第26話 英雄に相応しい結末

 

こうして我々は、長きにわたるタツノコンビとの因縁にケリをつけて、ついでに戦争を食い止めた。



 つー訳で、リグラに乗って、リリラビラに戻ってきた。

 上空より、王宮の前にある広場を見やる。

 どうやら、あそこが緊急の避難所になってるっぽいな。

 視界の外で、リズが嘆息した。


「うわぁ、パパが皆に何か話してる。行きたくないなぁ……」

「大丈夫だ! 俺達は、国を救った英雄! 堂々と皆の前に立てばいいんだ!」

 

 リズを励ましつつ、自分にも言い聞かせて、王宮前の空いたスペースへ着陸。

 いきなりのドラゴン登場に騒然そうぜんとする民衆。

 だが、騒ぎ立てる者はいない。皆が我々に注目している。

 そんな中、予想外の事態じたいが起きた。

 俺たちを置き去りに、リグラが飛び上がってしまったのだ。

 もうほこらに戻るのか。薄情な奴だなぁ。

 実際には、そんなこと無かった。

 薄情どころか、非情だった。

 何と、リグラは、口にくわえていたと思われる岩を、頭上に落としてきやがったのだ。

 ただ、狙いを外したのか、数個の岩石は、王宮の真横に落ちただけだった。


「うおぉっ! 危ねぇな! 何しやがる!」


 俺の文句に返事するかのように、リグラが雄々しく咆哮ほうこうする。メスなのに。

 ミストに目線を向けて、翻訳ほんやくを頼んだ。


「『僻鱗へきりんを奪った仕返しだ』と言っているでござる」

「……な、何でバレてんの!?」


 ルカが会話に割って入ってきた。


「コウジがワイバーンの上でワチャワチャしていた時に、リグラがラナ湖で水分補給をした。おそらく、そのタイミングで、湖面に映る己を確認し、僻鱗が無いと気づいたのだろう」


 最悪だ……。

 だが、仕返しが単なる岩落としか。狙いも的外れ。

 ドラゴンといえど、所詮しょせんは獣だな。

 浅知恵を笑いながら、岩へ目を向ける。

 ……あれ、ロックエッグじゃね?


 「……遠目じゃ分からなかったけど、こんなに岩っぽいんだな。ほんと、生き物の擬態ぎたいってスゴいよな」


 言うと同時、光り出す数個のロックエッグ。

 もはや俺には何も出来ない。そっと目を閉じた。

 そして、爆発。

 いくつかの支柱が爆ぜて、バランスを崩した城は、あっという間に崩壊した。

 諸行無常しょぎょうむじょうを噛み締めた。

 リズパパが呆然と呟く。


「せ、千年の歴史を有する、ホールデム城が……!」


 そして、久方ぶりに娘を見やる。

 一方の娘は、引きった笑みで応じた。


「……パパ、久しぶり~」

「この逆賊どもを捕らえて、火刑に処せぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 民衆と兵隊が、一斉に俺達へ襲い掛かった。


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」


 無数の手を掻い潜り、俺たちは近場の馬車を目指す。

 隣でリズカスが叫んだ。


「ほんと最悪! 全て丸く収まりそうだったのにぃ! コウジ! アンタのせいよ!」

「うるせぇ! 俺がいなかったら、そもそもこの国は滅んでたんだぞ! 文句を言われる筋合いはねぇ!」


 言い争っていると、ミストも会話に参加してきた。


「ぶっちゃけ、元凶はリズ殿でござる! パムで引き起こした地震によって、地盤が弱くなっていたでござる!」

「はぁ!? アンタのドラゴンが裏切ったのが決め手でしょ! 責任転嫁せきにんてんかしないで!」


 更に、ルカも声を荒げる。


「待て! 明日は、パツィンコマックス王宮前店の設定が激アツなのだ! あと一日だけ、王国を出るのは待ってくれ!」


 無理だよ馬鹿! 火刑になるぞ!

 そんなことを言いながら、我々は持ち前の武力で馬車を強奪ごうだつ

 ミストが巧みに馬を操ったおかげで、見事に国外へ脱出できた。

 馬車の上から、全員で、後方の愚民どもに向けて吐き捨てる。


「ひゃひゃひゃっ! あばよカスども! せいぜい、城の再建を頑張れバーカ!」

「まぁ、アンタたちがどれだけ頑張った所で、あれほどの城は作れないでしょうけどね!」

「仮に城が完成したとしても、ドラゴンの群れを襲来させてやるでござる! 恐怖に震えて眠れでござる!」

「うぅ……。パツィンコマックス王宮前店……。行きたかった……」


 ルカ、もう諦めろ。

 ていうか、流石にしばらくは休業だろ。国が滅びかけたんだから。

 しばらく、リズカスが作った焦土しょうどを爆走していのだが、いきなりミストが馬を止めた。


「おい、何やってんだよ。早く行こうぜ」


 催促さいそくに、彼女は乾いた声で応じた。


「なぜ、あいつらが我々を追いかけてこないか、分かったでござる」

 

ミストが周囲を見渡す。




「――今、周りにある岩っぽいのは、全て自爆直前のロックエッグでござる」




 瞬間、俺たち4人は、ほの明るい光に包まれた。

 しくも、異世界から旅立つ際に、身を包んだ光に似ていた。

 だからだろうか。あの時の、女神からの問いを思い出す。



『もう一度、異世界に行きたいと思いますか?』



 実を言うと、さんざん褒めまくった後で、俺はこう言ってやろうと思ってたんだ。



「異世界なんて、二度と来るかボケェェェェェェェェェ!」



 絶叫の直後。俺たちは爆炎に包まれた。

 実に安っぽい爆破オチだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界なんて二度と行くかボケェェェェェェ! 森林梢 @w167074e

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ