あなたは神様

itsukaichika

失われた世界は

今日は木漏れ日もギラギラする常夏の日


君は絵にかいたような住宅街を歩く


今日は8月32日


君はマンガのようなため息を排出つく


ああ、つまんない日常だな






「なら神になってみたらどうだい」


知らない誰かの声が聞こえた


とつぜん体が宙に浮く


とつぜん力がみなぎってくる


今なら何でもできる気がした


君は空高くまで登った






君は手始めに人類をほろぼした


一瞬で全世界の人間がいなくなった


あたりが静かになった


世界がしゃべらなくなった


君の目の前には、どこまでも続く「失われた世界」が広がった


ああ、心地いいな






夜になる


そらには、数えきれないほどの星屑が、生まれて初めて広がっていた


「失われた世界」で、君は一人星空に語りかける


「君たちは光がなくても見えるんだね


君たちは光があると見えないんだね」





二億年後もうなんねんたったかおぼえてない


世界は緑に覆われている


人類の作り物はとっくにすべて倒れた


君はもう何も覚えていない


何も


そんなとき、君は星空を見上げた


自分で作ってみた星座が一つ輝いていた


題名は、「母座」


君は一人思う


僕のお母さんってどんな顔してたっけ?


妹は?弟は?お父さんは?おじさんは?おばあちゃんは?隣の家の幼馴染すきなひとは?クラスの親友は?担任の先生は?書道教室の先生は?この前TikTokでバズってたあの人は?


「失われた世界」で、君は一人嘆いた


君は一人で祈った。神様なのに祈った


「もう神じゃなくていいです。つまらない日常に戻っていいです。塾の宿題もやるし、受験勉強もまじめにするし、弟妹のプリンもだまし取ったりしません。だって、

思い出したいことが星の数ほどあるから..」














チリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリン


「ちょっと!いつまで寝てるの!もう〇〇ちゃん迎えに来てるわよ」


君は小うるさい誰かの声が聞いた


「はぁーい」


君は少し苦しい制服を着て、リビングへ歩いた


『お兄ちゃんお寝坊だー』


双子の弟妹のハモった声を聞いた


「お、起きたか。気をつけてな」


父の四十路の低い声を聞いた


君はハムサンドを口にくわえながら、幼馴染の待つ玄関へ行く


「早く行こ!!遅刻しちゃうよ!」


君は彼女に手を引っ張られて外に出た


ドアをでた瞬間、まぶしい日差しが君の目に飛びついてきた


反射的に閉じた目をもう一度開くと、


君はようやく気付いた


あ、夢だったんだ







君の見たものは8時間ぶりの、いや、2億年ぶりの

「取り戻された世界」

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