第4話
敵を仕留めた蹴りはスキルではない。ただ、思いっきり蹴っただけ。兎の後ろ脚は強靭だ。だが、飛び跳ねるための脚であり、攻撃用ではない。つまりは
今回もたった一撃で骨にヒビが入った。サラさんにおんぶされ、お持ち帰りされてしまう事態である。相手が戦闘に特化した異能でなくて助かった。
サラさんの家に着いたら、死んだとばかり思っていたライルさんがのんびりと紅茶を飲んでいた。奴は旅路ですれ違った記憶を覗き見た彼の記憶を覗いただけだったらしい。本物のライルさんがサラさんと接触する前に片を付けたかったのだろう。
男性であるライルさんは発情状態の僕の危険性を正確に感じ取り、僕の大事なものを切り落とそうと剣を抜いた。慌てて背中から飛び降り、足を引きずりながら必死に逃げ続ける僕を見て、彼女は腹を抱えて笑っていた。やはりサラさんの笑顔が一番である。
サラさんはその夜遅くに僕の宿を訪ねてきた。彼女が僕の部屋に足を踏み入れるとき、僕は僕の秘密を打ち明けたが、彼女の決心は変わらなかった。
そして翌朝、ベッドで眠る彼女の
――今から話すのは母から聞いた昔ばなしだ。
むかしむかし、ある王国に勇者が現れました。勇者は魔族に支配されていた人族の希望の光となり、激闘の末に王国を解放します。その後、勇者は囚われの身であったお姫様と結ばれ、たくさんの子宝にも恵まれました。
ところが、めでめでたしとはいきません。勇者の力を受け継ぐ子供は、魔族の脅威であり、常にその命を狙われ続けました。勇者と魔族との戦いはその後、何世代にもわたり続きます。
そして、とうとう勇者の末裔は一人だけとなりました。すでに、彼の力は既に衰えつつありました。
勇者は人類の希望。血筋を途絶えさせるわけにもいきません。だから、彼は自分の命と引き換えに、
勇者の力を一世代に限り封印し、我が息子に授けたのは、子孫繁栄のシンボル「兎」の異能。勇者は願ったのです。自分の大勢の孫たちが、息子の子供たちが一致団結し、魔族の脅威に立ち向かい、人類にふたたび平穏をもたらす日々を・・・
――なんともふざけた話である。
「お父さんはあなたに勇者という重荷を背負わせたくなかったのよ」
母はそういうが、結局、僕は常に追われる身だ。僕に勇者の力はないが、勇者の血が流れている。心を満たすほどの絶頂に至った時、血が活性化し、魔族に検知されてしまうのである。
だから僕は愛する人を置いて逃げ続ける。勇者の末裔が戦う手段を捨て、性欲のままに遺伝子をばらまき続けているなんて魔族は気づくはずがない。僕が一緒にいなければ愛する人に危険はない。
我が子が魔族に追われるまでに育った時、彼らは立ち向かえるだけの力を手にしていることだろう。
いくら言い訳しようが、僕は結局、“ヤリ逃げ野郎”である。それを否定する気もない。
しかし、僕は幼いころ、母に抱きしめられたときに誓ったのだ。
――自分の
脱兎〜ヤリ逃げて幾星霜 寺澤ななお @terasawa-nanao
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