薫陶・弐

長万部 三郎太

故に、若くも

「老師、先週の続きを!」


わたしは門をくぐると元気よく挨拶をした。

すると、いつものようにまるで玄関先で待っていたかのように開く扉。


「また来たか小僧」



教えを受けてはや4年が過ぎようとしている。

まだまだ修行中の我が身、学ぶべきことばかりだ。


今日も駆け足で本題に切り込んでいく。


「早速ですが、先日のお題について考えがまとまりました」


「ホウ、それは是非聞いてみたいのぅ」


老師から出された難題。

『意識すればするほど、加速するものとは何か?』

わたしは数日間考えに考えを巡らせ、ある答えに到達した。



「意識すればするほど加速するもの、それは恋心です!」


この答えに破顔一笑の老師。

さらには膝を叩いて身を捩るほどの大ウケだった。


「良い、実に良い。故に、若くもある。

 実に羨ましい!」


どうやら……。

正解ではないようだが、不思議と褒められているようなそんな感覚だった。


「老師、この回答は誤りでしょうか?」


老師は少しモジモジしながらこう言った。



「意識すればするほど加速するもの。

 ……それは尿意である」



さすが、おじいちゃんだ。





(筆休めシリーズ『薫陶・弐』 おわり)




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薫陶・弐 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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