最終話 今を生きる君から

 今日、俺と凛は恋人同士になった。その実感が湧かなくて、ベッドに横たわって考えた。

 恋人って、具体的に何をするんだろう。一緒に登下校して、放課後や休日にデートしたり? でもなんか、今までとあんまり変わらない気がする。手はもう繋いだから、もっと発展的な……ハグとか、キスとか……その先も……

 そのときスマホが鳴り出して、飛び上がるように身体を起こした。誰からの連絡かさえ見ることなく、電話に出た。

「はいもしもしっ」

 少し声が裏返ったので軽く咳払いをした。

『もしもし優くん? 凛だけど、今大丈夫?』

 さっきの妄想がフラッシュバックして、罪悪感に苛まれた。ブンブンと頭を振って邪念を追い払う。

「だっだだ大丈夫だけど、どうかした?」

『……あのね、話したいことがあるの。何も言わずに、黙って聞いてくれない?』

「……ん、わかった」

 まさか、もう別れ話……なんてことはないだろうから、俺は黙って耳を傾けた。

『まず、今日は色々とありがとう。優くんの彼女になれて、すごく嬉しいです。でもその前に、幼馴染の凛として伝えたいことがあります』

 急に改まって敬語を使うから、例の手紙を思い出してしまった。凛が深く呼吸するのが聞こえる。

『ちょっとだけ、昔の話をさせて。余命宣告されて間もない頃、私、毎晩泣いてた。知らなかったでしょ? 誰かといるときは悲しくならないの。自分があと三年で死ぬなんて、信じられなかった。でも消灯時間を過ぎて部屋が真っ暗になれば、急に怖くなって……涙が止まらなくなった。精神的にも不安定になって「これが運命だ」って諦めてた。……でもね、君が変えてくれたの。何度もお見舞いに来て面白い話をしてくれて、すごく励まされてた。まだ生きたい、運命を変えたいって、思えるようになった。そして好きになった。暇だからって言ってしてた勉強は、気づけば君に教えるためになって、手術を受けたいと思ったのは、まだ君の隣にいたかったから。目を覚まして、窓から夜が明けたばかりの空を見たとき、最初に君を想った。それから君はすぐに会いに来てくれて……明けないはずの夜から、君が連れ出してくれた。本気でそう思ったよ。「何もしてない」って君はよく言うけど、私が生きてるのは君のおかげ。だからもう一度お礼を言わせて。ありがとう。それと、これからもよろしくね。———大好きだよ、優真』

 そのまま通話は切れてしまった。しばらく動けなかった。手紙でも明かされなかった、凛の本当の気持ち。苦しいけど、温かい。

 今、絶対見せられない顔をしている。いつかの『ホイップ事件』なんて比じゃないくらい、真っ赤になってるだろう。

 それほど好きで好きで、大好きで。凛が生きているのは奇跡が起きたからだけど、もう奇跡なんて曖昧なものには頼らない。凛は、俺が幸せにするんだ。

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夢叶う夜明け 星合みかん @hoshiai-mikan

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