ピース&ラヴ
ねこあな つるぎ
第1話 真の勇者
勇者が暮らす村があった。
「勇者よ、いよいよ旅立ちの時だな」
「親父……、そうか。いよいよ旅立ちの時か」
俺は、この世界を苦しめる魔王を倒しに行かなければならない。
そういう
じっと見つめていると、凄く勇気が湧いてくる。何せこいつは毎分六百発の鉛玉を吐き出すモンスター。いや、どんなモンスターでも一瞬で消し炭にできるモンスター以上の化け物だ。
聖剣だとかそんな時代遅れなものを勇者が持つ訳がない。相手が魔法を使ってくる前に撃ち殺せないではないか。やはり今の時代、勇者の武器といったら商人が安く提供してくれるマシンガン以外にはないだろう。
「親父。俺は必ずや魔王を打ち倒し、この世界に平和を取り戻してみせる!」
俺が顔を上げ、力強く言い放つと、親父も力強い頷きを俺に返してくれた。
「よくぞ言った、我が息子よ! いや、勇者よ! だがな、お前一人の力では決してその偉業を成し得ることはできんだろう」
「わかってる。マシンガンが使える僧侶や魔法使いが欲しいところだな。あとは、そうだな――――近接戦闘職は要らないな。武闘家とか戦士なんて何の役に立つ?」
「違う! 勇者が足りておらんのだ! 魔王は複数いる!」
「なっ――――なんだってぇ!?」
俺は心底驚いた。そして同時に思う。そんな馬鹿なことがあってたまるかと。
魔王は一人、それは世の理みたいなものだろう。その禁忌を破るとは、この国の魔王共はなんて卑劣で卑怯な奴らなのだ。たった一人の勇者が、複数の魔王を同時に相手になどできる訳がないではないか。
勇者と魔王の戦いといったら、肉を切らせ、骨を絶つような壮絶なものになると相場が決まっている。
今から始まろうとしていた俺の華々しい魔王討伐に、いきなり暗雲が立ち込め始めたその時だった。家のドアを蹴破って、村人Bが姿を現す。
「安心しろ! 勇者よ! お前は一人じゃない!」
「村人B! まさかお前もついて来るつもりなのか? いや、しかしお前は――――」
そこで俺はハっとした。村人Bは、黒い鉄の塊を肩から提げていた。
「まさかそれはっ――――どうしてお前が勇者の武器を!?」
俺の言葉に、村人Bはニヤと笑った。
「決まってるだろう。俺も勇者だからさ」
「なっ――――なんだってぇ!?」
本日二度目の驚きだ。まさか村人Bが、ただの村人Bではなく勇者だったとは。
一瞬、では俺の方が勇者などではなく、ただの村人Aだったのかと思ってしまったが、そんなことはないだろう。
何故なら、魔王は複数いるのだから。勇者だって複数いて当たり前だ!
「ともにゆこう。勇者A。みんなも待ってる」
「みん、な……?」
俺は眉を顰めたが、すぐに理解が及んで顔を綻ばせた。
俺の家の前には、村のみんなが集合していた。皆が皆、肩からマシンガンを提げ、勇者の風格を漂わせている。
「親父……。これなら魔王がいくらいようと、全員蜂の巣にできそうだ」
しかし、親父からの返答はなく、後ろを見やると親父はタンスを漁っていて、黒い鉄の塊を中から取り出していた。
「親父……。そうか、親父も勇者だったのか」
「ああ、ゆくぞ我が息子よ! いや、勇者Aよ!」
アルファベットを振られると途端に勇者の存在が安っぽくなってしまうが、沢山いるのだから致し方ない。俺は勇者A。魔王AからZのどれかを倒す勇者だ!
俺達勇者パーティは、町の外に出るや蔓延る魔物共をマシンガンで粉々にし、減った弾薬は道中にあった町で補給しながら順調に進み、ついには魔王城の前まで辿り着く。
しかし、そこで俺達は驚愕の光景を目の当たりにした。魔王城がまるで祭りの出店のように軒を連ねて立っているではないか。
魔王が複数いるのだから予測できたことではあったが、国家予算の無駄遣いに俺達は強い憤りを覚えた。
「こんなものを沢山作って、この国の政治家共はいったい何をやっているんだ!」
そうだそうだと、皆も俺の声に間髪入れずに賛同する。国家予算には限りがあるのだ。こういう無駄な物を作る前に、もっとやるべきことがあるはずだろうが。
「恐らく、魔王共から賄賂を送られたのだろうな。国民の為に尽くす立派な方々も多いのだが…………」
親父は声を落としていくと、やるせないような顔で拳を握って俯き、俺もその時親父と同じ想いで、口からこんな言葉をこぼしていた。
「腐った奴はどこにでもいる、か……」
「しかし勇者Aよ! この城全てを我々の手中に収めれば、児童養護施設などに再利用もできる!」
「魔王城を児童養護施設に!?」
その発想はなかったと、俺が驚愕の眼差しを向けていると、
「ああ、それに警察署や消防署、無論美術館としても使えるだろうな」
親父はそう続け、俺はその言葉に笑みをこぼした。魔王城は一つ一つが大きく、どれもこれも凝った外観をしているのだ。なら内装にだって期待できる。美術館なら手を加える必要もなく、そのまま使えるのではなかろうか。しかし、
「差し迫っての問題は、維持をするのに莫大な費用が掛かるということか……」
「勇者Aよ! まずは魔王を倒してからだ!」
ああ、と俺は親父に頷きを返し、一番近い魔王城の中へと入っていこうとした、その時だった。
「我ら! 魔王軍四天王!」
そんな声が頭上から山ほど降ってきた。魔王の数だけ四天王もいるということなのだろうが、そのセオリーを無視した登場の仕方に俺達は強い怒りを感じずにはいられなかった。
「貴様ら! いっぺんに来て恥ずかしくはないのか! 順番に来い順番に!」
そうだそうだと、皆も声を上げる。まったくセオリーというものを無視しおって。
しかし、四天王達は俺達の抗議の声を一笑にふすように、揃いも揃ってふっと笑い、俺達にこう言ってきたのだ。
「貴様ら勇者達がパーティを組んだように、俺達もパーティを組んだのだ!」
「なっ――――なんだってぇ!?」
今日何度目の驚きだろうか。その可能性は考慮していなかった。非常にまずい状況だ。
どう考えても多勢に無勢、奴らに一斉に襲って来られては、俺達はあっという間に奴らにのまれ、勇者の武器を封じられてしまう。乱戦でぶっ放せばフレンドリーファイアを起こすからな。
そうはさせるかと、俺は空に向かってマシンガンをぶっ放し、先制攻撃を放った。
「数が多いんじゃぼけえええええええええ!!」
「ぐぁああああ!!」
「四天王Cィイイイイイ!!」
「慌てるな! 奴は我ら四天王の中でも最弱」
「待て。五十八番目くらいの強さではなかったか?」
「いや、二十三番目くらいだったように思うぞ」
「何を言う! 俺こそが二十三番目の強さを持つ四天王! 奴は俺よりずっと下なはずだ!」
違うだのそうだの、あーだこーだとやられた奴の強さで四天王達が言い争っている隙を、俺達は見逃さなかった。
「くたばれやああああああああああ!!」
「ぐああああああああああああ!!」
全員で一斉射撃をかまし、四天王達を蜂の巣にしてやった。いや、中には途中の町で買った
しかし、少々不安だ。いの一番にぶっ放したせいで、弾薬が心許ない。これで悪鬼ひしめく魔王城の中を突き進んでいくことが出来るのだろうか。
でも俺のそんな心配は杞憂に終わり、俺は誰にも出会うことなく、魔王の間へと辿り着いた。
「勇者よ、待っておったぞ」
「ああ、俺もお前にあえる日を心待ちにしていた。だがその前に聞かせて欲しい。どうしてこの城にはお前以外の者がいない」
魔王はぐっと唇を引き結び、俯き加減に頭を揺らすだけで、中々俺の問いに答えようとはしない。勿体ぶらずに早く言えと言いたいところではあるが、魔王の悲しげな表情を見ていると、何か事情があることを察してしまい、俺は何も言えなかった。
「予算の問題だ」
「…………そうか」
なんとも世知辛い話だ。まさかこんな所にまで不景気の波が押し寄せていようとは。消費税も上がるばかりでちっとも下がらず、将来に不安を抱えているのはきっと俺だけではないはずだ。
「冗談だとも。勇者と魔王の逢瀬の場に他の者は不要と思ってな」
お前男だろうが。俺はそう思いつつも、思わず笑みをこぼしていた。
「決戦の場を整えてくれたという訳か」
「ああ、このフィールドには俺とお前しかいない。さぁ、今こそ雌雄を決しようぞ! 勇者Aよ!」
「おう、望むところだ! 魔王A!」
しかし、俺がマシンガンを構えた瞬間、魔王も懐からマシンガンを取り出し、即座にぶっ放してくる。
俺は咄嗟に横っ飛びして魔王の間にあった大きな柱の陰に身を滑り込ませ、何とか難を逃れたが、心は大きく動揺していた。
どうして奴も勇者の武器を持っている……。まさかっ――――引きこもりの代名詞のはずの魔王が、魔王城を出て町に買いに行っていたとでもいうのか!?
「勇者Aよ。貴様の疑問に答えよう」
俺の心を見透かしたように、魔王は言う。
「この武器は商人から買ったもの。ここへ売り込みにきた死の商人からな!」
「なっ――――なんだってぇ!?」
あいつら、ただの商人ではなく死の商人だったか! 渡ってきていたのか、この世界に……。ずっとおかしいとは思ってたんだ。剣と魔法のファンタジー世界に現代兵器があるなんてな。
「くそっ! 俺達を手のひらの上で踊らせやがって……」
「ふっ、我もお前も、死の商人の被害者だったという訳だ。奴らはどこにでも姿を現し、戦争を煽っては武器を売り込む」
そうだ。奴らを倒さぬ限り、この国に平和が訪れることは決してない。
「魔王よ。一つ提案なのだが、俺と手を結ばないか?」
「なんだと!? 魔王が勇者とだと!」
「ああ、俺達が手を結べば無敵だ。死の商人撲滅運動だってきっと成功する。この国に平和を取り戻せるんだ! だから俺と一緒に」
俺の言葉を遮るように魔王はふんと鼻を鳴らす。
「くくく。勇者よ、お前は大きな勘違いをしている」
「どういうことだ。勇者と魔王は決して相容れぬ存在だとでも言いたいのか!」
昨今はそうでもないはずだ。勇者と魔王が手を取りあう物語は沢山ある。
「そうではない! 真の黒幕は死の商人などではないと言っておるのだ!」
「なっ――――」
もういい。この展開にも飽きた。俺は少しだけ驚いたふりをしながら柱の陰から顔を出すと、魔王に問う。
「魔王よ。ではお前の言う真の黒幕とは誰だ」
くくく、と悦に入るように笑い、魔王はたっぷり間をあけた。勿体ぶらずにさっさと答えろ。
「決まっておろうが! この世界の真なる支配者、神だ!」
「なっ――――なんだとぉ!?」
これには驚き疲れている俺も流石に驚いた。神なんてものは、縋りつきたいがために生み出したタダの偶像だとばかり俺は思っていたのだが、実際にいたのだな。
「さぁ、神よ! 汝が生みし神物のもとに舞い降りよ!」
俺がそんなことを考えていると、まるで捧げでもするように魔王がマシンガンを天に翳し、頭上から光が降り注ぐ。
襖と一緒に黒幕が顕現する。襖の後ろから凄いプレッシャーを感じるが、どうして襖も一緒に降臨させた。重度の恥ずかしがり屋なのだろうか。謎だ。
「私は神です」
女の声だった。どうやら黒幕は女神様だったようだが、この世界に争いをもたらした存在とはとても思えぬ綺麗な声をしていた。だが、人は見掛けによらないという言葉もある。
人でもなければ見えてもないけどな! そのご尊顔を拝もうにも襖のガードはかたい。
「おぉ、神よ。いや、豊穣の女神よ。よくぞ我がもとへおいでくださった」
願望で物言うんじゃねぇ! お前も見えてねぇだろうが!
と、俺が心の中でツッコミを入れていると、
「さぁ勇者よ、あなたも神物を天に捧げるのです」
女神様にそう言われ、俺はハっとした。そうだ、俺も神物を持っている。俺は迷うことなく柱の陰から飛び出すと、マシンガンを掲げた。
「俺のもとにも現れよ! 神よぉおおおお!!」
神を倒すには、神の力を借りるほかないのだ。また頭上から光が降り注ぎ、変わった衣服を着た男の神が降りてくる。ただまぁ変わった形状の長槍を持ち、見るからに強そうではあった。
「私は神」
大丈夫。それはもう分かってる。目の前の黒幕を早く倒してくれ。俺がそう思っていると、俺が呼び出した神が、なんと俺に向かって喚き散らし始めたのだ。
「勇者よ! どうして私を呼んだのだ!」
俺は少し呆気に取られつつも、すぐさま言い返す。
「どうしてって、黒幕を倒してもらうために決まっているだろう。さあ神よ、早く倒してくれ」
「それができたら苦労はしておらんわ! こやつはな」
ほほほ、ほほほほと、その時黒幕の高笑いがこだました。
そして、シャっと襖が開いて黒幕が姿を現し、俺はその異様な見た目に恐れ慄き戦慄した。
腐敗した体には無数の蛆がたかり、奇怪な生物が纏わりついてうぞうぞ這いまわっている。
「この時を待っておったぞ!
「私は待ってはおらなんだ。ええい、どうして高天原へ戻れん!」
「くくく、決まっておろうが!」
そう言ったのは魔王だ。しかし、声は俺の後ろからした。お前いつの間にこっちにきた。
「ここは決戦の場。何人たりとも決着をつけるまで外に出ることはかなわん!」
「ええい、余計な真似をしてくれる魔王だ。
「ほほほ、余所見などしている暇があるのかえ」
黒い衝撃波が飛んできて、俺の意識はそこで一度ぷつりと途切れた。
しかし、すぐに意識が戻り、傍に倒れ伏した自分の遺体が目に入った。
「伊邪那美よ。そなたが千の人を殺そうとも、私が千五百の人を生み出すと言ったのを忘れたか!」
「ほほほ、随分昔の話をしておるな。黄泉の国で荒行に耐え、パワーアップしたこの力を見よ!」
それから俺は何度も死に、死体を積み上げたが、俺はまだ生きている。伊邪那岐の力によって。
「伊邪那美よ! そなたがパワーアップしたように、私もパワーアップしている。高天原で修行した成果を見よ!」
俺は増えに増えまくった。で、死にに死にまくった。後ろに隠れていた魔王もそうで、俺達は死体を積み上げながら、生暖かい目で神々の戦いを見守る。
「勇者よ、争いとはこれほどまでに醜いものだったのだな」
「ああ、見ていて虚しい。あと勇者が沢山いた理由が分かったよ。でも一つ気になることがある」
「なんだ?」
「どうして魔王も増えたんだ? そっちの神は殺し専門じゃないか」
「ふっ、決まっておろう」
魔王はたっぷりと間をあける。だから早く言え。その間に俺がどれだけ死んで復活したと思ってる。
「勇者が増えたのだから、魔王にだって増える権利がある」
「……そうか」
権利を主張されてはもう何も言えない。どうやって増えたかはこの際おいておくとして、俺達には生きる権利があるんだ。それに、平和に暮らす権利だってある。
この世界の真実を知った今、いつまでも操り人形では居られない。この手で、断ち切るべき時がきたのだ。俺達を操っていた糸を。
それでやっと自由になれる。だがそれには、魔王の協力が必要不可欠だ。
「魔王よ、もう一度言わせてくれ。手を取りあわないか」
「ああ、我も丁度同じことを思っていたところだ。勇者よ、この国に平和を取り戻すために、手を取りあおうではないか」
魔王が差し出してきた手を俺は取り、固い握手をしてともに平和を誓いあう。
勇者と魔王が手を取りあったのだ。これでこの国にも平和が訪れることだろう。しかし、他の国ではまだ紛争が続いている。
「俺達と同じように、糸を引く者達に操られているのだろうな」
「勇者よ、それだけではない。憎しみの連鎖もある。あの鎖を断ち切り、手を取りあうというのは中々できるものではない」
「魔王……」
お前凄いな。心を読んでないとできない発言だぞ。
「そうだな。それに人間ってやつは、争わずにはいられない生き物だ」
「そうだ、それが人の性というもの。平和を誓いあった我らももうすぐ争いあわねばならぬ。勇者よ、覚えておるか」
勿論覚えてる。
「決着をつけないとこの部屋から出られないんだったか。魔王よ、俺はここから出るつもりはない」
「なんだと!? 貴様、一生この部屋で我と過ごすつもりか!」
「ああ、それも悪くないと俺は思ってる。お前はどうだ?」
ふん、と魔王を鼻を鳴らし、他所を向く。その顔は、少し朱に染まっているように見えた。
「好きにしろ」
「ああ、好きにさせてもらう」
言ってなかったが俺はどっちもいける口だ。魔王もそうなはず。でなければ、男の俺に対して逢瀬の場などとは言わないだろう。多分。
その後、俺達は急速に惹かれ合い、魔王の間で式をあげることになった。
男同士、まさか結ばれるなんて思ってはいなかったが、この時ばかりは二柱の神も諍いをやめ、俺達を祝福してくれた。
いや、それどころかまるで夫婦のように仲睦まじく寄り添い合い、決戦の場もその役目を終えて眠りにつく。
平和的決着もまた、一つの決着の形だったというわけだ。
俺達は部屋から出られるようになり、魔王城の二階バルコニーから外に出る。
朝日が眩しい。長いこと引きこもりをしていた目には毒だ。
二柱の神が高天原へと昇っていく。
「もう夫婦喧嘩すんなよー!」
「達者で暮らせ! 我らが神よ!」
俺達は見送りを済ませると、拡声器を持って全国民に告げた。
愛は世界を救うと。そうだ、愛は世界を救うのだ。実際に俺達を救い、二柱の神を救い、この国までも救ったではないか。
「なぁ魔王。俺は世界中から紛争をなくしたい」
「ほう。しかしそれは容易なことではないぞ」
「わかってる。でも俺はそうしたいんだ。勇者の役目も終わったし、好きに生きようと思ってな」
「なら我も、もう魔王などではなく、ただのAというわけか」
「俺もただのAだし、それは困るだろう。というわけで、お前が俺に名をつけてくれ」
ふむ、と魔王は考え込むような仕草をしたが、わりかし早くそれを解き、
「……お前は我に愛を説いた。ゆえに、今後はラヴと名乗るが良い」
俺の目を見ながらそう言う。
ラヴか。ペットみたいな名前だが、Aなんて名よりはずっと良いな。
「ならお前はピースな。先に平和を取り戻そうって言ったのはお前だしな」
「ふっ、先に言ったのは我ではないように思うが、ピースか。この手を血に染めてきた我にこれほど似つかわしくない名はないな」
「俺だってそうさ。俺も沢山の魔物を殺めてきた。その贖罪を、これからするんだよ」
それから二人は、ラヴ、そしてピースと名乗るようになり、世界中を回って愛の大切さを教え、平和を説いて回りましたとさ。めでたし、めでたし。と、紙芝居を閉じると、子供達から不満の声が上がった。
「勇者か魔王、どっちか女にしろよー。男同士とかおかしいだろうー」
「そもそもファンタジーの世界にマシンガンが出てくるってどーなの。政治の話とか日本の神まで出てくるし」
うるさい。俺は、いや我はそう思いながら、棒キャンディーを懐から取り出し、子供達に与えて黙らせる。勇者よ、我はまだこの活動を続けておるぞ。何百年経とうと人は争いを止めぬが、この命尽きるその日まで、我は尽力するつもりだ。
ラヴよ、空の上から見守っていてくれ。そして、贖罪を終えたら、またともに暮らそうではないか。世界平和に命を捧げた
ピース&ラヴ ねこあな つるぎ @nekoanaturugi
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