北海道ノートより抜粋

森上サナオ

十年前の八月の北海道旅行でのできごと

 八月三十一日、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

 僕はもうヤバいです。

 第一回「存在しない夏休みの思い出大賞」の開催、おめでとうございます。

 僕はいま、応募原稿を書き始めたところです。

 時刻は八月三十一日の二十時四分。締め切りまであと四時間といったところです。

 夏休みの思い出をなにか描こうと、一ヶ月くらい前から考えていたハズなのに、気がついたらもう最終日。

 これぞまさに夏休みの醍醐味(?)ですね。

 永遠のように長く感じられた八月が、気づけば終わろうとしている。そして宿題は手つかずのまま。

 ヤバいです。本当にネタがありません。

 と、思っていたら、ちょうど良く「懐かしい夏休みの思い出」を発見しました!

 まあ、ヤバいヤバいと言いつつ、ビール片手に執筆している時点で「ファッションヤバい」ですね。

 今思うと、学生時代の夏休みの最終盤もこのくらいのひっ迫感だったと思うんですよ。宿題けっこう残ってるな〜、でもまあ初日で全部提出するわけでもないしまだ大丈夫だろ〜、くらいの危機感。

 今回のネタにしようと思った「夏休みの思い出」も、実を言えば二週間ほど前にはすでに発見していました。

 見つけた瞬間に「うわ懐かしっ! あ、これ応募原稿にしちゃえばいいんじゃね?」と閃いた瞬間、「後はもう書き写すだけ」という安心感からタスクの優先順位は急降下して、いまこうして「ほどほどにあたふた」しているわけです。


 以下に書き写す文章は学生だった十年前の八月二十日〜九月五日にかけて、スーパーカブで北海道旅行を行ったときに旅の記録や思い出を書き記した「北海道ノート」からの抜粋になります。

 十年前、八月、北海道とくれば、何か思い当たるひともいるかもしれませんが、正直あの出来事とは関係ありません。

 なんか青春したな〜という出来事が、たまたまその期間に当たっただけです。たぶん。


 いい加減本題に移ります。

 (本原稿は「北海道ノート」の部分的な抜粋になります)


 八月二十日 20:30

 新潟港着。

 八時間ほとんどぶっ通しでつかれた。

 夜の日本海側暗すぎ怖い。新潟長過ぎ

 フェリー出港は22:30

 乗船手続きとか。


 ふろはいりたい


 21:30

 乗船開始

 でっかいバイク飛んでる、カッコいい


 22:20

 乗船していつもの雑魚寝大部屋に入る。

 わりと空いてる

 

 22:30

 出港ォオオオオオオオオオ!!!!!!

 売店でサッポロクラシック(筆者注:ビールのこと)買ったのんだうまい


 23:00

 部屋にJKおる

 さっき飛んでたバイクの持ち主らしい、飛行士免許大特だった。何者だよ……


 八月二十一日 01:30

 バイクのJKとダベってた。

 名前はアセビ、漢字は忘れた

 北海道に一人旅らしい。

 いいよなバイクは飛べて、こっちはカブだぞ。

 アセビがカブのことをずっと「株」だと思って会話がかみ合わず

 50CCの内燃エンジンで走るモトラドだと教えたら、めちゃくちゃバカにされた。カブを「株」と勘違いするやつに言われたくない

 バイクなら海の上飛んで行けばいいのに、と思ったけど、よく考えたら日本海上は飛行禁止だった。

 こいつフツーに酒飲んでてビビる



 05:50

 秋田港に途中停泊(?)ここでは降りない。

 6時過ぎに秋田港出港して、苫小牧には16時すぎの予定


 09:40

 旭川のツトムおじさんから連絡あったと母さんからメール

 仕事が忙しくて相手できないとのこと

 北海道はやめとけ、って言われたらしいけど、今向かってるんだが

 基地忙しいのかな。


 13:30

 アセビにバイク見せてもらった

 かなり改造して、オリジナルパーツはフレームの一部だけらしい

 赤くてとんがってて、二人乗り用の座席は荷物でいっぱい。

 推進ファンめっちゃカッコいい。二重反転プロペラはロマン。

 上陸したら右回りでひとまず紋別をめざすらしい。

 ルート同じじゃん! 紋別で呑む約束する。

(あいつ高校生では……? まあいいか)


 16:40

 上陸ァアアアアアアアアアア!!!!!!!!!

 四年ぶり!!北海道!!!


 飛行計画書があるからアセビは遅くなるらしい

 こっちはカブだから先に行かせてもらう

 走れるところまで走ってキャンプ


 19:00

 めっちゃ戦闘機飛んでる


 無料キャンプ場でテン泊

 隣でキャンプしてる人から聞く

 メマンベツ、チトセで飛行機とまってる。

 道空軍と米空が止めてるらしい フェリーで良かった

 アセビ飛べてないんじゃないのか? 今のうちに距離走らせてもらう

 

 

 

 八月二十二日 05:30

 朝メシ

 サッポロ一番(たまご入り)

 さっむい、ねむい、防寒着あったほうがよさそう

 夜もジェット音うるさかった クソ眠い 風呂入りたい



 11:10

 昼メシ

 セイコーマートで弁当

 

 途中でアセビに追い越された。バイク早すぎ

 こっちに気づいてグルグル(バレルロール?)回ってた

 今日中に釧路あたりまで行きたい


 17:50

 釧路のキャンプ場でアセビと会う。 

 ツルの頭みたいな形のバイクにタープ張ってた

 中標津の方まで飛んで、引き返してきたらしい

 空から見下ろしたミルクロードの景色をめちゃくちゃ自慢された

 民間機飛べないんじゃないの?

  ↓

 大丈夫らしい

 ミスるとスクランブル機に堕とされるらしい

 大丈夫じゃないじゃん

 


 22:30

 だらだら呑みながらアセビとダベる

 あり得ないことにコイツ、余市(筆者注:ウィスキーのこと)のボトル積んでやがった

 酔ったせいで小説とか書いてることをうっかり話してしまう

 思った以上に食いつかれる

 「あたしモデルに小説書いてよ」としつこくむちゃぶりしてくる

 アイディア

  ↓ 

 バイクに乗った魔女が暴走した飛行空母を追いかけて、落っことす。

 SF?

 空母の反重力炉を破壊、オーロラ


  ↑なにこれ?

 八月二十三日 05:30

 アタマいたい

 酔ってたせいで全然思い出せない、昨日の夜はなんかすげえ楽しかった気がする

 昨日のメモの内容があいまいすぎるアセビに聞こうとしたら、いなくなってた

 どうせ紋別で会うからいいか


 (中略)


 八月二十四日 17:40

 なんとか紋別に到着

 道の駅でアセビ待つ

 ハラへった フロ入りたい


 20:00

 キャンプ場に移動 

 結局アセビ来ず

 メシ食って寝よ

 

 23:45

 轟音で目が覚める

 西の空があかるい、赤っぽいモヤが空で動いてる

 オーロラ? 


 八月二十五日 11:00

 道の駅のテレビでニュース見る

 当面の間、北海道上空は飛行禁止らしい

 ウラジオストックのユ海軍がどうとか。

 八月いっぱい、ひょっとしたらフェリーも動かないかも

 爆発は旭川の道軍演習場らしい

 ツトムおじさん、大丈夫か不安。


 八月二十九日 17:00

 旭川周辺が封鎖

 もとから海沿い走る予定だからいいけど

 ツトムおじさんとの連絡とれず

 ニュースじゃ大丈夫って言ってたけど

 そういえば、アセビのバイクは全然見ない。

 道内の疑似反重力エンジンがほとんどおシャカになったらしい

 あいつも飛べてないだろうな。 


 九月二日 19:00

 やっと小樽まで来れた

 港湾センターの宿舎、安くて部屋が広くて最高

 小樽の運河見に行ったけど、観光客は少なかった

 小樽までの道もあちこち検問 夜は毎晩赤いオーロラ、スゲーきれい

 アセビには結局会えず。

 

 九月三日 15:30

 小樽のフェリーターミナルに行く途中

 信号で後ろからカブ

 やけに新しいヘルメットに、下手くそな荷物のつけ方

 何だコイツ、って思ったらアセビだった。

 バイクどうしたって聞いたら

 「ぶっこわれた!!!!」

 大仕事終えたみたいな清々しい笑顔で言うな

 オーロラ出た日に落っことして廃車にしたらしい。バカなのか?

 ぜんぜん惜しくなさそうなのがヤバい。

 カブも悪くないね、じゃねーんだよ

 


 * * *


 現在時刻は八月三十一日の二十三時四十七分。

 書き写しながらどこをはしょってどこを書こうか悩んでたらこんな時間になってヤバいヤバい。

 というか思っていた以上にノートの内容が曖昧で中途半端で、何が書いてあるのかほとんど分からないと思います。

 十年前、北海道軍旭川演習場で発生した爆発事故と、それが原因と思われるオーロラ発生。

 あれのせいでかなり旅程は狂ってしまったけれど、おかげでこの時期になるといつも思い出します。

 結局あれ以来、アセビとは一度も会っていません。またどっかで無茶な飛び方してバイクぶっ壊してなければいいのですが。

 

 もうちょっとまとめたかったのですが、もう締め切りまで時間が五分ちょっとしかないです! すみません、これで出します!!

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北海道ノートより抜粋 森上サナオ @morikamisanao

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