き直った。

「お前テツモノだよな。 ドンキとイッショだな!?」

 アケナの掌は、オートァイの腹に触れる。

『はっ?』

 指が黒い鋼にヒビを入れて、めり込んでいく。

『お、おい、まさ……ッ!?』

 掌を押し出すようにして、オートァイの腹から取っ手が出てきた。

「おおん?」

『へっ? なんだこれ?』

 アケナは直感で笑った。

「……なんかこいつイイな……」

『な、なんだ。 なに掴んでんだ!? ホントになんだそ、れああ!?』

 リモの言葉を耳に入れずに、アケナは取っ手からと、オートァイの身体が宙に浮いた。

 重しを気にせずにアケナは夜空へ飛ぶ。 空中で構えた瞬間、取っ手が半分外れるが、もう半分は強固に固定されてる。

 大きく笑ったアケナは、取っ手を握った拳を正面に向け、重しを気にせず真っ直ぐ突き出せば、オートァイのボディが頭から突っ込む。

「うおおおおりゃあ!!!」

『ギヤァァ――ス!!!』

 突っ込んだ先は、所長室の真上だった。


 時間は数瞬遡る。

 小太りな刑務所長は、掌大のダイヤモンドを、分厚い手袋で鉄箱に押し入れている。

(クソッ、所員がNPCばかりだったとはいえ、あんなロボの脳筋襲撃で侵入を許した上、超人を逃したとあってはスターグリーズの名折れどころではない!

 この最重要機密を、政府に持ち帰りさえすれば、命ぐらいは……)

 すぐ後ろから轟音と衝撃が走った。

「ぬおお!?」

 所長の額が、最重要機密を強く吸い込む。

 所長室の大半が、オートァイの上半身で埋まっている。

〘おまえ……ダイヤごと壊す気か……!?〙 

 アウイの力少ない文句を、アケナは聞いていない。

 その証拠として、大きな鈍器から伝わる振動に口角を吊り上げている。

 すると、アケナの顔に光が指した。 輝きの根源を細目で見れば、人の形の物体。

 光る所長の額にはダイヤモンド形の穴が空き、そこから所長の身体にが走り回っている。

「おい、なんだアイツ?」

 アケナは神に問いかけても、彼は掴まれてから今までアウイは困惑してばかり。

〘い、いや、わからん。 もしかして所長か?

 世界の真実を吸ったのか? ああなるのか……〙

「おっし! ツエえかヨエえかわかんねーがナグるわ!!」

〘アホか、慎重に……〙

 アケナがオートァイを構える途中に、所長室が崩壊した。


 何もわからない。

「なんだぁやるじゃねーか。

 ツエえな、わかんねーヤツ」

 どうしてこうなったのか。

〘おい対して弱ってないぞ。 ちゃんとやれよ超人!〙

 今の声の主は、どうして自分を見下すのか。 自分は何をしていたのか。 リモはどんな人間だったのか。

 なにもわからない。 わからないのに。

「るせーなぁ、ツギはアンタだぜ!」

 なんでよくわからんコイツに振り回されるのか。

 一つの感情をリモは自覚した。 その瞬間。

『黙れ』

 電子音がアケナの困惑を掴み、腹の取っ手の握力を緩た。 オートァイの手がアケナの全身を掴んだ。

『もうっ、いい加減にッ』

 アケナを大きく振りかぶると、

『せえええええやああああああ!!!』

 真実に輝く所長へ、横に振り下ろした。

 アケナは咄嗟に、肘と膝を突き出した。

 真実所長のノイズ走る身体が、砕ける。 

〘なんだよ自前で作ったロボの方がやるじゃないか!

 無理して超人なんか……〙

 笑う神への苛立ちが、大きな手に乗って、アウイを掴む。

〘……そ……そっかー。

 NPCから引き上げたら、思神掴めるんだー。

 あっははははぎょぉび!!〙

 軽い神が、悲鳴と共に身じろぐ真実所長を焼き焦がす。

 交互の真逆な攻撃が、オートァイの腕から繰り出される。

 当たる瞬間に手足を突き出すアケナ。

 とうに疲れ果ててるアウイの炎。

 真実所長の身体はノイズと共に、砕き焼かれ、輝くダイヤモンドが顕になる。

『もうダイヤなんざ知るか。

 おれは、誰だ――っ!!!』

 (神にとっての)理不尽に次ぐ理不尽に、アウイは怒った。

 思神の身体がオートァイの手を透明にすり抜け、腕に重なる。

〘お前は……僕の……〙

 腕から胸へ重なると、オートァイの身体が節々から変形していく。 手放されたアケナは、息を吐いた。

〘道具だろうがぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!〙

 黒い鍵。 青い炎に包まれたオートァイはキーモードに変形した。

 滞空するアケナは童のように目を輝かせた。

『さっさと事情説明しろよ!!!』

〘僕の通りに動けばよろしい!!!〙

 二つの御魂で独りでに浮いて動く巨大鍵を見据え、アケナはまた笑って、宙を飛ぶと、キーモードの最後部を掴んだ。

『〘えっ』〙

 薄く出てる取っ手から持ち上げ、振りかぶったアケナ。

「おんんんもしれえええええええ!!!」

 鍵の先を、所長の身体、ダイヤモンドへ突き出した。

 ダイヤモンドは砕けた、と思いきや。

 周辺を、巨大なノイズが呑み込んだ。


 ――また新生児が?

 ――はい。 建物を壊し尽くしては、両親を、その……

 ――……良い。 仔細は書面で伝えてくれ。

 ――この世界は……どうしてこんな……

 ――混合のときに正常でいられた我々の方が異常かもしれん……

 ――……なあ……ちょっと良いか? 新生児の収容所とかどうだろう……

 ――蠱毒でみんな死ぬだろう? ……まぁ、それも良いかもしれないが……

 ――各地に一人づつというのは?

 ――新生児の収容所などNPCには異常だぞ……

 ――待てよ……犯罪者のNPC! 彼らの刑務所はまだなかったよな!?

 ――なるほど! 刑務所の奥に新生児を閉じ込めれば!

 ――理論上、新生児は十年生きられる。 これでいくか!


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