背景、夏の友人へ。

 タイトル誤字していて恥ずかしかったのですが、知り合いと話してるうちに新しい話が浮かんできたので供養します。「拝啓、夏の友人へ。」から数年後のふわっとした時空です。

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 犬は漫画家を目指すことにした。犬の姉の子どもに適当な話をしてやった時、「おじちゃん、お話考えるのじょうずだね!」と言われてから、自分の中に才能を見出してしまったのだ。

 しかし問題がひとつ。

 ストーリーを考えるのも、コマ割りを考えるのも、キャラクターを描くのも1人でできる。でも、犬は背景を描くことができなかった。


「壁にある風景画、お前が描いたやつって前言ってたろ?」

「ええ、そうよ」

「俺ぁ、今漫画描いてンだ」

「すごいわねえ」

「だからお前、アシスタントになれ」

「あら」


 老婆は愉快そうだったので引き受けてやった。女学校時代、友達とよく絵を描いたものだ。懐かしい思い出に浸りながらえんぴつを取り、原稿用紙に犬が求めるものを書いてやった。滑り出しは順調に見えた。しかし……。


「ヤダ! もう描きたくねえ!」

「あらまあ」


 犬はそれっきり逃亡した。漫画を描くのがこんなに大変だとは思っていなかったのだ。しかも老婆に「年末のコンテストに応募するぞ!」と言ってしまったし、今朝は雪が降った。犬は追い詰められて宇宙に逃亡し、「夏」という星で現実逃避のバカンスを楽しんだ。


「もう全部の背景を描き終わっちゃったわ」


 老婆は暇になったので、心を鬼にして犬を叱ろうと思った。一度決めたことはやり切らないと、後から必ず後悔するということを知っていたから。

 買ったばかりのスマートフォンで、慣れない操作に四苦八苦しながら犬にメールを打つ。


「画像の添付は、こうだったかしら」


 完成した背景の画像を貼り付けて、わかりやすいように「背景」と書く。そして少しの皮肉を込めて、「夏の友人へ。」と送信した。

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拝啓、夏の友人へ。 ポン吉 @Ponkichy

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