強い眼差し
アヤメ村から徒歩で10分程度のところにある洞窟。そこでは貴重な鉱山資源がたくさん取れるそう。いまは魔族が占領してて取れないが。
俺は今、そんな洞窟に来ている。偵察だ。
中で待ち構えているであろう魔族の数を調べてくるように言われているが、この洞窟は出入り口が一本しかない。
そんな洞窟に偵察に行くなんて自殺行為だ。まぁ、王様も俺を勇者ではなく一つの駒として見てるんだろうな。
この戦争では犠牲を最小限にとどめるなんてことを考えていたら、すぐに負けるだろう。そういった状況が王様の価値観を狂わせたのかもしれない。
正直、そういう考え方は嫌いだが。
とりあえず俺は、洞窟の周りで時間を潰してから村に戻った。
──夕暮れ時、村に着くと、すでに軍の人達が到着していた。
なにやら全身鎧の大男が村長と話をしている。
「あぁ、この方が勇者様のユーリ・フェンネル様です」
「よろしくお願いします」
軽く頭を下げながら男と握手をする。
「この軍の隊長を任されている『アセビ』という。こちらこそよろしく頼む」
アセビか。かなり名の通った有名な騎士だ。
今回はアセビを寄越すようにと王様に言っておいたのだ。その腕を見込んでな。
「あぁそれと、勇者様に頼まれていた物ですが、先程村長の家に運び入れておきました。ご確認ください」
その『頼まれていた物』とは、まぁ切り札のことだ。
「ありがとうございます! では、出発は明日の早朝でどうでしょう?」
心の中でガッツポーズをとりながら質問する。
「了解しました」
明日は久々の戦闘だな。あんまり気は進まないが。気を引き締めないとな。
──翌朝の早朝、早速俺は軍の人達を洞窟まで連れてきた。ちなみに偵察の結果は、入り口付近に魔族が一体陣取ってて中に入れなかったと伝えてある。まぁ、この情報はアヤメ村の住民が命懸けで手に入れた情報だけどな。
「ここが洞窟の入り口です」
そう告げたあと、俺は背負っているバッグを入り口に立てかけるように置く。
奥まで入ってしまえばそれなりの広さはあるが、入り口付近は大人が3人並んで歩くのが限界なくらいに狭い一本道だ。
「総員! 二列に並べ!」
まぁ、剣を振るのだから二列が妥当だな。
「アセビ殿。勝てるんですか?」
「正直言って、勝てるなんて1ミリも思ってないですよ」
そう言ってニコっと笑顔を見せる。
その笑顔はどこか寂しそうで、それでいてとても強い眼差しを向けていた。
「ですが王様は勝てるとおっしゃっていました。ならば仕える者として、主人を信じるまでですよ」
俺はその返事に対する言葉が出なかった。自分がこれから死ぬかもしれないという現実を受け止められるというだけですごいことなのに。
アセビは目を瞑って深呼吸をした。最後の覚悟を決めたのだろう。
「………アセビ殿!」
それまで震えて動かなかった唇が急に開いた。
「ユーリ様、どうなさいました?」
「新たな作戦の提案です。……入り口に陣取っているという一体の魔族を倒したら引き返して下さい……あとは、俺がやるんで!」
アセビ殿の強い眼差しに憧れたのだろう。できる自信はないが、自分も命ぐらいかけてやろうと思った。
62番目の偽勇者 〜全ては最後に『俺』が勝つために〜 五十嵐 天秤 @nekotyaan_7
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